第6話
僕は、薄紫色の本を、本棚の隙間に押し込んだ。
潤が、尋ねた。
「もう、この辺で、解放してほしい?」
まるで僕が、捕らえられ、魔力で操り人形にされたかのように。意志も、感覚も、潤に引き渡された僕は、潤の方に顔を差し向けた。魂を抜かれた僕は、ぼんやり、潤の美しい顔を眺めた。
潤の精巧な手が、僕に伸びた。耳穴の上の骨に、潤の指先が触れた。
「潤……」
潤に、どうかされたい。
僕の口から、声にならない吐息が漏れた。
「どうしたの?」
潤は、唇の端に微笑を浮かべた。
このままでは気が違ってしまいそうだ。
「キス、して」
僕は、せがんだ。
「ふふ」
潤は、笑った。潤が耳元でささやいた。
「キスだけじゃ、すまなくなるよ? 」
僕の髪に、潤の長い指が差し込まれた。
「捕らえられて、閉じ込められたいの? 捕まえられた蝶のように」
僕の胸の内で、どうにでも、してほしいという思いと、一片の理性が、せめぎあった。
捕まえられた蝶は、どうなるのか?
雌雄の交わりも知らぬまま、短い数日を愛でられて、死に、標本にされるか、捨てられるのだろう。運が良ければ、気まぐれなお情けで、死ぬ前に、身動きできないような狭い籠から出してもらえるかもしれないけれど。よろよろと這い出しただけで、飛ぶ力も残されておらず、地面に力尽きて、獰猛な蟻たちに、よってたかって顎で噛みつかれてしまうかもしれないけれど。
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