第36話 杖
ソフィアさんから杖を奪うと、ソフィアさんは気を失ったようにばたりと倒れてしまった。大丈夫なのか気になるけど、その前に杖の様子を確かめる。
「えい!」
(いてぇ!)
杖を地面に叩きつけると、頭の中に声が聞こえた。杖を奪う直前に聞こえた声は私の声に似ていた気がするけど、今の声は知らないおじさんの声だ。何度もバシバシと地面に叩きつける。
(やめろぉ! やめてくれぇ!)
「このくらいでお仕置きが終わると思ってるの? すぐに折られたって文句は言えないことをしたんだよ?」
(分かってるがやめてくれ! 本当に折れる!)
はぁ、疲れるからお仕置きの続きは後にしよう。一度周りの様子を確かめようかな。
あれ、ウリ坊が巨大猪のそばでしょんぼりとしている。
「ルナ。ウリ坊のことは私に任せて」
エストはそう言うと、ウリ坊の方へ走っていく。じゃあ私は、ソフィアさんの方を……
「ソフィア!」
フレンがお腹の傷を抑えながらソフィアさんに近づいている。あっちも任せようか。仕方ない。私は里長さんで我慢しよう。
「よお、生き残ったんだな」
「ニッチ……一人だけ逃げた罰を受ける覚悟はあるんだろうな」
「うげっ」
あっちも大丈夫そうだね。先に病院に行ってよう。
「フレン! 先に病院行ってる!」
「ああ!」
どうせ私にはフレンやソフィアさんを抱えるなんてできない。いつまでもいたら邪魔になるよね。
「お姉ちゃん!」
ん? エルフの子どもが駆け寄ってきた。親かは知らないけど、エルフの女性も来る。
「ありがとう!」
「あなた方がいなければ里は滅んでいました。ありがとうございました」
次々にエルフたちがお礼を言ってくる。私のお父さんの杖が原因でこうなったんだけどな。
「おい、小娘」
最後に里長さんが近寄ってきた。しんどそうにしているけど大丈夫かな。
「ソフィアという女はお前たちに任せる。その杖もな。監視だけはさせてもらうが、里での滞在も許す」
それだけ一方的に言って離れていく。
「どうやら認められたみたいだな」
ニッチもいつの間にか近くにいて、それだけ言うとどっか行った。一人だけ逃げていたから、怪我とか何もしていない。
はぁ……疲れた。病院で診てもらいながら、杖にお仕置きの続きをしよう。
🌙
病院に入るとエルフのお姉さんがいた。フレンやエストを治してくれたエルフのはず。何度か顔を見ているけど、あんまり覚えていないんだよね。
「あら? サンの持っていた杖じゃない」
サン? ああ、お父さんの名前か。なんでお父さんの名前をすぐ忘れちゃうんだろ。
(教えてやろうか?)
なんか杖が話しかけてきた。家で飾っていたときは話しかけてこなかったんだけどな。
杖はムカつくから無視して、エルフのお姉さんに返事しよう。
「なんでお父さんのこと知ってるの?」
「サンの娘さん? そういえば似て……いないわね。あの男とは違って可愛いわ」
「ありがとう」
お父さんのことをよく知っているのかな?
「サンとは一緒に旅をしたことがあるのよ。彼がまだ十代の頃ね。元気にしてるのかしら?」
「お父さんは五年くらい前に死んだよ。いや、三年くらいだったかな?」
あんまり覚えてないや。
「そう……そうよね。彼は人間の呪術師だもの。寿命は短いわよね」
「うーん……まあ、そうだね」
「何かあったの?」
お父さんがどうして死んだのかは覚えている。隠すことじゃないし教えてもいいけど……どうしようかな。まあいいや。教えてあげよう。
「隣の家に住んでるリーゼっておばさんがね。ジャガイモの毒をお父さんに食べさせたんだよ」
小さい私は、ジャガイモに毒があることを知らなかった。だから、リーゼおばさんがお父さんの料理に毒を入れても、何もすることができなかった。ジャガイモに毒があることは、お父さんが死んですぐに知った。
「サンは……リーゼという人間に恨まれることをしたのかしら?」
「してないと思うよ。リーゼおばさんは少しおかしいから」
そういう理由でお父さんは三十歳くらいで死んじゃった。
🌙
エルフのお姉さんに怪我を治してもらえた。治療費の代わりに、ベッドで休んでいるエルフの呪いを解く。相性の良い杖があると、簡単に呪いを解くことができていいね。
(そうだ。俺は便利なんだから、折るなんてことはやめてくれよ)
ソフィアさんのように私を操れないからって随分と弱腰になったね。そんなに嫌がらなくても、お母さんの呪いを解いたら、ポキッとしてあげるよ。
(あわわわ)
戦闘の時の面影がもう無いね。っていうか、どうしてこの杖はこんなことをしたんだろ。
(ルナへの仕返しの為だ。調教とか言ってボコりやがって。風のオーブさえ奪えていれば、確実に勝ててたのによぉ)
ソフィアさん操ってすぐだったら、まだ私が弱くて勝ててたのに。
(ソフィアが抵抗してきたりと、こっちにもいろいろ事情があるんだよ。察しろよ)
ふーん、本当に私に仕返しするためだけに、こんなたくさんの人に迷惑をかけたの?
(ああ、そうだ。仕返しを終えたら、また世界中を旅するつもりだった。くそっ、ゆっくりと
決めた。お母さんの呪いを解いたら、絶対に折ってあげよう。
(やめろ! 俺を使えばルナはもっと強くなれるぞ。最強にだってなれるかもしれないんだぞ)
言ったでしょ。私は一番になんてなれなくていい。お父さんに一番じゃなくてもいいから頑張れってお願いされてるんだ。
(一番になるなって意味じゃないと思うが……)
違うんだよ。ソフィアさんを殺して一番になるとか、強力な武器を使って一番になるとか、そういうのが駄目なの。私は楽なんてせずに、頑張って一番になる。
(そういや、ルナは昔から努力家だったな)
あ、みんなが戻ってきた。杖と話すのお終い。
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