2(Jekyll)

 同日 深夜


 人気ひとけの絶えた仄暗ほのぐらく肌寒い公園。その中にある、数少ない街灯に照らされたベンチに、卓也はドンッと腰を下ろした。


「ったく、ヒトづかいの荒い叔母上おばうえだ。ああ、しんどい」


 彼の両腕はだらりと下がり、その両掌には赤い食い込みあとがくっきり。そして足元にはパンパンに膨らんだ、とある量販店の黄色いビニール袋が二つ。

 そして顔には、昼間には無かった打撲の痕が1つ。


「・・・そもそも、特売広告は朝にチェックしときなさいよ。閉店間際に大人買いとか、店員さんの目が据わってたぞ」


 誰もいない深夜の公園に、卓也のボヤキが静かに溶け込む。

 不満の素である叔母に対して、直接愚痴をぶつけないあたりに、彼の性格がよく表れている。


「はぁ、今日は厄日だった。休日出勤させられた上に、不良どもに一発食らうわ、見たかった映画はのがすわ、無駄に大量の洗剤を買いに行かされるわ・・・」


 ようやく腫れが引いた左頬を気にしたり、ポケットで八つ裂きになっているチケットをいじったりしながら、ぶつぶつと毒を吐き続けること数分。

 両腕の疲れが幾分マシになったので、卓也は立ち上がると、洗剤が詰まったビニール袋を再び持ち上げ、歩き出す。


 しかし、ベンチを照らす灯りから外れた瞬間・・・


 グシュ!


「ごほっ!?」


 突然、背後から腹へと衝撃が突き抜けた。

 胸から下の感覚がなくなり、喉の奥から鉄さびの臭いがこみあげ、どろりとした液体が吐き出される。

 そしてひどい耳鳴りが聞こえだし、徐々に大きくなるそれに、若い男の声が混ざった。


「あはっ、やっぱいいねぇ。背骨を貫くこの感触ぅ」


 ドクン、ドクン、ドクン・・・


 身体の内側から心臓の鼓動が聞こえ、それに比例して、じんわりと濡れた感触が、腰から下半身へと広がっていく。

 自分が何をされたのか、瞬時に察した卓也は、痙攣し始めた筋肉を無理やり動かし、視線を背後に向ける。

 黒い闇が外側から侵食してくる中、彼の視覚は、赤く光る瞳を捉えた。


「・・・おまえ、最近、噂の・・・さつ・・じんき」


 絞り出すようにそう呟いた瞬間、卓也の意識は途切れた。 

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