第14話 タマ


 泥子軍団を使い捨てにしつつ、橋の様子を見に行く主人公とコボル子とフェアリ子と泥子(n)です




「だいぶとマッドゴーレム素材が溜まったな。

 帰りにも遭遇するだろうし、思ったより稼げたから今夜は少しいいものが食べれるぞ」


「それもこれも、泥子のおかげですわね。

 この泥子は泥子14でしたっけ?」


「そうだな。それくらいのはずだ」


「助かるコボ。その調子で頑張って欲しいコボ」


「うがー……(わたしが死んでも……代りはいるもの……)」




 というわけでパーティには泥子14を入れ、泥子15~18を予備兵員として引き連れて、そろそろ橋の近くというところまでたどり着いたのであった。


「あ~見事に落ちてるコボね……橋……」


 見ると、川べりに橋が架かっていたというのはわかる程度にいろんな残骸が散乱した箇所があった。木片がほとんどだが、大きい四角い石なども混ざっていて、さぞ親切にここに橋がありましたよ感を主張してくれている。

 橋桁はしげたがあったであろうところは川の流れに流されてなのだろう。きれいさっぱり片付いている。


「わたくしはあちらに飛んで行けますが、コボル子やお兄様には無理でしょうね。

 わたくしは軽く飛んで渡れますが」


 勝ち誇ったようにフェアリ子が言う。


「なかなか深いみたいコボし、流れも急コボね。

 泳いで渡れないこともないかも知れないコボが……。

 あっしのコボ犬かきであれば、泳いで渡れないこともないかも知れないコボが……」


「装備や道具のことを考えたら、あまりそういう方法はとりたくないな。

 俺だって泳げるけどな。

 多分、俺だって泳げるけどな」


「わたくしはひとっとびであちらに向えますけどもね」


 何かを主張しているフェアリ子(とその他)であったが、誰か一人でもあっちに渡れたら目的達成というわけではないので軽く無視し合う。


「じゃあ帰ろうか。そんなに甘い話は無かったということだ。

 やっぱり親方に頼んで橋を治してもらう必要があるってことだな」


 というわけで、街へと戻ることにした。


 ちなみに行きの道中で俺のレベルがひとつ上がっている。


 レベル5

 体力:16

 魔力:11

 筋力:10(8→10)

 敏捷:18(15→18)

 知力:10

 精神:10

 器用さ:11(9→11)


 魔法はまだ覚えない。知力と精神がそれほど上がっていないのが原因だろうか。

 ゲーム的にはちょうどこの辺りでほどよくイベントを消化できるぐらいの適性レベルになったことになる。


 フェアリ子もレベルが二つ上がって6までになった。これは回復アイテムを使うのが勿体ないのでレベルアップ時のMP回復目的に優先的に合成させてやった結果である。

 最大MPも増えて回復魔法の使用回数も増えたので一石二鳥であった。


 コボル子にはなにも合成していないので、レベルは5のままである。留守番しているグリスラ子とレベル差をつけるのもどうかと思った配慮があったりなかったりの結果だ。


 とにかく。

 目的分の資金は十分に稼げた計算であるために、街へと戻ることにした。


 その時。


「この匂い……モンスターコボよ!!」


 とコボル子が叫んだ。


「匂いでわかるのか?」


「全部のモンスターがわかるってわけじゃないコボけど……。

 この特徴的な匂いは離れていてもわかるコボ!

 あっしの天敵がくるコボよ!」


 天敵? そんな設定あったっけっと記憶を探るも、何も思いつかない。


「で、どっちの方向ですの! それによってわたくしは一刻も早く避難の準備を……」


「あすこの草叢くさむらコボよ!」


「たしかにガサガサと動いているな」


「では失礼いたしまして……」


 とフェアリ子が俺達の陰に隠れた。


「泥子14! 前衛は任せたぞ!」


「ウガー!! (おまかせいたし!)」


 と出てきたのはまっ黄色のピチピチ全身タイツに身を包んだ幼女(に勘違いしてしまいそうなほどの18歳以上)だった。

 頭には猫耳がついている。あと尻尾がながくてくねくねしている。


「ああ、天敵ってそういうことか。

 人猫ワーキャットだな」


「犬をモチーフにしたあっしとは犬猿ならぬ犬猫の仲コボよ!」


「それにしても……」


「どうしたのですか? 兄様?」


「いや、ワーキャットの出没地域は橋を渡って向こう側だったはずなんだけどな。

 はぐれ猫ということか」


 ゲームでも厳密にきっかりと出現地域が決まっていたわけではない。

 レベル上げなどでコツコツモンスターと戦う必要が無いぐらいのゲームバランスだったために出現率の低いモンスターとは出会わないことが多いが、可能性はゼロではなかったはずである。

 もちろん、いきなり格段に格上のモンスターが出てくることもなくひとつ先の地域のモンスターやもっと前の地域のモンスターが混ざるくらいのものなので遭遇して窮地に陥るということでもない。


