第30話 新技

 エストは魔方陣を書き始める。新技と言っていたけど、今までの魔方陣との違いは分からない。まあいいや。いつまでもエストに構っていられない。少しくらいは信じてあげて、私は目の前の敵に集中しよう。さっきからニッチの姿が見えないけど気にしない。

 エストに気を取られている間に、エルフの一人が後衛になっている。魔法を使われたら、フレンが目の前に集中できなくなる。一対二でもフレンはどうにか戦えているから、私は後衛のエルフを倒そう。

 エルフの魔法が発動する。風の刃みたいなのが、フレンへ飛んで行っているのが見える。十分間に合うね。魔剣を一本作って風の刃を撃ち落とす。さっきの仕返し。

 エルフはまた魔法を使おうとしているようだけど、魔法の撃ち合いに付き合ってあげる必要はない。魔剣を一本作りながら駆ける。私が斬るよりも先に風の魔法が飛んできた。

「はあ!」

 風の刃を斬るとあっさりと消滅した。ゾンビだからイメージも気持ちも無いんでしょ。これじゃあ、仮に当たったとしても痛くなさそう。

 エルフが次の行動に出る前に剣の間合いに入った。素振りを思い出して、エルフの頭のてっぺんから斬り下ろした。すでに死んでいるからか血はあまり飛んでこなかった。でも、人型の生き物を斬るのって嫌な感触。なんか、すごく鳥肌が立った。

 ……あ、人型だけど生き物じゃなかった。ゾンビだね。

 さて、フレンはどうかな。どうやら優勢みたい。エルフは体が華奢きゃしゃだから、人間の方が接近戦は有利っぽいね。左手で剣を使うのにまだ慣れていないようだけど、それでも余裕はある。

「はあ!」

 フレンはすごいなーと思っていたら、二人のエルフをほぼ同時に真っ二つにした。エルフの隙が大きいのもあるけど、それでも私から見ればすごい。

「私の新技……」

 なんかエストが言ってる。今回は何もやってないね。ちゃんと反省しなさい。


🌙


 エルフのゾンビはあちこちにいる。逃げ惑うエルフたちが、次々にゾンビに囲まれていくのが見える。もちろん私たちの方にもゾンビが来るけど、今のところ難なく倒せてはいる。でも、問題が一つ。

「エスト。新技はまだー?」

「次は成功させるから!」

 おお、なかなか成功しなくてエストは焦っているみたいだね。フレンはそんな様子のエストを見て苦笑している。周りではエルフたちがやられてるのに、よく笑っていられるね。

「何が起きているの? 患者は?」

 いつの間にか、病院からエルフのお姉さんが出てきていた。今まで病院の奥の部屋に籠ってたのか。呑気だね。

「みんなどこかへ戦いに行っちゃったよ」

 止めたけど、誰も言うことを聞いてくれなかった。自分の里を守るためなら、命を懸けられるってことかな。まあ、そのおかげで、私たちのところまで来るエルフのゾンビの数は減っていると思う。

 厄介なのは、ゾンビに倒されたエルフがゾンビになっちゃうことかな。私たちも倒されるとゾンビになっちゃうと思う。

「まだ治療費を払っていないのに勝手なことを……氷の刃よ。存分に暴れまわりなさい《ブリザード》」

 エルフのお姉さんを中心に、凍ってしまうほど冷たい風が吹き始める。すぐに風は強くなり、太いつららのようなものが現れて、周りにいるエルフのゾンビだけを串刺しにし始めた。それも全て頭に命中している。昨晩戦った骸骨は頭蓋骨を真っ二つにしたら動かなくなった。それと同じようにエルフのゾンビたちも動かなくなる。アンデット族の弱点は頭なのかな。

 エルフのゾンビとの戦いはこうして終わった。エルフのお姉さんが病院から出てきて数分。暖かかったエルフの里は、雪国のように氷に覆われた里へと変わってしまった。


🌙


「ねえ、エスト。エストはこんな魔法使える?」

「もちろん! 賢者の力を舐めてもらっては困るわ!」

 台詞は良かったけど、いつも通りの動揺している顔で、見栄を張っていることはバレバレ。まあ、エストにしては頑張ったんじゃない?

 たぶん、威力だけならエストも負けてないと思う。でも、あっさりとこの威力の魔法を発動したことと、正確にエルフのゾンビの頭を撃ち抜いていることとで、確実にエストよりは実力が上だ。もちろん私よりも上で、きっとシスターよりも上。何と言うか、強さの次元が違うね。

「久しぶりに魔法使ったらすっきりしたわ」

 エルフのお姉さんは病院の中に戻っていく。中へ入る直前に私たちの方へ振り向いた。

「三体くらい撃ち漏らしたから、後は頼んだわよ。寒い寒い。早く中に入ろう」

 ドアは閉められて。エルフのお姉さんの姿は見えなくなった。エルフがゾンビになっちゃっているのに、あんまり興味がないみたい。

 まあいいや。気を取り直して、これからどうするか決めよう。

「少し休憩する?」

 それほど厳しい戦いじゃなかったけど、それなりに疲れてしまった。

「一度に大量のゾンビが現れたということは、ゾンビを操っていた者が近くにいる可能性が高い。探してみよう」

 もしかしたらゾンビを操っているのはソフィアさんかもしれないからね。フレンは早く探したいのかな。

「そうね! 全然疲れてないし!」

 まあ、エストは疲れてないだろうね。何もしてないし。

 これは探しに行くことになりそうかな。

「エスト。新技ってなんだったの?」

 結局使ってくれなかったから聞いてみた。

「ぶんっとしてドカーンよ」

「なるほどね」

 すごいすごい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る