第32話 呪い
里長さんが魔力を思いっきり放出すると、強力な風が私たちにまで届いた。体が宙に浮いて、気が付いたときには十数メートルくらいは飛ばされていた。後ろに建物か何かあったら、背中を強く打っていた。危ない。
体中についた砂を落としながら立ち上がる。擦り傷はあるけど、大きな怪我はしていないみたい。フレンもエストも大丈夫そうだ。
「くそっ、ソフィアは……」
フレンの焦った声。そうだ、ソフィアさんは今の攻撃が直撃したはずだ。直撃していない私たちがこれだけ飛ばされたんだ。ソフィアさんは大怪我をしているはず。
……と思ったけど、ソフィアさんはさっきと同じ場所に立っていた。いや、三歩分くらいは動いているか。でも、変化があるのはその程度で、ソフィアさんはにやりと笑っている。
里長さんは今の攻撃で相当の魔力を使ったのか、しんどそうに肩で息をしている。
「化け物が!」
里長さんが叫ぶと高く跳ぶ。風の魔法を使っているのか、そのまま落ちてこずに、空中でソフィアさんを見降ろしている。
「ふん、いつまでもへらへらと笑っていられると思うな」
消えた? と思った時には、ソフィアさんを蹴り飛ばしていた。里長さんの動きがさっぱり見えなかった。飛ばされているソフィアさんに追いついて、何度も攻撃を与えている。でも、始めの攻撃以外は、ソフィアさんを覆っている呪われた魔力に防がれてしまっている。
……あ。
「その魔力に触れちゃ駄目!」
たぶん、あの魔力はかなり危険。呪いに耐性のある私でも危ない。なのに、私の忠告なんて無視して、里長さんは攻撃を続ける。
「私たちも参戦しよう」
フレンとエストに言う。里長さんなんてどうでもいいけど、いてくれた方がソフィアさんを助けやすい。こういう言い方は良くないのかもしれないけど、もうしばらくは利用したい。
「ソフィアさんの魔力には触れちゃ駄目だよ。エストはチャンスが来たら魔法使って。フレンも気をつけて戦って。私が先頭で戦うから」
フレンはあの魔力に一回か二回当たっただけで戦えなくなると思う。本当は二人には逃げてほしい。でも、二人とも逃げたりしないってわかってる。
私も三回くらい当たったら危なそうだけど、二人よりかはマシだ。頑張ろう。
🌙
ソフィアさんの方へ走りながら考える。弱点は何? 相性の良い戦い方は?
ソフィアさんに魔剣を作って投げる。真っ直ぐにソフィアさんに向かって飛んで行ったけど、ソフィアさんを覆っている呪われた魔力に防がれる。ソフィアさんの全身を覆っているわけではない。でも、私の方を向いていなくても、勝手に呪われた魔力は移動してソフィアさんの盾になるみたいだ。
なら、力ずくで盾を斬り破る。
「はあ!」
多少の怪我ならエルフのお姉さんに治してもらえばいい。だから、遠慮せずに、ソフィアさんの左肩に魔剣を振り下ろす。魔剣を投げたときと同じように、ソフィアさんの呪われた魔力が盾になる。
「はあああああ!」
畑仕事とか手伝ってきたから、そこそこ力はあるつもりだ。こんな盾くらい……
あれ、呪われた魔力の形が変わってきたような。
「危ない!」
フレンに後ろから引っ張られる。さっき私が言った通り、サポートに回ってくれていたみたいだ。
「あの魔力は、ルナの魔剣みたいに攻撃に使えるようだ」
なるほど。そういえば盾だった呪われた魔力は、針のような形に変わっていた。ソフィアさんの近くでだらだらしていたら、盾が武器になって攻撃されるってわけね。
つまり、攻撃される瞬間こそ攻撃のチャンス。
「久しぶりだな」
今の声は……ソフィアさんが言ったの?
「その通りだ」
「もしかして私に言った?」
疑問を口にはしていないはずだけど。
「ああ。お前のことは生まれたころから知っている。何を考えているのかくらい、わざわざ聞かなくても全てわかる」
私たちが話している間にも攻撃を続けていた里長さんが倒れる。たぶん、ソフィアさんの呪われた魔力は命を削る。一言でいえば殺す魔法。あの魔力と接触すれば、それだけで寿命が縮まってしまう。あの魔力の攻撃が直撃すれば、一撃で死んでしまう可能性もある。
「さすがだな。サンのやつも呪いの才能があったが、才能だけはサン以上だ」
「サン?」
だれ?
「おいおい、父親の名前まで忘れたか? 相変わらずだな」
「お父さんの名前? あー、そういえば……そんな名前だった気もするね」
今はどうでもいい。お父さんの名前なんて。
「話が通じるのなら、ソフィアさんをフレンに返してくれないかな。おとなしく従うのなら、折るのだけは勘弁してあげる」
「フレンってどいつだ? 髪の色は? 身長は? 特徴は?」
あーもう、面倒くさいな。
「黒髪で背が高くて右腕のないお兄さんだよ」
ソフィアさんの方を見たまま言う。今更フレンの方を見なくたって、特徴くらいいくらでも出てくる。
「ルナ……?」
なに? フレン。今はそっちを見る余裕なんて無いんだけど。
「ははっ! やっぱお前は壊れてやがる! 仲間の髪の色も覚えてないとはな!」
「なに言ってるの?」
フレンの髪は黒でしょ。というか、これまで黒髪以外見たことないし。私の髪も黒色。
……あれ、黒だったよね?
「自分を責めるなよ。まともな奴は呪いなんて使えない。記憶するモノに制限をかけるくらい、呪い魔法を使う者なら皆やっていることだ」
「ごちゃごちゃうるさいな。私のことなんてどうでもいいんだよ。ソフィアさんを返すの? 返さないの?」
ソフィアさんは私に杖の先を向けてくる。
「返さない。邪魔者が消えて、本番はこれからだろう?」
ソフィアさんの赤い眼から、憎しみのようなものを感じた気がした。
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