第31話 こうして戦いが始まる

 ゾンビを操った者を探していると、ニッチと里長さんを見つけた。無視して探し続けようと思ったけど、二人が近づいてくる。

「里が凍っちまってるが、これはお前らがやったのか? 俺が里長を呼びに行っている間に何があった」

 ニッチが聞いてきた。私たちにこんなことができるわけないじゃん。

「違うよ。お医者さんがやってくれたの」

「あの姉ちゃんがやったのか……何者だ? あいつ」

 ニッチがぶつぶつと独り言を始めた。今はエルフのお姉さんが何者なのかなんてどうでもいい。

「ゾンビの襲撃は、里を襲った人間の差し金だろう」

 里長さんが誰でも思いつくようなことをどや顔で言った。あんまり偉そうにしていると馬鹿に見えるよ。

「弟を救ったことを考慮し見逃してきたが、お前たちもグルじゃないだろうな? 今回のことで民や兵を多く失ってしまった。これ以上殺されるわけにはいかない。危険人物であるお前たちは出て行ってもらおうか」

 里長さんは、私たちを信じて協力してもらうよりも、私たちが裏切るリスクの方を選んだわけね。エストは不満そうだし、フレンも少しむっとしたようだ。でも、最近まで戦争をしていた敵を簡単に信じるなんて、普通に考えて無理だよね。私もたくさんの命を預かっている身だったら、里長さんと同じことを言ったかもしれない。

 でも……

「今は協力し合うべきだと思うな」

 杖を持った不気味な人間という人物の今後の行動は不明だ。風のオーブを諦めて別の場所へ移動するかもしれないし、また準備を整えて攻めてくるかもしれない。里が弱っているうちに、今にでも攻めてくるかもしれない。協力して調査をするべきだと思う。

 里長さんも馬鹿じゃないだろうし、このくらい分かってるでしょ。

「ふん、人間の小娘なんぞに何ができる。私の気が変わらないうちに去れと言っているのがわからんのか」

 あらら、ここまで期限機嫌が悪くなるとは思わなかった。ニッチが私の腕を引っ張って、少し里長さんから離れる。内緒話でもするみたい。

「里長は実力主義でな。認めたやつの言うことしか聞かないんだ」

「ふーん」

 つまり私が何を言っても聞いてくれないってことね。実力を認めさせるなんて面倒なことはしたくないから、ここは従うしかないのか。仕方ない。フレンとエストと私の三人で探そう。

「悪いな。こっちはこっちでやっとくから、お前らもお前らで頑張ってくれや」

 はぁ……まあ、里から追い出されるだけならいいか。危険人物だと思われているのなら、この場で里長さんと戦うことになる可能性もあった。そうならなかっただけマシだと、前向きに考えよう。


🌙


 またゾンビを操っていた者を探し始める。もうエルフの里からは出ちゃったかな。

 それにしても、エルフの里は酷い有り様だ。初めて来たときの時点でも壊れている建物は多かったけど、さっきの襲撃で建物はさらにボロボロになってしまっている。エルフのお姉さんの魔法であちこち氷漬けで、エルフ同士で戦ったのか道までボコボコになってしまっている。

 エルフ同士っていうのがどうしようもないよね。相手はゾンビだったから、エルフとは言えないのかもしれないけど、かつての仲間と戦ったエルフがたくさんいる。そこらで休んでいるエルフたちはみんな悲しんでいる。魔物が攻めてきたとかなら、魔物を倒して敵討ちすればいいのだけれど、今回の相手はおそらく人間だからそうもいかない。私たちを倒して敵討ちをしようとするエルフがいるかもしれない。でも、それ以上の敵討ちをしようと思ったら、人間との戦争をまた始めることになる可能性が高い。

 そんなことをぼんやりと考えながら探していると、歩いている方向と逆の方向、さっきニッチと里長さんと別れた方向から、大きな爆音が聞こえてきた。爆音というか、建物が崩れる音? そんなことはどうでもいいや。

「行こう」

 フレンが言う。エルフの里から出て行けと言われているけれど、もちろん従ったりしない。この状況でエルフの里から出ていくのなら、杖を取り返すたびなんて始めていない。


🌙


 ニッチと里長さんと別れた場所に戻ってきた。まったく同じ場所ではないけど、大体同じところ。

「ねえ、あの人がソフィアさん?」

「間違いないくソフィアだ……が……」

 フレンは驚いている顔……とは少し違う、なんともいえない顔をしている。気持ちはなんとなくわかる。あれが人間だとは思えない。

 杖からなのか体からのかわからないけど、呪われた魔力が溢れ出して、ソフィアさんの周りを覆っている。肌の色が呪われた魔力のように黒く変色し、眼だけが赤く不気味に光っている

「予想はしてたことだけど、エルフの里を襲ったのはソフィアさんなんだね」

 このままだとフレンがいつまでもぼーっとしてそうだったから、フレンが心の中で否定していたと思うことを口にした。いつまでもぼーっとしていられたら困る。なぜなら、目の前でソフィアさんと里長さんが、とてつもない死闘を繰り広げているのだから。

 ソフィアさんは強い。森の破壊王ダークグリズリーを倒しただけのことはある。倒したっていうのは私の予想で、本当は倒していないかもしれないけど。

 でも、実力主義なだけはあって、里長さんもすごく強い。ソフィアさんの放つ呪われた魔力を、軽々と風の魔法で押し返している。

「ふん、前回は追い返したが、今回は倒させてもらう」

 里長さんはそう言うと、一段と魔力の威力を上げた。

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