第11話 お使い開始

 フェアリ子が誘惑してきましたが、体格差、レアリティ不足、性格の不一致などもろもろの理由で、ほっぽって寝て朝を迎えました




「お兄ちゃん! そろそろ起きるぷる!」


「ん? ああ、もうそんな時間か……」


「昨夜はお楽しみだったコボ?」


「そんなわけないだろう。なあフェアリ……」


 ふと見ると、フェアリ子があられもない姿で寝ている。

 おそらくグリスラ子あたりが気をきかせて掛布団――というか端切れ――をかけているが、その下は何も付けてないことが想像される。


「おはようございまし……」


 目をこすりながらフェアリ子も体を起こし、挨拶をする。


 なんにもなかったんだけどなー。それはそれでフェアリ子のプライドが許されなかったのかもしれない。


「昨夜は、お兄様を独占してしまい申し訳なかったですね。

 ですが、毎晩というわけにもいきませんので、ちゃんとグリスラ子さんとコボル子にもローテーションで順番をお作りしますわ」


 などと正妻ぶった口調で上からフェアリ子。


「わたしはたまに体を拭いたり、お耳を掃除してもらえたらそれで十分ぷる」


「あっしもグリスラ子先輩に同じコボ」


「そうですか。それはそれで十全。

 お兄様のご負担も増えずにハッピーですわね」


 というわけで、朝食を軽くとって出発の準備を整えるためにまた部屋に戻った。


「というわけで、昨日も話したと思うが、今日から大工の親方のサラサさんの欲求不満を解消すべく、クエストに向うことになる。近くの洞窟に行ってピンクスライム狩りだ。

 とはいえ、まずは資金調達のために戦闘を繰り返すことになるだろう。

 昼過ぎからは、洞窟に挑むための必要アイテムなんかをそろえていくからな」


「ほんとにわたしは留守番しててもいいぷるか?」


「ああ。コボル子も強くなってるし、俺の装備も強くなってるからな。

 そこらの雑魚には負けない。

 人数が足らなくなった分は適当なモンスターを一時的に仲間にして凌ぐから大丈夫だ」


「あっしに任せるコボ」


「じゃあ、お願いするぷる」


「そうそう、グリスラ子の昼飯は宿に頼んであるから。

 時間になったらちゃんと食堂に食べにいくんだぞ」


「ありがとうぷる! いってらっしゃいぷる!

 あと……、万一お昼間に宿に戻ってくることがあっても、絶対にいきなりドアを開けないで欲しいぷる」


「ああ、わかった。ちゃんとノックするし、返事があってから開けることにする。

 宿の人間にも言って置く」


「ありがとうぷる」


 というわけで、俺達は出発することにした。


「まずは現状確認もかねて橋を見に行くことにしよう」


 と考えたのは。

 ゲームでは橋が落ちていると到底川は渡れない。というのも、川べりに差し掛かるとそれ以上先には進めなくなるからだ。


 だがしかし。

 この世界はゲームのようでもありゲームのようでない。

 普通に歩き回る分にはリアル世界と変わらない構造をしているのだ。


 であれば。

 橋が無くても、川が浅かったりして普通に歩いて渡れたり、川幅が狭かったりして泳げばなんとかなるレベルだったりする可能性があるかもしれないとのワンチャン狙いである。

 面倒なクエストを回避して先へ進めるのならそっちのほうが楽である。


 さらにいえば。

 川の方に向うということはゲーム的にひとつ先のエリアに踏み入れることになるためにモンスターも強化されており、それらと安全に戦えるのであれば、経験値も資金稼ぎも効率的に行える。


 それに加え。

 グリスラ子のいない穴を埋めるべく、仲間にしてみたいモンスターがそっち方面に出没するのだ。

 使えて中盤ぐらいまでだが、性格によってはコボル子と入れ替えてみてもいいと思っている。




 宿から歩いて、街の出口に到達する。


「やあ、これは昨日の旅のお方……。

 まさか! そのお連れになっているのはモンスターではないでしょうか?

 モンスターを仲間にできるというのは選ばれた勇者の証し。

 まさか、あなた様は勇者様では?」


 と門番が驚いた表情をした。


「まあ、そんなもんかも」


「昨日は知らぬこととはいえ失礼いたしました」


「ああ、気にすんな。

 でも、宿屋とか店の人間とか普通に接してくるぞ」


 と俺は浮かんだ疑問を口にした。


「商売人の連中はそうなのですよ。

 変に勇者だと敬ったりしたら、値引きやサービスを強要されると思って知らぬふりをしていたりするのです」


「そうなのか?」


「そうなのです。ですが、わたしはこれでも街に仕えるものですから。

 それはそうとして、こちらの出口に来られたということは隣街へと向かうのでしょうか?

 親方とはお会いできましたでしょうか?」


 と矢次早に質問を繰り出してくる。


「ああ、それなんだがな。

 親方とは会ったが、すぐにどうこうなる問題でもない。一応解決に向けて動き出しているところだ。

 で、こっちに来たのは橋の様子を自分で確認したかったのと、こっちの方面のモンスターと戦ってみたいと思ったからだ」


「なるほど。

 反対側のエリアとは格段に強さが違うモンスターが出没しますので。

 勇者様のことですから大丈夫だとは思いますが、お気をつけて。

 また、橋の修理にご協力いただきありがとうございます」


「まだなんにもしてないけどな」


「いえ。押し付けるというわけではないですが、勇者様が着手してくださったのなら安心してお任せできるというもの。

 あらためて感謝いたします」


「お礼は橋が治ってからでいいさ」


「そうですな。

 その際には街を上げてお礼できるように上役にも一報いれておきましょう」


 確か、ゲームでは橋が治ってお礼を言うNPCモブキャラはいたが、特にアイテムゲットみたいな褒美は無かった気がする。

 が、その辺もゲームとは流れが異なってくるのかもしれない。一般常識として。

 変に期待して期待外れでも悲しいから、期待せずにはいようと思う。


「じゃあ行ってくる」


「はい、お気をつけて!」


 というわけで、コボル子とフェアリ子を引き連れ街の外へと繰り出すのであった。

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