4羽目 キジバトを救った青い風船

 ばさばさばさばさばさばさばさばさ!!




 ででっぽ!!ででっぽ!!ででっぽ!!ででっぽ!!


 「しつこいなあ・・・!!もういや!!」


 キジバトのジッドは、執拗に追いかけてくるカラスから逃れようと、必死に逃げ回っていた。




 市街地


 公園


 街路樹


 ショッピングモール


 市営グラウンド


 スクラップ置き場


 工場街


 倉庫街


 雑木林


 どこを飛んでも、どう撒こうも、この獰猛なカラスは裏をかいてキジバトをしつこく攻撃してきた。




 かーかーかーかー!!


 「へっへっへっへ!!逃げんなよ!!」


 ハシブトガラスのコックロは、不敵な笑みを浮かべて嘴を開いて、何度も何度も死物狂いに逃げ惑うキジバトの尾羽を掴もうとした。




 キジバトのジッドは、何で獰猛なカラスのコックロを自分をしつこく苛めるのか解らなかった。


 ジッドはようやく悟った。


 カラスのコックロは、単にジッドが『生意気』で『からかってやろう』というだけだと。


 『ターゲット』は誰でも良かったと。




 ・・・くそお・・・!!


 ・・・こんな奴にやられてたまるか・・・!!




 キジバトのジッドは何を思ったか、急に急降下した。


 「あっ!!待てゴルァーーーーーー!!」


 獰猛カラスのコックロも、釣られて急降下した。




 ひゅ~~~~~~~~・・・




 「うわーーーーーーーっ!!カラスの方が速い!!間に合うか?!」


 キジバトのジッドは、策略があった。



 ぶわっー!!


 ばざばさばさばさばさ!!



 ジッドは、地面スレスレで再び翼をはためかせ、再び上昇した。


 「うわーーーーーーーっ!!」



 ドカッ!!ズザザザザサ・・・




 カラスのコックロは慌てて上昇も間に合わず、地面を嫌と言うほど体をぶつけて不時着した。


 「してやったり!これで・・・えっ?!」




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・




 「やりやがったな!!待てゴルァーーーーーー!!しばいてやるーーーー!!!!!」


 悪戯ガラスのコックロは怒りの形相で、憎きキジバトのジッドに向かって飛んできた。


 「やばーーー!!しつこい!!・・・あっ!!そうだ!!ここで・・・」

 人間の歩行者天国の間をすり抜けるように、翼をすぼめて通過した。


 ジッドの狙いは填まった。


 「しまったーーーー!!」




 ズボッ!!ドサッ!!ドカッ!!




 歩行者天国に響く、人間の驚きの声。


 カラスのコックロは、バランスを崩して休憩場所のパラソルに激突してなぎはらって、地面に墜落した。


 「やったぜ!!ざまあ!!僕の飛行テクを見たか!!ででっぽ!!」


 「お・・・おのれ・・・ブッコロしたる!!」


 フラフラと起き上がったカラスのコックロは、激しい怒りの形相でボロボロの翼を拡げて一直線に、やっとカラスの追撃から撒いて一安心に浸る無防備なキジバトのジッドへ向かって飛び立った。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・



 「しつこいなあ・・・まだ追ってくるーーーー!!」



 ・・・僕もあいつのように、あのカラスに殺られるのかなあ・・・



 キジバトのジッドは、『マブダチ』のキジバトがやはりこの獰猛カラスのコックロに殺されたことの怒りと哀しみがこみあがってきた。




 ・・・許せない・・・



 ・・・あのカラスだけは、僕は許せない・・・




 「はぅ?!」



 ばくん?!




 「隙あり!!」


 キジバトのジッドは尾羽が突然重くなったと振り替えると、カラスのコックロが嘴でジッドの尾羽をくわえて引っ張ってきたのが見えて、血の気が引いた。


 「ほーれ!掴まえたぞー!!キジバト!!」


 「ひいっ!!」


 キジバトのジッドは必死になって逃れようと、翼をばたつかせて前に行こうとした。



 ばざばさばさばさばさ!!



 するり・・・


 ぽろっ。




 間一髪、カラスのコックロのくわえていた尾羽が抜け、キジバトのジッドはやっとカラスの魔の手から脱出した。



 「ほっ・・・ぐわっ!!」




 がしっ!!




 「ばーか!!これで逃げられるって思ってるんか?やっぱ、ハトは俺らカラスより大バカなんだな。かっかっかっか!!」


 ゴロツキカラスのコックロは、キジバトのジッドの身体を鈎爪でしっかりと掴んで離さなかった。



 ギシギシギシギシギシギシギシギシ・・・



 「苦しめ・・・もっと苦しめ・・・かっかっかっか!!」


 「やられるもんか・・・こんな奴にやられるもんか・・・!!」


 カラスのコックロは、どんどん鈎爪に力を入れて、キジバトのジッドを締め付けていった。




 ギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシ・・・




 「くっ・・・ 苦しい!!こ・・・殺される・・・!!」


 キジバトのジッドは、遂に諦めて命乞いをするようになってから奇蹟は起きた。


 「ん?」


 カラスのコックロは、キジバトを掴んでいる鈎爪に見知らぬ紐が絡んでいるのを発見した。


 「やば!!いつの間に!!ふ・・・風船が脚に絡んだ!!よせっ!!よせっ!!離れろ!!離れろ!!いい加減脚から離れろ!!」


 カラスのコックロが脚に絡んだ、ヘリウムガスでパンパンに膨らんだ青いゴム風船の紐を、必死に脚を払って取り除こうと暴れた。


 「よし今だ!!」


 キジバトのジッドは、その隙に翼を拡げてカラスの鈎爪から必死に翼をはためかせて脱出した。


 「おい!!待てゴルァ!!」


 カラスのコックロは叫んだが、キジバトのジッドはどんどんと、凶悪カラスのコックロからどんどん離れて、どんどん遠くへ飛んでいった。




 ばざばさばさばさばさ!!


