第33話 覚醒
ソフィアさんの杖の先に禍々しい魔力が集まってくる。
「みんな! 当たったら駄目だよ!」
こんなのに当たったら即死だ。一回攻撃を受けることを覚悟して特攻しようと思っていたけど、こんなの作られたら逃げるしかない。でも、逃げてどうする? このままだと魔力がどんどん集まって、取り返しのつかないことになる。
「《ストーンプレス》」
エストの声? 何が起こるか分からないから、急いでソフィアさんから離れる。すると、ソフィアさんの周りの地面が盛り上がって、高い土の壁がソフィアさんを囲う。ソフィアさんを押しつぶそうと、囲っていた土の壁がなかなかの速さで動き始めるけど、ソフィアさんは集まっていた魔力を使ったのか、土の壁が全て壊れる。
ソフィアさんから離れなかったら、私まであの中に入ってたんだけど。エストのそういうところには慣れてきたけどさ。
まあ、集まっていた魔力を使わせてくれたことはありがたいかな。
「私だってやるときはやるのよ!」
「エスト。ナイス」
「邪魔な小娘だ」
エスト、ソフィアさん、私の声が重なる。崩れる土の壁の間から、小さい魔力の玉が飛んできた。私の方じゃない。
「エスト!」
「え?」
次の魔方陣を書いていたみたいで、エストは飛んできている魔法に気が付くのが遅れたみたい。今度は私が守る番だ。
エストが魔法を使った時に少しソフィアさんから距離をとっていたから、エストの盾になるように割り込むことができた。魔剣で防げたらよかったけど、そこまでする余裕はなかった。魔法が私に直撃する。
「ルナ!」
「無傷だから大丈夫だよ。それよりもエストが狙われてるから離れてて」
確かに無傷ではあるんだけど、たぶん命をがっつりと削られた。あと一度当たると私でも危険だ。それ以上当たると、たぶん死んじゃう。
「私だって戦うわよ!」
……私たちは勝てるのかな。攻撃してもソフィアさんを覆っている魔力に防がれる。攻撃を一発受けただけで死んでしまう可能性がある。これ、勝てないんじゃないかな。
エストを押す。
「時間を稼ぐから逃げて」
「三人で力を合わせたら今回も勝てるわ!」
「お願い」
私には杖を取り返す目的があって、フレンにはソフィアさんを助ける目的がある。でも、エストは仲間としてついてきてくれただけで、こんなところで命を懸ける理由がない。
「エストは生きて」
だからここでお別れ。
🌙
ソフィアさんの方へ駆ける。エストをゆっくりと説得する時間はない。逃げてくれると信じて、私はエストが安全に逃げられる時間を少しでも稼ぐ。
魔剣は簡単に避けられる。完全に弄ばれてるね。弄ばれてもいい。油断してくれている分だけ時間が稼げる。
視界の端にフレンが見えた。フレンが来たところでどうにもならない。
「危ないからフレンは離れてて」
ソフィアさんを覆っている魔力を破ろうと思ったら、エストくらいの攻撃力がいると思う。利き手を使えたら可能性はあったけど、今のフレンが攻撃をしたところで簡単に防がれるのがオチだ。呪いの弱点である光魔法でも使えたら、あの呪われた魔力の盾も簡単に破れそうなのに。エストがこれまでに光魔法を使っていないってことは使えないんだろうし、フレンは何にも魔法を使ったことがない。私も呪い魔法しか使えない。
私にはソフィアさんの弱点を見つけられなかったけど、フレンなら弱点に気が付くかもしれない。あとは、フレンが弱点を見つけてくれる可能性に賭けるしかない。
「僕は……いったい何のために……」
フレンの声が聞こえた気がした。でもかまってあげる暇はない。一瞬でもフレンに気を取られたりしたら、ソフィアさんの攻撃を避けきれない。さっきから少しでも隙を見せたら、棒状の魔力が飛んできている。
「弱いな。飽きてきたぞ」
ソフィアさんは詰まらなさそうに言う。時間稼ぎもそろそろ限界みたい。
杖を取り返すことはできなかったけど、この旅を全力で楽しむことができたと思う。ハンバーグとか美味しいものを食べられたし、
うん、もう一生分楽しめたよね。ローランに借金したままなことと、お母さんを助けられなかったこと。いくつかやり残したこともあるけど、後悔しないよ。
私に三つ丸っこい魔法が飛んできている。見えないところからも飛んできているかも? 関係ない。もう防ぐことも避けることもできない。
あれ?
「待たせたね」
フレンが私の前に立っている。本当にフレンなの? なんか、すごく光り輝いていて、すごく眩しいんだけど。
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