第3話:盗みは計画的に
「いやー、参ったわね。さすがに、あんなもん仕掛けているとは思わなかったわ」
ハングアップ亭に引き上げた早々、開口一番に声を上げたのはエリナだった。
「なにがあったの?」
あたしがそう聞くと、エリナは頷いた。
「あの重要物保管室の警備システムを甘く見ていたわ。まさか、最新式とはね」
そう言って、エリナは魔道院の設計図を手に取った。
「重要物保管庫には、あらかじめ登録された魔力パターンを持つもの以外が侵入すると、自動的にアラームが作動する仕掛けがしてある。これは厄介よ」
エリナがそう言った時、ハングアップのオヤジが顔を出した。
「なんあだぁ、ずいぶん古い設計図使ってやがるな。最新版はこれだ」
そう言って、あたしたちちが今まで使っていた設計図を払いのけ、あらたな設計図を置いた。
「屋根から入るのはいいが、問題は中だ。まず、さっきもそっちの姉ちゃんが言ってたとおり、登録された魔力パターン以外のものが侵入した場合、壁に設置された魔力センサーで感知されてアウト。仮にどうにか誤魔化して侵入出来たとしても、今度は床にある重量センサーで感知されてアウト。これも仮にクリアして侵入出来たとしても、今度は温度を検知するセンサーでアウト。まあ、普通に侵入するのは限りなく難しいな」
そう言って、オヤジは部屋から出て行った。
「こりゃあ、がっつり作戦考えないとね……」
そう言って、エリナは新しい設計図に目を落とす。
「全てのセンサーの回路はここに繋がっている。つまり、ここの回線を切っちゃえばセンサーは死ぬ」
そう言って、エリナは重要物保管室の真下にある『機械室』と書かれた部屋を指差した。
「待ってください。ここに警備隊詰め所があります。機械室に近づくには検問をパスしないと……」
セシルがそう言った。
確かに、設計図を見る限りでは、機械室に向かう通路の途中に『警備隊詰め所』と書かれた一角がある。」
なにせ、各種警備装置の要となる部屋だ。
検問が配置されていたとしても、不思議ではないだろう。
「いずれにしても、下見が必要ね。セシル、無茶言うけど通関パス用意できる?」
エリナがセシルにそう聞いた。
かなり無茶な話しである。
重要物保管室は魔道院院長でさえ許可が無いと入れない場所だ。
実際、あたしは入った事がない。
「はい、もうここにあります。偽造ですが」
さも当たり前のようなセシルの声に、あたしとエリナが同時にすっこけた。
「ちょっと待ってよ。さすがに用意よすぎだって!!」
エリナがあたしの気持ちまで代弁するかのようにそう言った。
「いえ、さきほどハングアップさんが置いていったもので……」
セシルが困ったように言いながら、ご丁寧に首から提げるホルダーまでついた『重要物保管室入室許可証』を3枚ベッドの上に置いた。
「なんかあのオヤジやけにサービスいいわね。エリナ、なんかやった?」
あたしが聞くとエリナは小首をかしげた。
「特になにもやってないわよ。迷惑料として現金100万クローネと、魔道院の資料部からちょろまかしたある男に関する極秘ファイルを渡しただけ」
「十分やってるわ!!」
あたしは思わず叫んでしまった。
「ってか、ある男って誰よ!?」
あたしがそう言うと、エリナはにやっと笑った。
「世の中には知らない方がいいこともあるのよ。まだ死にたくはないでしょ」
・・・あの、なんか怖いんですけど。
「分かった、深くは聞かないわ。まあ、あのオヤジがサービスいいわけが分かっただけでもいいわ」
ハングアップのオヤジは、基本的にはタダでは動かない。
動かそうとすれば、それなりの見返りが必要になる。
ここまでやってくれるとなると、相当な男なのだろう。きっと。
「さて、それじゃさっそく下見に行きましょうか。善は急げってね」
そう言って、エリナは軽く片目を閉じたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます