第6話 清拭

 お宿でグリスラ子15の体を拭こうとしています(というところを思い出しています




 白くて小さい背中だ。幼女(に見えるが18歳以上)だから当たり前といえば当たり前だが(何が?)、普段は屋外で直射日光をもろに浴びてろくに肌も隠さず日焼け対策もしていないのにこんなに透き通る白さなのはこいつがモンスターなのだろうか。

 性格が真逆っぽいグリスラ子11でも肌は綺麗なので種族としてそういうものなのか、ゲームでのある程度のキャラメイクが引き継がれているのかも知れない。


「あの……、お兄さま、無理しないでいいぷるです」


「無理? 何が無理なんだ?」


「あの……、一日過ごしてグリスラ子15の体は汗とかで汚れているぷるでございますから。

 タオルごしとはいえ、お兄さまの手を汚すことになってしまいますぷる」


「いや、そんなこと気にするなよ……」


「よっしゃぷる!! 拭き終わったぷるっ! 明日に備えて全力で寝るぷるっ!!」


 ベッドに飛び込んだグリスラ子11に「おやすみ」と一声かけて、改めて目の前で背中を晒すグリスラ子15へと意識を向ける。


「ぐが~ぷる。ぐがーぷる」


 グリスラ子11は早くも寝息(というかいびき)を立てはじめた。全力で寝るってそういうことなのか? どっちでもいいが、うるさいようなら口にタオルでもつめてやろう。


 とにかく、グリスラ子11はもう寝てしまったので残っているグリスラ子15へと意識を向ける。


「あんなに美味しい晩御飯を食べられてグリスラ子15は満足ぷるでございます。

 普段は岩に生えたコケや、雑草を食べているので、もういつ死んでもおかしくないぷると思っています。

 というか、こんなに幸せが一気に押し寄せてきたら、絶対に帳尻合わせで大いなる不幸が訪れるに決まっておりますぷる。明日には死んでしまうかもしれない我が身ぷる。

 体を綺麗にしたところであまり意味はございませんぷる。

 ベッドとシーツを汚さぬように床で寝ますし、ちゃんと自分で綺麗にしますぷるので……」


「いや、宿屋の晩飯くらいでそんな大げさな。

 それに……、グリスラ子15の背中は綺麗だよ」


 そう言いながら俺は、タオルを手放し、素手で背中をそっと撫でる。


「ひゃ、ひゃう! ぷる……」


 グリスラ子15の体がビクリと震える。


 じゃあもう少し、刺激を与えてみるか。と、指をグリスラ子15の腰のあたりに当てて――触れるか触れないかギリギリのラインで――、そおっと首まで這わしていく。


「ぷ、ぷるぷる~」


 グリスラ子15が体をびくびくと震わせる。


「は、はあぁぁぁ」


 グリスラ子15の口からなんとも言えない吐息が漏れる。


「か、体を拭くとおっしゃったのではぷる?」


「ああ、拭いてるよ。ちゃんと。

 もっとゴシゴシして欲しいのか?」


 指からてのひらに切り替えて、背中を万遍なくさすってやった。

 あまり刺激がなかったようで、グリスラ子15は、ほっと一息ついているようだった。 

 だが、肩甲骨あたりから背中の中心へと手を這わすとやはりなにがしかの刺激は感じているようで、そのたびに肩がびくりと持ちあがる。


「じゃあ、そろそろ背中はいいかな。

 今度は前を向いてくれ」


「ま、前も……ですぷるか……?

 背中以外は自分で届きますぷるので、わざわざお兄さまのお手をわずらわせることは……」


「俺が拭きたいから、言ってるんだ。

 それともいやなのか?」


「いやではございませんぷる……」


「恥ずかしいのか?」


「それは……」


「恥ずかしがることはないさ。

 どうせこれからも長い付き合いになるかもしれない。

 あんまり遠慮すんな。あとなんでもかんでもネガティブに考えるな」


「わかりましたぷる……」


 そういうと俺の前で背中を向けて座っていたグリスラ子15は左手で胸を隠したまま、右手を使って器用に体の向きを変える。


 足は……やはり多少の恥じらいがあるのかきっちりと閉じていて。


「手」


 俺は短く伝えた。が、伝わらなかったようで。


「手? 手でございますぷるか?

 手が汚い? ああ、床を触ってしまいましたからぷるね。

 洗ってきましょうか?

