第27話 合流
「わーウリ坊だー」
エルフの子どもたちが近づいてきた。プヒプヒ鳴いてるから、私の抱えている毛むくじゃらがウリ坊だと気づいてしまったみたい。
「ねーねー。僕たちにも抱っこさせてー」
「いいけど、弱ってるから優しくしてあげてね」
「分かった!」
ウリ坊を渡そうとしたら、エルフの大人たちが近づいてきて、子どもたちを連れて行った。たぶん、エルフの子どもたちの親かな? そんな怖がらなくても、子どもをいじめたりしないのに。
まあいいや。エルフの子どもたちに囲まれても面倒だったし、エルフの子どもたちにウリ坊を渡したら、ウリ坊もヘトヘトになっちゃっただろうから、連れて行ってくれて助かったくらいだ。気にしないでいよう。
「プヒープヒー」
エルフの子どもたちが集まってきた時は静かだったウリ坊が、周りにエルフがいなくなった途端に元気になった。怖かったのかな? これから病院に行くと、もっとたくさんエルフがいるけど、怖くて死んじゃったりしないかな。ちょっと心配。
それにしても、こんなにエルフから怖がられていたら、情報収集なんて無理だなぁ。病院に協力してくれるエルフがいたらいいけど。
「プヒープヒー」
「こら、静かに。また子どもたちが寄ってきちゃうよ」
「プヒー……」
おお、静かになった。やっぱりお利口さんだね。少しずつ元気になってきたし、この子のお母さんも探してあげないといけないかな。旅に連れて行くわけにもいかないから、あとでフレンとエストに相談してみよう。
🌙
病院にはエルフが溢れかえっていたけれど、あれから時間が経ったこともあって、溢れかえるということは無くなっていた。おかげで病院の中に簡単に入ることができた。ベッドも空きが多くなっている。お医者さんのエルフと町のお医者さんはどっちが優秀なのか気になるね。
「ただいま。大丈夫?」
フレンの右腕は戻っていない。右腕を持ってくることはできたけど、残念ながらくっつけることはできなかったみたい。エストは外傷がないから分かりにくいけど、ベッドで体を起こしているから、たぶん良くはなったのだと思う。
「遅かったね」
「心配させないでよね。あ、私じゃなくて、フレンが心配してたのよ。それで、どこへ行ってたのよ。その毛むくじゃらはなに? あ! 服が新しくなってる! それに髪や肌が綺麗になってる! 先にお風呂に入ったのね。信じられない。裏切り者!」
……エスト喋り過ぎ。
「先に体は大丈夫か教えてほしいんだけど」
「大丈夫よ」
エルフのお姉さんが教えてくれた。顔はうろ覚えだけど、たぶんフレンとエストを直してくれたお医者さんのエルフだ。
「フレンさんの腕は残念だけれど手遅れだったわ。その代わりというわけではないけれど、痛みは残らないように治療したからそこは安心してちょうだい。エストさんは完璧に治したわ。骨も内蔵も元通りどころか、以前よりも良くなったはずよ。ちなみに治療費はフレンさんの腕をいただいたからいらないわ。人間の肉体なんて滅多に手に入らない。私は里に来てくれたあなたたちを歓迎するわ。フフフ……」
エルフのお姉さんは不気味に笑いながら奥の部屋に入っていった。リーゼおばさんとは違う不気味さ。関わり合いたくない不気味さだった。
……後で情報収集のためにエルフのお姉さんと話さないといけないのか。嫌だな。
🌙
フレンとエストに、二人と別れてからの出来事を話した。
「なるほどね。エルフの里を襲撃した人間は、風のオーブを狙っていた可能性があるわね」
エストの考えは……微妙じゃないかな。いや、ちょっと待てよ。
私が話す前にフレンが口を開く。
「風のオーブの存在はエルフの里の外どころか、エルフの間でも知っているものは限られている。もちろん襲撃者が風のオーブの存在を知っていた可能性はあるが、他の目的があったと考えた方がいいと思う」
「他の目的って何よ」
「復讐……だろうか。エルフとの戦争が終わってから、まだ数年しか経っていない。エルフに恨みを持っている人間も少なくないはずだ」
なるほどなるほど。風のオーブの存在はエルフの間でも限られているなんて、私は言った覚えはないんだけど、フレンだから聞き間違えていても仕方ない。人間には広めていないはずのことだから、大きくは間違っていないはず。あと、復讐という可能性も十分にある。
でも、私の考えは違う。
「襲撃者がソフィアさんだと仮定すると、風のオーブを知っている可能性は高いと思う」
二人は少し私の考えについて考えたみたいだけど、よく意味が分からなかったみたいだ。まあ、そうだよね。
「私のお父さんの形見の杖はね。正確には、呪いが強力な武具にはかな? 意思みたいなものを持っていることが多いんだよ。もしも杖と記憶とか知識とか共有していたら、もしくは杖に完全に意思とかを乗っ取られていたら、ソフィアさんは知らなかったとしても、風のオーブの存在を知っている可能性があるんだよ」
私のお父さんは若いころ旅をしていた。詳しいことは教えてもらっていないけど、傭兵の仕事をしながら、呪いの杖を持って世界中を歩き回っていたらしい。だから、杖に意思とか記憶とかあるのなら、杖が色々なことを知っている可能性はある。
だから、こうやって杖が暴走しないように躾けてきたつもりなんだけどな。お父さんとは違って厳しくしてきたつもりだし、ずっと家の中でおとなしくしていたんだけどな。どうして暴走なんてしちゃったんだろな。意味わかんない。
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