 ででーーっ、ぽっぽー!!

 ででーーっ、ぽっぽー!!




 命拾いをしたキジバトのジッドは、街灯の上で安心した気持ちで、でてっぽの鳴いた。




 ふうわり・・・




 キジバトのジッドの目の前に、大きな青い風船が浮いているのを見た。


 「あれ?この風船の紐・・・モシャモシャしてる。もしかしたら君、あのカラスから僕を護った風船?」


 そよ風が吹いて、青い風船はキジバトのジッドにお辞儀をするようにふわふわと揺れた。


 「そうなんだ。ありがとうね、風船さん。」


 キジバトのジッドはそう言うと、青い風船は再びふわふわと上空に向かって飛んでいった。


 「ふ~ふぁ~あ!!良く寝た。さて、どっかへ・・・」


 「見付けたぞ!!」


 キジバトのジッドが振り向くと、ジッドの休んでいる街灯に撒いた筈の獰猛カラスのコックロが、居座っていた。


 「す・・・すいま・・・せんでした!!」




 ばざばさばさばさばさ!!




 キジバトのジッドは、死物狂いで翼をはためかせて飛んでいった。


 「逃げるな!!もう許さねえ!!ぶっころてやる!!」

  

 カラスのコックロの目は、激しい殺意を帯びて血走っていた。

 既に『からかっている』という程度ではないことをキジバトのジッドは覚り、命乞いさえもした。




 ばさばさばさばさばざばさばさばさばさ・・・




 どんなに飛んでも、どんな場所を通過しても、凶悪カラスのコックロはどんどんどんどん前へ前へ前へ前へと突っ込んで、執拗にキジバトのジッドを追いかけ回した。




 ばさっ・・・



 ばさっ・・・




 段々、キジバトのジッドの羽音が弱くなってきた。


 「疲れた・・・翼が疲れた・・・」


 ジッドはどんどんどんどんどんどんどんどん失速していき、高度もどんどんどんどんどんどんどんどん下がっていった。


 「隙あり!!くたばりやがれ!!」


 獰猛カラスのコックロは、力尽きて今にも不時着しそうになっているキジバトのジッドの喉笛目掛けて嘴をたてて、目に止まらぬスピードで、キジバトのジッドへ特攻してきた。


 ・・・やばい!!やばい!!殺される!!絶対にあのカラスに今殺される・・・!!


 キジバトのジッドは、必死に命乞いをした。




 カラスのコックロが、キジバトのジッドにどんどんどんどん迫ってくる・・・

 


 3メートル・・・



 2メートル・・・




 1メートル・・・




 50センチメートル・・・ 




 25センチメートル・・・





 「もうだめだ!!」




 パァーーーーン!!!!




 かぁ!!かぁ!!かぁ!!かぁ!!かぁ!!かぁ!!かぁ!!何で風船が!!何で風船が!!風船割れるのやだぁ!!風船割れる音だいっきらい!!かぁ!!かぁ!!かぁ!!かぁ!!





 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさ・・・




 ジッドの後方でパンク音がいきなり炸裂し、カラスのコックロがビックリ仰天して何処かへ飛んでいってしまったのだ。




 「フーッ・・・助かった・・・」


 キジバトのジッドは命拾いをしたとこで、後ろのパンク音が気になって後ろに迂回してはっ!と気が付いた。


 眼下に、割れて落下していく風船の破片を発見し、キジバトのジッドは急降下して追いかけた。




 「あった・・・」




 キジバトのジッドは、パンクしてボロきれと化した青い風船を高速道路のど真ん中に発見した。


 


 ブロロロロ・・・


 ブロロロロ・・・




 高速道路には、ひっきり無しに車が行き交いしてその割れた青い風船は拾えなかったが、キジバトのジッドには、あの見覚えがあった。


 「あの風船の紐のもしゃもしゃ・・・あの時、カラス野郎の脚に絡み付いた風船だ。」


 ふと、その青い風船を拾いたくなる衝動に駆られ、キジバトのジッドはそっと高速道路に降り立とうとしたとたん・・・



 ゴオオオオオオ!!!!



 「ひゃっ!!」


 <バカ野郎!!トラックに轢かれたいのか!!せっかく俺が救った命を、ここで台無しにしたらどうするんだ!!>


 ・・・その声は・・・!!


 ジッドには声の主が解った。


 ・・・もしかして、その声は・・・


 <そうさ!!俺はお前のマブダチの『ポップ』だ。あの風船に俺の『魂』をヘリウムガスと一緒に入れて、お前を見守っていたんだ。>


 ・・・本当に・・・?


 <そうさ。良かったぜ。お前のピンチに役に立てて。お前を苛めてたよな。俺が生きてた頃。これで、償いが出来たぜ・・・>


・・・ポップ・・・!!


<これで、俺は成仏出来る。この世に思い残すことはない・・・じゃあな。俺はお前の心の中に居てやるぜ・・・>


 キジバトのジッドは、ジッドしか見えない透明な風船がふわふわと、大空へ飛んでいくのが大粒の涙で止めどなく流れる目に見えた。




 でっでーーーっ!


 ぽっぽーーーっ!


 でっでーーーっ!


 ぽっぽーーーっ!







 ~キジバトを救った青い風船・END~

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