 嫌ですぷるよね? こんな薄汚れた手に触れるぷるのは……」


 とグリスラ子15は右手を見つめてそっと俯いた。


「今から綺麗に拭くんだから、そういうこといってるんじゃない。

 逆の手だ。

 体を拭くんだから邪魔だろう。どかしてくれ」


「あっ、は、はい……」と素直に応じるグリスラ子15。


 小ぶりという表現すら似つかわしくない、わずかに膨らみ始めた(というか18歳以上なので膨らみ始めではなく、これでほぼほぼ成長は止まっているのですよ、実際のところ)双丘が露わになる。


 肩を拭き、


「あうっぷるっ!」


 おへその当たりに手を這わせ……、


「く、くすぐったいぷるです……」


 横腹にそっと両手を添えて優しく撫でて……、


「お、お兄さま……、タッチが……優しすぎますぷる……。

 グリスラ子15……、おかしくなりそうぷるです……」


「そうか。でもなあ。グリスラ子15の体はすっごく細くて今にも折れそうだからな。

 やっぱり力加減は弱めにしておきたいんだよ」


「あ、ありがとうございますぷる……。

 グリスラ子15の体に触れるのが嫌で、強く触れることができないわけじゃないんですぷるね?」


「そりゃもちろん」


「ほんとうにほんとうですか?」


「まじだって。じゃあちょっと激しくしてやろうか?」


「お、お兄さまがお望みぷるなら……。

 グリスラ子15はどちらぷるでも。

 お好きなようになさってかまいませんぷる……」


 そういわれても、もう少しじっくりと体を拭いてやりたい俺は、肩のあたり、お腹まわりを入念に素手で撫でるように拭きまわる。


「あとは……」


 とグリスラ子15の胸に目をやる。ここも綺麗にしてやらないとな。


 肩やお腹を引き続き撫でながら、肩のほうは徐々に下へ、お腹のほうは徐々に上へと位置をずらしていく。


 そしていよいよ。

 きゃしゃな体の中でもわずかに膨らんでいる部分へと手をあてがった。まずは外周からだ。

 正確に言うと、手を当てがおうとした。


 バチリっ!


 そんな音が聞こえて俺の手が弾かれる。少しばかり電気ショックを受けたような刺激が右手に残っている。


「ん? グリスラ子15、なんかしたか?」


「いえ、特になにもぷる。

 息をするのが御嫌であれば、金輪際呼吸を止めますぷるが……」


「そうゆうこといってるんじゃない」


 疑問に首を傾げつつも再度グリスラ子15の胸に手を伸ばす。あとはここを拭いて、両手を拭いてから仕上げに下半身、で拭きとりは完了するのである。

 まだまだ夜は長いが、あんまりゆっくりもしていられないのである。


 やはり、バチンっ! というような音とともに刺激とともに手が弾かれる。

 グリスラ子15を見るが、彼女は特に何も感じていないようだ。


「ちょっとすまん」


 言いつつそれまでソフトタッチを心掛けていたのを止めて、胸をむんずと掴むように腕を伸ばしてみるも……。


 バチバチっ! と先ほどよりも強い音と刺激と共に腕が弾かれた。

 どういうことだ?


 モンスターの中には自分の身を護るために電気を纏うものがいるが。


 確認のために、グリスラ子15の体のあちこちを検分してみる。

 腕は普通に触れる。足も。ふとももも。

 肩も背中もお腹も腰回りも。


「そんな……ぷる、あ、はぁぷる……。あちこち触られますぷると……。

 グリスラ子15は……、もう……もう……、ぷる……ぷる……」

 

 なにやら、グリスラ子15は身をよじりながらぷるぷる言ってくるが気にしない


 だが……。


 小さいお尻に手を伸ばした瞬間にはやり俺の手は弾かれる。


 結局、わかったのは胸やらお尻やら、いわゆるそういうところに手を触れることができないということだった。いわゆるそういうところである。


 そして俺は思い至った。

 元のゲームの仕様。


 レアリティが1のモンスターは、タッチ――ご褒美的なモードでのそういうタッチ――が可能で宿屋に連れて行ってそういうことが出来る。(ついでに言えば、一度宿屋に連れて行ったレアリティ1のモンスターは管理画面からいつでも同じことを繰り返せる、リプレイシステムというやつだ)

 逆に言えば、レアリティ1のモンスターは軽いタッチしかできない。


 レアリティが2とかになれば、タッチから一歩進んだことが可能になり、3になれば、もう少し深くかかわれる。寸前みたいなところまでが可能になるのだ。


 そして、レアリティ4からがいわゆるそういう営みが出来るようになるという仕様だった。


 そして、目の前に居るグリスラ子15。

 その種族はグリーンスライム。レアリティは0である。雑魚である。ノーマルのモンスターなのである。


 つまりは……、グリーンスライムとは接触できる箇所が限られている?

