第2話 凶悪な蟲使いが、私の身体を襲った(※性描写あり)
モックの住んでいた神聖な森から、私たちは突然水の国へとワープしてしまった。しかも、一緒にいたヒカリちゃんやサファイアさんとは離れてしまい、今私と一緒にいるのは――。
「邪悪な力を感じる。ヒカリとかいう女にはサファイアがついているから問題ないだろう。モックは1人だ。行ってくる」
「ちょっ、ちょっと! わ、私を置いていくつもり!?」
私は思わず、怪鳥の黒い翼にしがみついた。
「アァ? 俺はお前のことなんてどうでもいいんだよ。モックに死なれる方が問題だ」
「モックにクリスタさんのお願いを押し付けるためでしょ?」
「なに?」
低い声ですごんでも、その動揺は手に取るようにわかる。怪鳥だって、分かりやすいんだから。
「だって、あの時そう言いかけてた」
☆☆
「わけわかんねぇなぁ。お前、何しに来たんだよ?」
「ちょっと面倒なことに巻き込まれてな。モック、お前俺の代わりに――」
☆☆
「『俺の代わりに、邪神を封印してくれ』。そう言うつもりだったんでしょう?」
ボリポリと頭を掻いて小さな声で答える怪鳥。
「ああ、そうだよ――クリスタのやつ、なにも説明しやがらねぇし、窃盗犯のお前に味方するような言い方だったし、気に食わねぇんだよ。それに、《邪神》なんて知ったこっちゃねぇし」
嘘だ。いや、正確には嘘じゃない。確かに怪鳥は⦅邪神⦆のことを知らない。でもそれは未知のことではなくて、「忘れている」――ううん、「忘れさせられている」だけだ。
クリスタさんによって、強制的に。
☆☆
「あら、あなただって8年前、《邪神》の封印に協力してくれたのよ? あれ? 忘れちゃったの? コウ。ふふ、うふふ」
「な、なんだと?」
☆☆
だから、怪鳥だって⦅邪神⦆封印の関係者のはずなんだ。それをモックに押し付けたら。ダメな気がする。
「ダメだよ、そんなこと」
「テメェならそういうと思ったぜ」
「クリスタさんからのお願いを無下にするってことだよ」
「なっ……あの女が何も説明しねぇからだ! アレだ、『説明責任』ってやつだ!」
確かに、クリスタさんは肝心なことを何も説明してくれない。《邪神》、裏世界、そして私の記憶――。謎は深まるばかりだ。だけど、旅を続けていけば、何か分かることがあるように思えた。
「――そんな態度だから、別れちゃうんだよ。元カノ、なんでしょ?」
「うっ――」
怪鳥が顔を赤らめて怯んだ。やっぱりクリスタさんには弱いみたいだ。
「知るか!」
「あっ!」
したり顔でにやついていた私を放って、怪鳥は飛んでいってしまった。「それに、グメイナが封印に関係してるんだから、私のことだってほっとけないでしょ」っていうつもりだったのに。
ていうか、私グメイナを喚ぶ以外魔法を使えないのに。襲われちゃったりしたらどうするの!?
「やっと1人になったね……ずっと待ってたんだ……」
噂をすれば。振り返ると、隠し切れない邪気をまとった男の人がニヤニヤと笑っていた。
「あの怪鳥とやりあう勇気はないからね――ターゲットは君でもよかったし、好都合だよ」
「あなたも裏世界からやってきたんですか?」
どうやらこの人は肥満体質のようだ。だるまのような大きな体を揺らしながら、鼻で荒い呼吸をしている。黒縁のメガネ、曇っちゃってますよ。
「いかにも。《邪神》の封印に関係した連中を殺すように言われている」
「言われている」? 裏世界からやってきた人たちは、ただ無計画に私たちを襲うわけじゃないみたいだ、誰か首謀者がいて、その指示に従って動く下っ端ということ――?
まさか、その首謀者が、《邪神》なの?
