5羽目 風船の中に入ったドバト
ぶおおおおおお~~~~~~~!!
「くるっく~くるっく~くるっく~くるっく~。何だろうなぁーこの輪っか。」
客が落としていく菓子を目当てに、ドバト達がやたらとやって来るゲームセンター。
客がゲームセンターのUFOキャッチャーで捕った縫いぐるみを透明な大きな風船でラッピングするサービスで、拡げた吹き口の中へ縫いぐるみを入れる為に下からの圧力で風船膨らませているとこを、吹き口を拡げたフチの周りを『ブッド』という名の1羽のドバトがテクテクと廻って物珍しそうに歩いていた。
ぶおおおおおお~~~~~!!
「うはーーーー!!輪っかの中から、凄い空気!!吸い込まれるぅ~~~~~!!」
ずるっ・・・
「おっとっ・・・うわぁ~っーーー!!」
ぼふっ!!
ドバトのブッドは思わず脚を滑らせ、真っ逆さまに膨らんでいく風船の中に墜落した。
ぶおおおおおお~~~!!
「うわっーーー!!は、這い上がれない!!」
堕ちた風船の表面のゴムのせいで、翼や羽根や羽毛が静電気でまとわりついて、なかなか起き上がれなくなった。
ぶおおおおおお~~~・・・かちっ。
縫いぐるみと堕ちたドバトの入った、透明な風船はパンパンに膨らんだ後、吹き口をキュッとリボンで縛られた。
「きゅう・・・」
力尽きたドバトのブッドは、風船の中でぐったりと気を失った。
・・・ぼむっ。
「ん?」
・・・ぼむっ。
「ここはどこ??」
目が覚めたドバトのブッドは、透明なゴムの壁で覆われた周りを見渡して、今自らに起きている危機にやっと気付いた。
「やば!!これは風船の中!!何で俺様は風船の中に入ってるんだぁ?」
ドバトのブッドは、鳩胸に翼を当てて考えてみた。
「俺様は、脚を滑らせて堕ちたのが・・・どんどん膨らんでいく風船の中で・・・あっ!!」
ブッドは、天井の縛られた吹き口を見上げた。
「ここから俺様は、この風船の中に入ったんか・・・」
ブッドは、居ても立っても居られなくなり、風船の中を歩こうとした。
「・・・はっ!!」
ドバトのブッドは、肝心な事実に気付いた。
「歩けない・・・!!歩いたら、俺様の脚の爪でこの風船は「ぱーん!」と大爆発する・・・!!」
ドバトのブッドは、慌てて脚の鉤爪を引っ込めた。
「しかし、どうやってこの風船から脱出するか?」
ブッドはもう一度、脚の鉤爪を開いてみた。
「まず、この風船の壁を爪でぷすっ!と・・・
・・・・・・と
・・・・・・と・・・・・」
ブッドは、鉤爪の先を風船の壁にそっと近付けた。
ガチャッ。
ブッドが入った風船が無造作に置いてある家の部屋に、人間の女の子が入ってきた。
「やばっ!!僕がこの部屋に居ることがバレたら・・・!!」
ドバトのブッドは産まれてこの方、人間との軋轢という修羅場を潜り抜けて生きてきた。
ブッドが産まれた巣は、人間のマンションのベランダの図上。毎日、墜ちてくる糞や羽毛に憤慨してブッドが居たまま巣を破壊され、命からがら唯一生き残ったのがブッドだった。
飛びかたも餌の得かたはドバト仲間に独学で学び、幸せのドバト生活を迎える筈がまたしてもドバトの糞害で憤慨する人間に呼び出された保健所に殺されかけた。
その後も、悪ガキやハト虐待犯に命を狙われたり、『ハト害』対策の為のカスミ網等の罠にかかったりしては死物狂いで脱出し、はたまたハト駆除の為に雇われた鷹匠が放ったタカに狩られそうになったり、ハンターに撃ち殺されそうになったしもした。
なのでドバトのブッドは、他のドバトよりも人間に対し警戒心と軋轢は強かった。
ギラギラギラギラギラギラギラギラギラ
「うっ!!」
ブッドは、部屋の灯りに輝く風船の中の飾りのメタリックのボンボンに目をやられてフラフラした。
ボムッ!!
ボムッ!!
ボムッ!!
ボムッ!!
女の子がベッドに腰かけて、携帯電話で彼氏と話ながら、風船を足でボンボンと蹴飛ばした。
「うわっ!うっ!!うわっ!うっ!!うわっ!うっ!!うわっ!」
揺れる大きな風船の中で、ドバトのブッドはバランスを崩してコロコロ転がった。
「ひいっ!ひやっ!」
ブッドの尖った鉤爪や嘴が、風船の張りつめたゴムの表面を何度もかすめた。
「わっ!!わあっ!!わっ!!割れる!!割れたらっ!!に!!人間に!!」
どんっ!!