「まあいいさ。

 今の俺達なら十分倒せるだろう。幸いにして一匹だけのようだしな」


 と、こちらが身構える前にワーキャットが飛びかかってくる。


「ニャー!!」


 狙いはコボル子のようである。


「コボー!!」


 気合で腕をクロスして攻撃を防ごうとするコボル子だったが、鋭い爪に引っかかれてしまったようだ。


「泥子を無視して、コボル子に!? さすが犬猿ならぬ犬猫の仲ですわね!」


「たまたまだと思うぞ。中衛に居る限りは攻撃される可能性は捨てられないからな」


「まだ回復の必要はございませんね?」


「大丈夫コボ。こんなクソ猫にやられるほどやわな体してないコボから」


「では様子をみておきますわ」


「素早さには定評があるモンスターだが……」


 さぐりさぐり俺はワーキャットに近づく。

 猫というのは怖いものだ。(そして可愛いものでもある←猫好きに対するフォロー)

 いきなり猫パンチ気味に爪で引っ掻いてくるのだ。

 まあ俺は元々猫好きで、猫の性分を理解しているから、そんな間抜けなことにはならないのだが。

 猫の視線の下から、ゆっくり警戒を解きほぐしてやればそこそこの猫と交流できるのである。

 が、これは戦闘であり油断は禁物なのである。ワーキャットの行動がシステムの管理下にあるのなら、攻撃権は俺にあるはずだ。だからといって安心できない理由もある。

 ワーキャットはカウンター持ちだったはずだ。発動頻度は低いが反撃を食らう可能性がある。

 とはいえ、注意したところで防げるものでもないだろうし、普通に剣を振るう。


「せい!」


「にゃー!!」


 ワーキャットの全身タイツに亀裂が生じる。とりあえず1/3程度のダメージは与えることができたようだ。


「こんどはこっちの番コボよ!!」


 コボル子がワーキャットに殴りかかる。


「にゃにゃん!」


「こいつっ! あっしの攻撃を躱すなんてコボ!!」


 いくらレベルが少々上がったとはいえレアリティゼロ、特別な特徴もないコボルトであればそんなもんだろう。

 相手はただのレアリティ1なのだが、近接格闘タイプに加え素早さ特化という特別な位置づけを与えられたモンスターなのである。


「ウガー!!」


 攻撃権が泥子14号に回り、泥子がワーキャットに殴りかかる。


「にゃー!!!!」


 期待はしていなかったのだが、見事に幼女パンチが炸裂してワーキャットのタイツがほぼほぼはじけ飛んだ。残すは食い込み気味の下腹部を覆っている部分のみとなる。

 ターンエンドだ。


はやい!!」


 フェアリ子が驚くのも無理は無かろう。

 フェアリ子も素早さには少々自信があるのだ。今までの戦闘では俺かフェアリ子で第一行動権を分け合ってきた。

 だが、突如現れた猫幼女は、何事もないかのように先制攻撃を仕掛けてくるのだ。


「にゃにゃん!!」


 とワーキャットが飛びついた先は。

 運よくというか確率どおりというか、コボル子ではなく泥子14であった。


「ウガー!!」


 泥子がワーキャットの攻撃を食らう。やはり相手はモンスター。

 コボル子に攻撃を集中するとかいうそこまでのいやらしさや知能は持っていないようである。


「えっと、わたくしの順番ターンですが……」


「フェアリ子は見てろ。下手に手を出すと反撃カウンターを食らうぞ」


「わかりましたわ、お兄様!」


 背後でパタパタと浮かんでいるフェアリ子の視線を感じながら、


「せい!!」


 と振るった俺の剣は躱されることなく、ワーキャットに炸裂した。


「にゃー!!」


 と悲鳴(鳴き声?)を上げてワーキャットが倒れ伏した。


「やったコボ! にっくき相手を倒せたコボ!」


「コボル子は何もしてないでしょう? ただ攻撃を食らっただけで」


「それに橋を渡るとワーキャットの頻出地域だぞ。

 そんなテンションで毎回戦われると疲れるし、見ているだけで面倒だ」


「そうはいわれてもコボ。やっぱり猫相手の戦いは特別コボ……」




『ワーキャットが仲間になりたそうにこちらを見ている』




「どうしますの? お兄様?

 今のパーティはそれなりに機能してますわよ。

 泥子軍団もまだ数体控えてますし、この先も仲間にできるでしょうし」


「ああ、それなんだがな……」


 この段階でワーキャットと遭遇できたのは運が良かったのだろう。

 性格次第によってはだが。


「仲間にしておこうと思うんだ」


 フェアリ子に短く答えてから猫幼女に向き直る。


「というわけで、お前の名前はタマだ」


「タマにゃ? わかったにゃ。おにいたま!」


「頼りにしてるぞ」


「任せとくにゃ!」


 とりあえず、コミュニケーションは円滑に取れて、そこそこ扱いやすそうな幼女(キャラ)のようである。


「こんな猫畜生と一緒に戦うのは幾ら兄貴の命令とはいえ従えないコボよ!」


「にゃにゃ?」


 タマとしてはコボル子ほど敵対心に燃えているようではなさそうだ。

 だからといって名指しで畜生呼ばわりされたら――猫人間幼女だからあながち間違いではないのだが――聞き流すわけにもいかず、コボル子を向いてフーっと逆毛を立てて威嚇し始めた。



「コボル子がそんな心配する必要はないさ」


「ま、まさか……」


「ああ、まあそういうことだ。

 金にも余裕があるから牧場まで送ってってやる。

 今までご苦労だったな、コボル子。後はのんびり過ごしてくれ」

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