第22話 森の破壊王2
「ガルルルルル」
森の破壊王が後ろに飛んでフレンと距離をとった。今度はゾンビじゃないから、無茶苦茶に攻撃してくるだけじゃなさそう。ゾンビだった森の破壊王よりも一回り小さいのはありがたいのかな。
そういえば森に入ってから魔物と出遭わなかった。森の破壊王に怯えて、魔物たちもどこかへ避難していたのかもしれない。
ごちゃごちゃ考えるのは止めだ。私も早く加勢しないと。
「ちょっと」
木の陰から出ようとしたらエストに服を掴まれた。邪魔をしないでほしいんだけど。
「ルナが出て行っても、できることなんて無いでしょ。フレンの足手まといになるだけよ」
……そんなこと私が一番わかってる。
「まずはエルフの男を安全な場所まで運ぶわよ。さっき潰されそうになった時に気を失ったみたいだから」
「……嫌だ」
「なんですって?」
「フレンの隣で戦いたくて魔剣の練習をしたんだ。フレン一人で勝てない相手でも、私が少しでも力になれれば勝てるかもしれない、もうフレンが大怪我をしないかもしれない」
右手に魔剣を作る。あの時は見てることしかできなかった。でも、今ならあの化け物とも戦える。
「今がフレンの隣で戦う時なんだ!」
フレンの元へ駆ける。森の破壊王の出方をうかがっているのか、剣を構えたまま動いていない。すぐにフレンの隣に立つことができた。森の破壊王、やっぱりすごい迫力だな。ゾンビだったやつよりも小さいとはいえ、フレンよりずっと大きい。それに生きてるからか、殺気みたいなものを感じる気がする。
あと、さっきからフレンに下がってろとテレパシーを送られている気がする。でも無視。この程度で下がるのなら、初めからここに立っていない。
「私を信じて。フレンを全部信じるから、今だけでも信じてほしい」
うまく言葉にできない。何を信じてほしいのか、自分でもはっきりとしない。でも、フレンに頷いてほしい。信じると言ってほしい。
「信じる。一緒に倒そう」
……嬉しい。
「うん!」
フレンと一緒に森の破壊王へ駆ける。足は震えてない。怖くない!
「「はあ!」」
フレンと同時に斬りかかる。これまでずっとフレンの戦う姿を見てたんだ。一緒にご飯食べたり、同じ部屋で寝たり……ずっと一緒にいたんだから、フレンと息を合わせて戦うなんて簡単なはず!
「ガァ!」
森の破壊王は変な叫び声をあげながら、木のように太い腕で私とフレンの攻撃を防ぐ。びくともしないな。
森の破壊王が睨んできて嫌な予感がしたから一歩下がると、森の破壊王が剣を無視して噛みついてきた。さっきまで私がいた場所に森の破壊王の汚い顔がある。
「はあ!」
フレンの気合の入った声。私に攻撃してくれたおかげでフレンがフリーだ。フレンは森の破壊王の顔へ突きを繰り出す。森の破壊王の回避行動も早かったが、フレンも動きに突きを合わせて、器用に森の破壊王の右目に突き刺した。
「ガアアアアアア!」
森の破壊王が腕を振り回す。迫力はあるけれど、怒りか恐れか、どちらにしろ冷静さは感じられない。そんな攻撃にはさすがの私も当たらない。
「「今だ!」」
森の破壊王が背中をこちらに向けた。冷静さを失ってしまったせいで背中を向けたのか、逃げようとして背中を向けたのか。どちらにせよ、このチャンスを見逃すわけにはいかない。
腕よりも皮が薄いのか、背中に深々と剣と魔剣が突き刺さる。ついでにもう一本魔剣を作って突き刺した。これ以上は危険かもしれないから、一度森の破壊王から距離をとる。
「ふう」
あー死ぬかと思ったけどどうにかなったー。でも、まだ終わっていない。油断はできない。
森の破壊王がゆっくりと私たちの方を見る。見るからに怒ってるね。
🌙
森の破壊王が走ってきた。両手に小さな魔剣を作って同時に投げる。真っ直ぐに森の破壊王の方へ飛んで行ったが、腕で簡単に叩き落された。
「もう一回!」
同じように小さな魔剣を作って投げる。同じように腕で叩き落される。私にはあの攻撃を受けきることはできないから、少しでも勢いを落とすために投げてたけど、それほど効果はなかったみたい。それでも、フレンは森の破壊王の振り回す腕を受けきってくれた。
「今度こそ!」
今度は魔剣を一本作り、森の破壊王の腕を斬り落とすつもりで振り下ろす。フレンが攻撃を受けていてくれたおかげで完璧に命中してくれたけど、斬り落とすほどの威力は無く、おそらく腕の骨で止まってしまっていた。
……駄目か。私の攻撃じゃ、森の破壊王には致命傷を与えられない。
「でも、諦める理由にはならない!」
フレンが信じると言ってくれたんだ。ここで簡単に退いたりはしない。離れようとしている森の破壊王に追い打ちをかける。骨まで斬ったところを狙う。もう一度全力で同じところを斬れば、今度こそ斬り落とせるはず。
「あ」
空振り。一瞬だけ弱気になったせいか、あと少し届かなかった。
「ガァ!」
空振りをして体勢が崩れていた私に森の破壊王が突進してくる。駄目だ。避けきれない……
「させない!」
「エスト!?」
私の盾になるようにエストが目の前に割って入った。杖で防ごうとしてるけど、それで突進が止められるとは……
あれ、エストの杖が赤く輝いている。それに気が付いたのと同時に、エストの杖に森の破壊王がぶつかった。エストは突き飛ばされ、森の破壊王は炎に包まれた。
エストに駆け寄りたいけど後だ。先に森の破壊王を倒す!
森の破壊王は炎を振り払おうとするのに夢中だ。今度こそ、その危険な腕を斬り落とす。
「はぁ!」
振り回していた腕と私の魔剣が交差して、森の破壊王の腕は宙を舞い、私の魔剣はポキッと半分になった。
……いたた、腕が千切れるかと思ったー。森の破壊王の方を見ると、もう片方の腕をフレンがあっさりと斬り落としていた。あんな太い腕をよく簡単そうに斬り落とせるね。
両腕を斬り落とされて炎に包まれている森の破壊王は、まずは炎を消そうとしているのか走り回り、木を三本倒したところですっころんだ。腕がないせいで立ち上がることはできないようだ。とりあえずはこれで安心かな。
あー疲れた。私とフレンは特に怪我はなかったかな。問題は突き飛ばされたエストだ。
「エスト。生きてる?」
「死んだかと思ったわ」
思ったよりも平気そうだった。どうやって助かったのかは分からないけど、生きてくれていたのならいいや。
「守ってくれてありがとう」
「あの、放心状態と言いますか、体に力が入らないと言いますか……立たせてくれません?」
エストは放っておいて、フレンが怪我してないか確かめないと。
フレンの方を見ようとしたら、森の破壊王が妙な動きをしていることに気が付いた。フレンの方を向いて、まるで力を溜めているような……
「フレン!」
私が叫ぶと同時に森の破壊王が足の力だけでフレンの方へ飛んだ。フレンも気が付いて剣を森の破壊王の口の中へ突き刺す。フレンの剣は深々と口の中へ刺さっていき。フレンの腕まで森の破壊王の口の中へと入っていき……
森の破壊王は口を閉じた。
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