ブッドと一緒に風船の中に入っていた、大きなクマの縫いぐるみがいきなり転がってきて、ブッドの頭に嫌と言うほど激突した。
「きゅううう・・・」
クマの縫いぐるみの下敷になったブッドは、そのまま気絶した。
・・・ここは・・・?!
目を覚ましたドバトのブッドは、辺りがまっ白になったことに気が付いた。
透明だった風船は、時が経つと段々ゴムが伸びきって曇ってきていたのだ。
「なんだここは?!俺!閉ざされちゃったよ?!」
ぐるるるる・・・
きゅるるるる・・・
「腹へった・・・この風船に入ってから、俺、何も食ってないな・・・腹へった・・・腹へった・・・」
ふと、ブッドが横を向くと、目の前にそびえ立つクマの縫いぐるみがあった。
「うへえええ・・・」
ブッドは、それが何だか巨大なパンに脳変換してしまった
「パン・・・パン・・・」
そっと、ブッドはその『巨大なパン』を啄もうとした。
さくっ。
「うぐっ!ペッペッペッペッペッ!!何だ?この味は?!」
ブッドがそう思うと、突然飢えでフラフラしてその場に倒れこんでしまった。
・・・ここは・・・えっ?!
ドバトのブッドは仰天した。
「辺りが!!辺りが!!辺りが!!辺りが!!辺りが!!狭まってる!!」
そうだった。ドバトの入っていた大きな風船は日にちが経ちすぎて、空気が抜けて萎んでしまったのだ。
「苦しい・・・苦しい・・・苦しい・・・」
ブッドは、まだ気嚢の中にまだ残る吐息をかき集めて、
ふーーーーーーーっ!!
ふーーーーーーーっ!!
ふーーーーーーーっ!!
ふーーーーーーーっ!!
と、吐き出してブッドの入っている風船を中から膨らまそうとした。
ふーーーーーーーっ!!
ふーーーーーーーっ!!
ふーーーーーーーっ!!
ふーーーーーーーっ!!
「ダメだ・・・なかなか膨らまない・・・あれ?」
ブッドは翼を拡げようとした。
しかし、翼は萎んだ『壁』に狭まれて動かなかった。
「うわっ?!うわっ?!助けて!!助けて!!助けて!!助けて!!身動きが取れないー!!身動きが取れないー!!助けて!!助けて!!助けて!!助けて!!」
ドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタ!!
ドバトのブッドは、もがけばもがくほど、段々風船が萎んで狭まってきて、身体を圧迫してきた。
「ダメだ!!死ぬ!!死ぬ!!死ぬ!!死ぬ!!ここで死ぬんだ!!風船の中で死ぬなんて!!やっぱり俺は人間のせいで・・・
そうだ!!この風船は人間の『罠』だったんだ!!
ダメだ・・・だ・・・」
ぱぁん!!
突然、風船が割れた。
「ひょっ?!」
ドバトのブッドは、ハサミを持った人間の女の子と目があった。
「ハトさん?大丈夫?」
ドバトのブッドの回りには、割れた風船の『皮』と、暴れた時に剥げ落ちた自らの夥しい羽根と羽毛、それにまみれた風船に入っていたメタリック色のボンボン、
そして、若干ドバトのブッドが啄んだ後があるクマの縫いぐるみが転がっていた。
「可哀相に。何処から入ってきたんだろうね。お腹すいたんでしょ?縫いぐるみ食べたんでしょ?今、美味しいもの持ってくるからね!!」
・・・何だ?こんなに優しい人間の女の子は・・・
人間に虐げられてきたドバトのブッドは、信じられない顔で、パンと水を取ってきて部屋から戻ってブッドに与えた女の子を見詰めていた。
・・・暖かい・・・
・・・こんなに優しい人間が居たなんて・・・
与えられたパンを食らいつくドバトのブッドの目には、嬉し涙が溢れた。
バタバタバタバタバタバタ・・・
すっかり元気になって、優しい人間の女の子に放たれたドバトのブッドは翼を大きく拡げて力強くはためかせ、延々と拡がる大空を自由に飛んでいた。
「いいなあ・・・『自由』は!!何でもやれる!!何処へでも行ける!!
『自由』は素晴らしい!!
本当、気を付けなきゃな。あの風船事件は、俺の前方不注意がいけなかったからなあ・・・」
ずぼっ!!
「ん?また俺は・・・何かに入っちゃったのかな?この辺りの黄色い・・・この前の風船のゴムの匂いよりもっとゴムの匂いがキツイぞ・・・」
どぼぁーーーーーーーーん!!!!!
「ひいいいいいいいいいい!!!!!」
ドバトのブッドはうっかりよそ見をして、とあるイベントで掲げられた超巨大なゴム気球風船の中に突っ込んでパンクさせてしまったのだ。
「おーーーーたーーーすーーーーーけーーーーーーー!!」
割れた巨大風船の風圧で、ドバトのブッドはクルクルと錐揉みして吹っ飛んでしまった。
~風船の中に入ったドバト・END~
鳩と風船のものがたり アほリ @ahori1970
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