第5話:真夜中のパーティー
その夜、あたしたちは魔道院の敷地で身を潜めていた。
「あちゃー。警備が増強されているわ」
この前使ったルートで侵入を試みたのだが、今までいなかった警備隊が始終巡回しており、あのハーケンを打ち込んだ壁に近づく事すら困難な状況である。
まあ、あれだけの騒ぎを起こして撤収したのだから、無理もないのだが……。
「さて、どうしますか。エリナさん?」
エリナ特性の眼鏡は暗視モードというのも付いているらしく、暗い中でも彼女の様子がよく見える。しばし、考えたような表情を浮かべていた彼女だったが、程なくして小さく笑みを浮かべた。
この笑みは要注意だ。あたしの直感が告げている。
「静かにこっそりと思っていたけど……派手にパーティーやりますか」
そう言うと、彼女は虚空に『穴』を開け、中から様々な『オモチャ』を取り出した。
多数の砲身が付いたガトリング砲。ライフル、謎の円筒形の物体、球形をした何かが数個、それに拳銃が三丁……まるで戦争でもするかのようだ。
「ガトリング砲と対戦車ロケット砲はあたしが使うとして、あなたとセシルはこれ持って」
そう言われて渡されたのは、ライフルと拳銃。それに、球形の見慣れぬ物体だった。
「その球形のものは手榴弾っていってね、そのレバーを握りながらそこのピンを抜いて投げれば5秒後に爆発するの。パーティーのクラッカーみたいなもんよ。それと、ライフルは連射可能になってるから、派手に遊べるわよ」
本当に嬉しそうにエリナが言う。
「あ、あのさ、あたしたちって盗みに入るのよね?」
怖くなってそう確認するとエリナは満面の笑みを浮かべた。
「もちろん。でも、邪魔者は排除しないとね」
うわぁ、正面突破に出やがったなこいつ。まあ、そんな気もしていたけど。
「それじゃ始めるわよ。まずは景気づけにこうだ!!」
言うが早く、エリナは円筒形の物体を肩に担ぎ、そのトリガーを引いた。
パシューっという聞き慣れぬ音と共に、エリナが担いだ円筒形の物体からオレンジ色の火を弾く何かが発射され、ちょうど壁付近にたむろしていた警備兵の一団を轟音と共に吹き飛ばした。瞬間辺り一面に響き渡るアラームが緊急事態を告げる。
「それもう一丁!!」
さらにトドメとばかりに、同じ場所に向かってもう一発撃ち込むエリナ。
「さぁ、今のうちに突撃。早く屋根上へ!!」
エリナがガトリング砲を連射しまくりながら叫ぶ。
……ええい、もうどうとでもなれ!!
あたしはエリナとセシルを抱えて『浮遊』の魔術で一気に屋根上に飛ぶ。
するとここにも警備兵の姿があった。それも、1人2人ではない。
警備兵たちが一斉に攻撃魔術の準備に入ったその瞬間、エリナがガトリング砲で片っ端からなぎ倒して行く。かくて、魔道院の屋上は一瞬にして戦場となった。
「ほら、行くわよ!!」
これ以上無駄な犠牲者を増やさないためにも、一刻も早くオーブを持って逃げる必要がある。
時折鉢合わせした警備兵を拳銃やライルで倒しつつ、あたしのは重要物保管室屋根上と向かう。さすが魔道院というか、屋根に開いた穴はすでに修復されていた。
「あのオリファルコン製の天井までは、こんな短期間じゃ直せないはずよ。だから……」
そう言って、エリナは屋根の上に何やら粘土のような物を仕掛けて行く。
「はい、準備完了。ちょっと離れるわよ!!」
エリナに言われるまま、あたしたちは距離を取った。
「はい、ドーン!!」
エリナが自身の手に持っていた箱状のもののスイッチを押した。瞬間、大爆発が起きて屋根がすっ飛んだ。
「はい、時短完了。とっと潜入してずらかるわよ!!」
もはや潜入では無い気がするが、そんな事はどうでもいい。
あたしはたちは大穴が開いた屋根に向かう。
やはり、オリファルコン製の屋根に開いた穴はそのままだった。
結界も再展開された様子はない。
「あっ、中に入る前に昼間仕掛けたアレを……」
そう言って、エリナはまたもや箱状のもののスイッチを押した。瞬間、地震のような派手な揺れと共に、下の階で大爆発が発生した。
「あー、失敗しちゃった。爆薬の量間違えたわ」
エリナがそう言ってぺろっと舌を出した。
……失敗しちゃったって、あのねぇ。つまり、どのみち潜入は無理だったというわけか。
「まあ、今さら警報装置気にしても仕方ないんだけど、さっきの爆発で無力化されているはずだから大丈夫よ」
エリナがそう言う。
「じゃあ、さっそく……」
そう言いながら、あたしが中に入ろうと穴をのぞき込んだ時である。
そこにはぎっしりと警備兵たちがつまり、一斉にあたしに向かって攻撃魔術の準備をしていたのである。
……うわ!?
あたしは咄嗟にさっきエリナに渡された手榴弾のピンを抜き、穴の中に放り込んでいた。
数秒後、ドン!!という爆音がして、穴から白煙が上がる。
恐る恐る穴をのぞき込んでみると、そこには死屍累々とした光景が広がっていた。
内部の破損も酷く、とにかくあらゆる物がメチャメチャになっている。
「あーあ、やっちゃった……」
エリナがそう言って頭を抱える。
「まあ、いいわ。とりあえず中を見てみましょう」
あたしたちは『浮遊』の魔術で重要物保管庫の中に降りた。
「あっちゃー、オーブ割れてる……」
重要物保管室の中でも一段と重要だったのだろう。ご丁寧にも台の上に載せられていた目標のオーブにはヒビが入り、このままでは使い物にならない物体と化していた。
とそのとき、重要物保管室のドアが開いた。行き咳気って走ってきたのは、他ならぬマリアだった。
「誰かと思えばあんただったの!?」
それに答える代わりにエリナは『穴』を開け、黙ってサングラスを差し出してきた。あたしは黙って今掛けている眼鏡を外し、そのサングラスに変える。
そして、これまたエリナが差し出してきた赤と白に塗り分けされ、読めない文字が描かれた箱の中から、独特の匂いがする細長い紙巻きの棒を取りだした。
エリナもその細長い棒を取り出して口に咥える。あたしも黙ってそれを咥えると、エリナがカチンと音を立て、最近流行のライターとかいう火をつける道具であたしの紙の棒に火をつけ、そのまま自分のそれにも火をつけた。
そして、二人揃って拳銃を構えて見せた瞬間……
『ゲホゲホ!!』
「アホか!!」
マリアのツッコミが、惨憺たる室内にこだました。
「悪いねぇマリア。お宝は頂いていくわよ」
壊れていたってオーブはオーブ。契約時に『無事で』とは言われていない。
あたしは台から無造作にオーブを取り外して『穴』に放り込むと、エリナとセシルを抱えて『飛翔』の魔術を使った。
「あっ、こらそのオーブは……待ちなさい!!」
そんな声が聞こえたが、待てと言われて待つ泥棒はいない。
あたしたちは手近な所に駐めておいたエリナの車に乗り、一目散に逃げ出したのだった。
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