 それにレアリティ0のモンスターは進化することもできない。


 確認のために、ぐーすか寝ているグリスラ子11のところへ行って布団を剥がして体を触ってみる。


「お、おうぷる……。おおうぷる……」


 脇やら首筋やら耳やらを撫でるたびに声を上げるグリスラ子11。

 この辺りは普通に触ることができるようだ。


 だが、胸とお尻はやはりバチリと弾かれる。


「そういう……………………………………………………ことか……」


 結論に至ったようだ。


 だが、諦めるにはまだ早いと思う。

 自分から触るのがダメならグリスラ子15から接触してきたらどうなのか?


 ちゃんと全身を拭いてやらなければならないのだ。


「ちょっといいか、グリスラ子15」


「あ、はい……ぷる。なんでもいたしますぷる。

 死ねと言われればいつでも死にますぷる。

 その際には、ご迷惑にならないように山中深くに立ち入って……」


「そういうことを言ってるんじゃない。

 ちょっと立ってくれ」


 グリスラ子15はゆっくりと立ち上がる。

 身長の低いグリスラ子15の顔は俺の胸あたりに来ている。


 このまま抱きしめればグリスラ子15の胸は俺のお腹辺りにあたるだろう。


 確認事項はふたつ。

 ひとつは、俺から触るのではなく、グリスラ子15側から接触してきたときにも制限がかかるのか?

 もうひとつは俺の手以外の部分で触れることもままならないのか?


「そのまま俺に抱き着いてきれくれないか?」


「だ、抱き着くでございますぷるか?」


「ああ、頼む」


「わかりましたぷる」


 ゆっくり近づいて来てグリスラ子15は俺の至近で止まる。


 そのまま腕を俺の腰にまわして……、


「もっと、しっかり抱き着いてくれ」


「はい……ぷる……」


 結果……。

 他の部分は密着しているのだが、グリスラ子15の胸が当たっているはずの俺の腹にはグリスラ子15の胸の感触はなく、バチバチといいながら電流が流れているような刺激が伝わってくるだけだ。はっきりいって不快である。

 さらにいえば、俺の股間のほうでもバチバチといっている。

 要は当たり判定のようなもの。不可触のゾーンが決められているようである。


「はあ……」


 と俺はため息をついた。長く抱き着いているとどんどん電流が強くなってくるようで、次第に痛みのような感覚に近づいてくる。


「もういい、離れてくれ……」


「どれくらい離れましょうかぷる? お兄さまがおっしゃるのならこの部屋から、いえこの村から出ていきますぷるが?」


「体を離すだけでいい」


 グリスラ子15は俺の背中に回していた腕を解いて立ちすくんだ。


「すまんな。どうやら俺に拭いてやれるのはここまでのようだ」


「じゅ、十分でございますぷる。お、お気を落さずに……」


 そりゃ気落ちするだろう。これからもっと残りの個所を拭いてやれるという時に。

 ゲーム的な制約が急に実世界にも影響して現れてくるなんて……。


 気持ちは高ぶっていたものの、どうすることも出来なくなった俺は、グリスラ子15が残った部分を自分で拭いていくのを眺めながら自分の体を拭いた。


 俺の体をグリスラ子15に拭いてもらうことも考えたが――実際に少しは拭いてもらったのだが――、体の場所によってはバチバチと電流が流れてしまってうっとうしいので諦めた。


 そしてタオルと湯桶を片付けて就寝することにする。


 そして朝になったのである。


 俺は、悶々とした気分で、固い決意を胸に。牧場に向かっていた。


 いらねえ。こいつらいらねえ。


 コチツライラネエ


 さっさと経験値に変えるか、金に変えるか。

 2~3日分の宿代と最小限の回復アイテム代だけ残してあとは経験値玉にしてしまおう。

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