第12話 泥子
お留守番のグリスラ子を残して、コボル子とフェアリ子で散歩してます
てくてく歩いていると、モンスターの群れに遭遇する。
「マッドゴーレムと……」
「ブルースライムコボね」
ほんとにお前ら目がいいな。
「てきとうにやっちゃいましょう」
昨日の張りきりが嘘のようにフェアリ子は躍動感なく、さっさと俺達の背後に回り込んだ。
変わってコボル子が、
「兄貴! どうしますコボ?
マッドゴーレムはゴーレム種だけあって防御力が高いと聞いてるコボ。
ブルースライムの回復と連携されると手こずるコボよ?」
「ああ、それくらいわかってるさ。
まずはブルースライムに攻撃だな。幸い一匹しかない。初めのターンで倒せるだろう」
「なら、少しでも削っておきますわ!」
とフェアリ子がブルースライム目がけて突進していく。
空中を綺麗に舞い、高めの位置から急降下していく。
「蝶のように舞い、蜂のように刺す!!」
叫びながら、飛び蹴りをみまう。蹴るのかよ。
フェアリ子は、若干敏捷が他に比べて伸びている俺と比較しても、そん色ないくらいの素早さを持っているようだ。
だが、攻撃力に関しては蜂どころか蚊に刺されたレベルであろう。
「セラー?」
とブルースライムは余裕の表情を浮かべている。また、そんなにダメージが与えられなかった証左としてブルースライムの体操着もブルマーも買ったときのまんまのように破れや
次の攻撃権は俺に回ってくる。
「さあ、新たに手に入れた武器の力を試してみるか」
かっこうはつけたが、銅の剣から青銅の剣にグレードアップしただけである。
さほど攻撃力には期待できない。
それでも。
「せい!」
と、振るった剣によって、ブルースライムの体操着、そしてブルマーがはじけ飛んだ。
「セラセラー」
うん、一撃で倒せたようだ。これならマッドゴーレム相手にも十分通じる攻撃力だと言えるだろう。
「じゃあ、次はあっしの番コボね」
とコボル子が残ったマッドゴーレムのうちの一体に向って助走を付けての体当たりを敢行する。
「コボー!!」
「ウガー!!」
「い、いたっ! コボ。めちゃめちゃ固いコボ。泥なんて絶対嘘コボ……」
涙目になりながら、コボル子が引き返してくる。
さすがに攻撃権がコボル子にあったためにカウンターダメージまでは受けていないようだが、痛みを感じ、心理的には若干傷ついたようだ。凹んだというのか。
「素手で戦うには無理があるかもな……」
「じゃあ、わたくしはこれで……」
とフェアリ子が、戦線から離脱しさらに後方へと飛んで行った。
「次のターンでは回復魔法を使いますから~。それまでには戻りますから~」
と遠くで手を振っている。
まあそれは優れた戦術でもあるといえる。紙装甲のフェアリ子が攻撃を食らうと回復が追いつかなくなる可能性があるからな。
マッドゴーレムは固いのだ。
そして攻撃力も高い。ミスも多いのだが。
マッドゴーレムの容姿といえば、元々は全裸で単に体中に泥を塗りたくった――それはもう塗りたくって皮膚が一切見えないくらいに塗りたくった――ただの変態幼女(っぽい見た目の18歳以上)である。
なのに、ゴーレム種というだけのほんのささいな理由から防御力がこの一帯のモンスターの中では段違いに高いのである。
単純に物理で戦うには厄介な相手だ。
魔法が使えれば他の戦いようはあるのだが、まだそんなレベルにもなってなく、そういったモンスターも仲間にできていない。
ラミアの吸血は防御力無視だから安定してダメージは通るはずで、先に一匹仲間にしておけばよかったかとも思ったが後の祭りだ。
なに。
勝算があってこっちへと赴いたのだ。多少の被弾は覚悟の上である。回復アイテムもそこそこ持っているしフェアリ子だっていることだ。
「コボル子。どちらが狙われているかわからんが、一撃や二撃で死ぬような攻撃じゃないはずだ。
相手の動きを良く見て躱せそうなら躱せよ」
「わかったコボ!」
マッドゴーレムの一体がのそのそと動き出した。
「こっち来るコボ!」
「すまんな。痛いだろうが耐えてくれ。躱せそうなら躱せよ」
「ウガー!!」
マッドゴーレムが腕を振り上げる。ゴーレム種の攻撃は基本威力は高いが、命中率に難があり、だいたい――こちらのレベルやステータスにもよるが――1/3から半分近くは躱せたり、無効化できたりする。