「あなたたちが私たちを狙う理由はなに?」
肥満体質の男の人は、身体を揺らしながら笑った。
「カッカッカ! そんなことボクがベラベラとしゃべるわけないだろう! キミはこれからボクに殺されるんだからね」
簡単に話してくれないか――。でも、この人の夢は、勝手に私の頭に流れ込んでくる。
☆☆
「え、クビ――?」
「ああ。悪いけど、人手も足りているし……」
「なぜですか店長! ボクはだ、誰よりも昆虫を――この店を愛しています! なのになぜ――」
「あのさ、愛とかそういう問題じゃないんだ――君はちょっと、熱心すぎるというかね……そういうのを、うちは求めてないんだ。ただ無難に接客してくれればよかったんだ」
「熱心なことの何が悪いというのですか!」
「顔が近いよ――あーもうわかった、はっきり言うよ! 君が接客すると、お客様がちょっと引いてるんだよ! 他の店員のほうが売りつけるのがうまいんだ! 君はなんというかさぁ、オタっぽいんだよ! 自分では気づいてないだろうけど」
「お客様が、引いてる――? そんな、昆虫ショップで働くのがボクの夢だったのに――なのに――」
「じゃ、そういうことだから、あ、いらっしゃいませーっ!」
「さよなら、ヘラクレスオオカブティー……」
☆☆
この人の夢は、1度は叶っていた――だけどクビになってしまったのか。
「……あなたの一生懸命さ、分かります」
「何ィ? 知った風なクチをきくんじゃない! 消えるがいい!」
突然、男性の両手が黒く輝き。地面に黒い魔方陣ができた。私と同じ、闇魔法!
「人の心に棲みつきし闇、その深淵に這いよる蟲よ、その粘液で正義のすべてを溶かしつかせ!」
「蟲――でもあなたは――っ!」
魔方陣の中心から現れた怪物は、イソギンチャクのような紫色のムシ――甲虫じゃない、ワームだった。爆弾魔と花火、花屋さんと枯らせる力、甲虫と蟲――裏世界って、そういうことか!
敗れた夢を別の邪悪な力として叶えさせる、それが裏の世界――!
「ぼうっといていいのかい? 行け、ボクの蟲たちよ!!」
「!」
男性が手を伸ばすと、触手たちは一斉に私に襲い掛かってきた。考え事をしてる場合じゃない、私も!
「人の心に棲みつきし闇、そのなんたるかを知る全知の獣、その咆哮で悪しき闇をなぎ払え!」
グメイナ、来て!
「グルルルル……」
1人きりの今、グメイナだけが頼りだ。
「よろしくね、グメイナ!」
「ウー、ウー!!」
こちらを振り向いて、元気に吠えるグメイナ。だけど。
「その獣の調べはついている! いけぇっ!!」
「グルッ!?」
「グメイナ!」
触手たちは、グメイナのたくさんの拘束具の上から全身に巻き付いた。きめ細やかな毛並みには変な液体が染み出し、苦しそうだ。巻き付いてなお、ビチビチと動き回っている。
「グルゥ」
おおかみぐつわのさらに上から巻き付いた触手たちのせいで、今まで以上に口を開けられないみたいだ。なんてひどいことを!
「これでキミの召喚獣は封じた! まだまだボクの蟲たちは残っているぞ! いけっ!」
第2波が私を襲う。他に魔法が使えない私に、成す術はなかった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
まず触手たちは杖に巻き付き、その後に――私のお腹に巻き付いたかと思うと両手両足を縛ってしまった。私の右腕を縛る触手の先は、男性の手につながっている。
「くっ――」
「魔法少女と蟲、これって鉄板だよねぇ」
「そんなのだからオタって言われるんです!」
男性は驚いた表情を見せると、右手を強く握った。それに呼応して、私の右腕が締まる。
「い、いたいっ!!」
「なんでキミがそのことを知ってるんだ、答えろ!」
「そ、それは――」
私はそういう能力なんです、って言っても信じてもらえるわけがない。それよりも、この状況――絶体絶命だ!
あれもこれも、あいつのせいなんだから! 私は、恨みを込めて天空に叫んだ。
「怪鳥の、バカあああああああああああああああああああああっ!!」
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