第35話 一番
里長さんを見降ろしていると、風が集まり始めた。里長さんの手のひら上で小さな竜巻のようなものができている。しばらくすると、小さな竜巻が緑色の宝石に変化した。
「この風のオーブの力を借りて、奴の魔力の壁を破壊する。そのまま倒せればいいが、倒せなかったときは頼む」
まさか里長さんにお願いをされるとはね。まあ、断る理由はないかな。
風のオーブか。何かは分からないけど、普通の宝石にはない何かを感じるね。
「いいよ。信じてあげるから、ちゃんと仕事してよ」
「任せろ。小娘にしてはなかなかの実力だ。数年後に戦ってみたい。今死なれたら困る」
……もしかして認められたのかな? ニッチが言うには、実力のある相手しか認めないらしい。数年後だけど戦ってみたいと言われた。ふむ、つまりそういうことなんでしょ。正直なところ、それほど嬉しくない。
エストがツンデレデレくらいの割合だと、里長さんはツンツンデレくらいかな……なんて思っていると、里長さんが苦しそうに立ち上がった。
「走れ! 小娘!」
「分かった」
声に押されるように走り始める。目の前ではエルフたちがゾンビ二匹と戦っている。戦っているおかげで通れそうだけど、この状況で風魔法を使ったら、エルフたちにも風魔法が当たりそう。もちろん私にも当たる。里長さんはどうするつもりなんだろう。
……ん? 上空に魔力が集まってる? なるほど、上から攻撃するのね。それならソフィアさんにしか攻撃が当たらない。
ソフィアさんも風魔法に気が付いたのか、呪われた魔力を上に集め始める。
「潰れろ!」
里長さんが叫ぶと、巨大な風の塊がソフィアさんに落ちた。私にも風が届いていて吹き飛ばされそう。直撃したら風で細切れになっちゃいそうだね。
風の魔法はすぐに収まった。ソフィアさんは直撃は避けたのか、ボロボロになりながらも立っている。よし、私の出番。
私に杖を向けてきて、魔法の玉を放ってくる。それを魔法の壁を作って防ぐ。ソフィアさんは驚いたような表情をしている。何度も私にその技を見せたんだ。同じ呪い魔法を使う私にね。
「真似されないとでも思った?」
挑発するように言う。ぶつけ本番で使ったから、成功したのは私も驚いているんだけど、それを悟られちゃいけない。
ソフィアさんが魔力を溜め始める。魔力の壁で防ぎきれない攻撃をしてくるつもりなのかな。なら、魔法が飛んでくる前に杖を奪い取る。
🌙
私とソフィアさんの距離はそれほど離れていないけど、先に魔法を発動される可能性は十分にある。そして、魔法を発動されたら、私にはどうしようもない。
だから走る。もう止まらないし引き返さない。魔法を使われても避けたりしない。絶対に杖を奪い取る。
「死ね!」
まだ距離があるのに魔法が飛んでくる。駄目か……え?
後ろから光が飛んできて呪い魔法と相殺された。この体力を削られる感じはフレンの光だ。
いける!
「まだだ!」
ソフィアさんが血を吐きながら魔法を放ってきた。魔力を溜めていないのに、フレンが相殺した魔法と同等の魔法が飛んでくる。ソフィアさんの命を使った? 口や赤い眼から血を流しているソフィアさんを見ると、そうとしか思えない。魔力の代わりに命を使えるのかなんて知らないけど。
「ルナ! 任せて!」
エストの声? それもすぐ横から? 逃げたはずじゃあ……
隣を見ると、杖を赤く輝かせたエストがいた。エルフの里に到着する前、
エストはあまり足が速くなかったはずだけど、一生懸命走って私の前に出る。その勢いのまま、飛んできた魔法に杖を叩きつけた。またも相殺される。
「邪魔をするなぁ!」
ソフィアさんが叫ぶと、エストに向かって魔法を放とうと杖を振り上げる。不味い。魔力を溜めていなくても、エストになら一発で致命傷だ。
「駄目!」
「プヒー!」
ウリ坊! ウリ坊がソフィアさんに体当たりをした! おかげでソフィアさんの体勢が崩れる。エストに飛んでいくはずだった魔法は、ウリ坊のおかげで私の方へと変わった。
あの程度なら少し命が削られる程度。気にせずに杖を奪う! もう目の前なんだ!
杖に手を伸ばした瞬間、魔法が飛んできて私の頭に当たった。
(この女を殺せば一番になれる)
え、なに今の声。
(この女を殺せばフレンの一番になれる)
私の手が杖の手前で止まり、手には魔剣を持っていた。
フレンの一番になれる……フレンの一番になれる……そうだ、ソフィアさんがいなくなれば、すっとフレンの隣には私が……ってふざけるな!
魔剣を自分で握りつぶす。ソフィアさんが驚いたような顔をしている。今の声は、やっぱり杖がやったのか。
私が産まれた時から杖も一緒にいたのに知らなかったんだね。私は一番じゃなくていいんだよ。
ソフィアさんから杖を奪い取った。
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