が、
「コ、コボーーーー!!」
「きゃあ! コボル子が、吹き飛んだ!!」
「大丈夫だ死にはしない……はずだ……」
「そう……コボね……。
だけど……かなり……辛いコボよ……」
よろよろと起き上がるコボル子。
一方残った――今攻撃権が回って来ているはずの――マッドゴーレムはまだ動かない。
「ほんとに大丈夫? 次のターンで回復魔法使ってあげますから、それまで辛抱なさいね」
「助かるコボ……」
と、コボル子が戦線に復帰する。
マッドゴーレムはそれを待っていたようだ。のそのそとコボル子に向って歩き出す。
「ま、またあっしっすかコボ!?」
「まあ、そういうこともあるわな」
「死なない限りはわたくしの回復魔法で全快できますわ」
「死なないとは思うコボけど……」
いまいち覚悟が決めきれないコボル子のようであったが、それほどまでにマッドゴーレムの攻撃は重く、そして痛かったのだろう。
そして、覚悟の如何に関わらず、相手がコボル子をターゲットにしたのなら、それはもう逃れようのないシステム上の
「ウガー!!」
「コボー!!」
運悪くコボル子は、攻撃を食らい、今度は吹き飛ぶのではなくその場に崩れ落ちた。
みぞおちあたりにマッドゴーレムのパンチがめり込んだのだ。
見た目は幼女のモーションのゆっくりとしたパンチである。そこまで痛いか? 腹筋に力を入れれば――コボル子はそれなりにスポーティな筋肉質の体だ、あくまで幼女にしてはという但し書きが付くが――耐えられそうなものだが、そういう問題でもないらしい。
「うん、まだ余裕あるだろ? コボル子」
「まあ、ないことはないコボ」
「じゃあ、フォーメーションを変更するぞ」
と、2ターン目の前の作戦会議を始める。
「どうなさいますの? お兄様?」
「今までは俺とコボル子が前衛でフェアリ子が後衛というフォーメーションだったが、俺が中衛に下がる。あとはそのままだ」
「それって……コボ?」
「ああ、あの攻撃はちょっと食らってみたい気もするがあんまり何度も食らうもんじゃないからな。中衛ぐらいでたまに食らうのがちょうどいい。
すまんが前衛に残るコボル子で引き受けてもらう。
幸い相手は二体だし、二体だけであればコボル子も耐えきれることがわかった。
ターンの初めにフェアリ子に回復してもらえば危険は少ないだろう。
素早さはこっちが段違いに有利だから、先制される心配はしなくてよさそうだからな」
「確かに……、危険ではないコボね……」
「痛いのは我慢してくれ」
というわけで、フェアリ子は完全に回復役に回った。
俺とコボル子の攻撃を一体に集中するも、固いマッドゴーレムはそのターンでは倒しきれない。
2ターンかかってやっと一体仕留めることができた。
そして、もう2ターンかけてもう一体も倒す。
さすがにコボル子も毎回攻撃を受けることはなく、2~3回躱すことができたから思っていたほどの負担にはなっていないだろう。
一度俺もマッドゴーレムの攻撃を食らったが、確かに痛いがコボル子の痛がり方ほどな感じではなかった。俺の防御力との差とか装備の差がでているんだろうな。
とにかく。
初戦のマッドゴーレム戦は危なげなく終わった。
『マッドゴーレムたちが仲間になりたそうにこちらを見ている』
例によって二体のマッドゴーレムが仲間になりたそうにこちらを見ているようだ。
「よし、一体はパーティに入れるぞ。もう一体もキープだ。
名前は……『泥子』と『泥子2』だな」
「また、安易な……」
「しょうがないだろう。いちいち名前を考えるこっちの身にもなってくれ」
「よろしくコボね。泥子と泥子2」
「ウガー!!」「ウガー!!」
「ああ、またこういう……。
コミュニケーション取りづらいタイプのモンスターか……」
「ウガ?」
「まあいい。俺の言っていることはわかるんだろう?」
「ウガー」
「なら、お前達には頑張ってもらうことになるからな」
「ウガー!!」
「ウガー!!」
というわけで、本日のとりあえずの目標の一つである資金集めに向けて、橋の方向を目指しつつも新たなモンスターを探しに歩くのだった。
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