努力
01
「失礼します……アクルお嬢様。例の件につきまして、ご報告がございます」
有栖川学園、生徒会室での一幕。
扉をノックし、一礼の後入室したメイドは部屋の中ほどへ。
「……お待ちしておりましたわ」
ガラス窓に寄り掛かり、地上8階から広大な敷地を見下ろしていた青髪の少女は、制服を軽く叩き牛革の会長席に深く腰を掛ける。
「女子硬式野球部のことですわね。確か、秋山先生がご静養中で代わりの者をお探しということですわよね」
ハーフツーサイドアップとは対照的な鋭い目をメイドに向ける。
「はい。本日、秋山様からのご報告より三上 一様が代理を務めることが教員会にて承認されました」
「
言葉と同時に両手で叩き、
「
年相応の胸を突き出し、メイドに迫る。
「はい。お嬢様と同じクラスに所属しております三上 来夢様の兄とお聞きしております」
「三上 来夢……ふっ、あの小動物ですわね。全く」
会長席に踏ん反り返り、顔を膨らませる。
根からのお嬢様、ということも関係して敬遠されがちなアクル。
それでも、隔たり無く話しかける来夢を気にかけているが、つい刺々しい態度を取ってしまう。
「ふふ。お嬢様の大切なご友人で御座いますから」
「ゆっ、友人では御座いませんわ! か、勘違いしないでもらえます!?」
「はい、承知いたしました。そう心得ておきます」
と言いつつも、微笑みを絶やさない。
「ふんっ! しかし、我が有栖川学園に殿方が出入りするのは問題ですわよね……」
校則では男子の出入りを禁止するような項目は無い。
教員に関しては理事長の娘のアクルでも口出しする権利は持っていない。
アクルの記憶の限りでは男性教員は在籍しておらず、アクルの父が理事長として籍を治めている以外で常駐している男性はいない。
「……これは確認する必要が有りますわね。佐々木、スタジアムの使用状況を教えてもらえます?」
「少々お待ち下さいませ」
メイドはポケットからスマートフォンを取り出し、学園の施設使用状況を確かめる。
「平日は16時から、土曜日は9時から女子硬式野球部が使用予定です」
「それで、殿方がいらっしゃるのは?」
「はい。教員会からのご報告ですと水曜日、土曜日にいらっしゃると聞いております」
「となりますと、早くて明後日でございますわね。佐々木、その日はフリーにして頂けます?」
「ですが、その日は隆弘様とのご夕飯の予定がございますが」
「お父様との食事など適当な理由をつけて断りなさい。これは緊急事態ですわ!」
勢いよく立ち上がったアクルは、人差し指をピンと伸ばし畏まるメイドを示した。
「か、畏まりました。こちらで調整致しますのでアクル様は本日のご公務に精進ください」
「言われなくてもそのつもりですわ」
「はい。それと、一様に関する資料をお渡しいたしますので、お時間がございますときにご覧ください」
「資料?」
半信半疑に資料を受け取ると、メイドは一礼しそそくさ廊下に出る。
左上をクリップで止められたA4用紙の束をパラパラ捲る。
すると、ある一点に興味を持ったアクルは文章を精読。
「……ふふっ、なるほど。これは面白いですわ」
資料を机の引出に入れたアクルは立ち上がり窓際に肩を寄せ、スタジアムの方を眺める。
「待っていなさい、三上 一……あなたのプライド、ワタシが握りつぶして差し上げますわ」
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