第2章 憎悪の光と、優しい闇

第1話 水の国で、新たな闘いが始まろうとしていた

☆☆


 「裏世界からやってきた人間を対処する方法は2つある。もちろん、知っているわよね?」


 私が問うと、少女はその冷たい眼――無表情な顔の一点も変えることなく、言った。


「『浄化』、もしくは『破壊』です」


「大正解! だけど私は『破壊』のほうが好みでねぇ――ずっとクリスタのそばにいるけど、あなただって、そうなんでしょう?」


「黙れ、です」


 少女は、私に向かって超高速の弾丸を2発、放った。私のが、それを防ぐ。


「アハハ! そのむき出しの敵意――善人ぶったって無駄なのよ。所詮、『浄化』なんてきれいごとだわ」


「行うのが難しいからこそ、人は挑戦する、です。――私も」


 少女が膝をついた。今の弾丸で、魔法力をほとんど使い切ってしまったらしい。


 しめた。


「何を言っているのかしら?」


ゆっくり、ゆっくり私は彼女に詰め寄る。私のの先が、彼女の首を刈りとろうと睨む。


「人は、できることよりも、できないことの方が多い、です。だからこそ――挑戦する、です。に」


ァ?」


 思わず笑ってしまう。この小娘、冷徹なふりをしてやはりまだまだ感情的なのね。


 未熟者。こんな奴に、私が負けるなんてありえないのよ。


「せめてその信念をあの世に持っていくことね」


「私は――お話が得意じゃない、です。頭の中で、言葉がごちゃごちゃになって、自分が伝えたいことが一体何なのか――分からなくなる、です。力、は、簡単です。力に言葉は要らないから。だけど、それじゃだめです。他人を傷つけてばかりだった私を、変えてくれたのは――」


「なァにぃ? 急にベラベラと。遺言ってやつ? だとしたら本当に笑えるわ。さっさと――死になさいっ!」


 私は、愛を振りかざした。しかし、その刃先は、力を失ったはずの拳銃に止められた。


「な――」


 私がこんな少女に負けるなんて、ありえ――


 「ミヅキの、言葉です!」



☆☆


「殺しちゃだめだよ!」


 爆弾魔との戦闘を終えた私たちは、先に森を出ようとしていたヒカリちゃんとモックに追いついた。そこでは、植物属性の女の子にヒカリちゃんがとどめを刺そうとしていた。


「……何?」


ヒカリちゃんが敵意をむき出しにして私を睨み付けた。今まで見たことのないその表情に、少しひるんでしまう。


「2人仲良くお友達ごっこして、それで偽善的にでもなったわけ?」


「そ、そんなつもりじゃ……」


 魔法学校にいたころ、ヒカリちゃんは本当にやさしく、明るい女の子だった。でも、怪鳥がみんなを殺してしまってからは――別人のような冷たい眼をするようになってしまった。全部、この――


 怪鳥の、せいなのかな?


 「見なよ、あの爆弾魔とこの腐った女のせいで、きれいだった森がめちゃくちゃにされちゃったんだよ? 今制裁しなきゃいけないの、弱っている今のうちに!」


「制裁――」


 まさかヒカリちゃんから、そんな言葉が出るとは思わなかった。


「でも――その子は、その子の夢は――」


「やばいっ! 逃げられるっ!」


 突然、サファイアさんが叫んだ。見ると、魔方陣の形が少し変形している。あの、丸い外周の外側に描かれたギザギザの紋様――あれは。


「ワープの紋様……」


「ワープ?」


 ヒカリちゃんがつぶやいたかと思うと、その女の子に向かって走っていった。ヒカリちゃんの右足が、魔方陣の上に乗る。


「ヒカリちゃんっ!」


「ったく、しょうがないなぁ!」


 高く飛び上がったのは、サファイアさんだった。その人間離れした跳躍力で、一瞬で魔方陣へとたどり着く。


「何? 私の制裁を邪魔しないでよ!」


「君が『破壊』を選ぶなら――私は『浄化』を選ぶよ」


「え?」


まずい、2人のどちらかが彼女を殺してしまう。そう思った瞬間、魔方陣がさらに激しく輝き始めた。


「俺たちも行くぞ!」


怪鳥が叫んだ、慌てて、私たちも魔方陣に近づく。そして。


 「テイス……もう一度言って……『愛してる、サルビア』と」


 私たち全員の足が、大きな魔方陣に乗った。一瞬目が眩み、そして、気が付いたころには。



 私たちは、暖かな日差しが差す港町にいた。


「ここは――どこ?」


「ここは水の国だ。ちくしょう、あいつと一緒にワープしちまったか」


 後ろから、怪鳥の声が聞こえた。思わず振り返る。


「怪鳥っ! ……あれ、他のみんなは?」


怪鳥は心底めんどくさそうに頭を掻いた。


「サファイア、モック、テメェのダチ――近くにはいねえみたいだ」


 もしかして、バラバラになってしまったのだろうか。この、異国の地で。


 サルビア――それがあの子の名前。そして、私の頭に流れた映像、彼女の隣にいた男がテイス――。サルビアが殺されてしまったら、テイスは悲しんだだろう。逃げられてしまったけど、今はそれでよかった気がした。


 「ったく、あめーよ、テメェは」


「なっ、なに!?」


「顔に書いてあるんだよ、分かりやすい奴」


 んもーっ、よりによって、なんでこんな奴と一緒なわけ? いったいどこに行っちゃったの、ヒカリちゃん!



☆☆


「やぁやぁ、どうやら、2人きりみたいだねぇ」


陽気に話しかけてくる、サファイアとかいう女。本当に腹が立つ。


「あんたのせいで殺し損ねたじゃない」


「まぁまぁ。『破壊』だけがすべてじゃないんだから」


「『破壊』……? あんたのその、ちゃんとものを説明しないとこ、嫌いだわ」


 えへへ、とはにかむサファイア。笑顔がかわいいのがさらにむかつく。


「今度はちゃんと説明するってば。えっと、『破壊』っていうのは――」


 その瞬間、邪悪な気配を感じた。サファイアの方が一瞬早い。この嫌な感じ――さっきの女?


 「どうやら2人きりじゃなかったみたいだね。近くに1人、少し離れたところに2人だ。行こう」


 今度は、逃がさないから。

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