第23話 右腕

「離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ!」

 魔剣を作って何度も森の破壊王ダークグリズリーの体に突き刺す。抵抗も何もしてこない。すぐに森の破壊王は死んだように倒れた。いや、本当に死んでいるのか?

 死んでいようが生きていいようが関係ない。魔剣を放り投げて、森の破壊王の口を両手で開ける。あった、フレンの右腕。

「返せ!」

 フレンの右腕を引っ張り出す。良かった。森の破壊王の唾液まみれだけど、どこも壊れてなくて綺麗なままだ。でも、剣は手から離れてしまっている。もう一度森の破壊王の口に手を突っ込んで、フレンの剣を引っ張り出した。すると森の破壊王の口から血もたくさん出てき始める。これは死んでるかな。

 しまった。右腕を取り返すのも大事だけど、早く止血しないと。このままじゃフレンが死んでしまう。

 フレンの方を見ると驚いた顔で私を見ていた。痛くないのかな。

「フレン。止血できる?」

「いや……」

 ん? できないってことかな? まあいいや。フレンは腕を噛み千切られて精神が少し不安定になっているかもしれないから、今回は私が止血に挑戦してみよう。エストは寝たまま動かなくて、今はちょっと無理そうだし。

 フレンの右腕があった場所に呪われた魔力の塊を引っ付ける。魔剣のように硬い魔力にする。治療とはとても言えないけど、とりあえず血を止めることはできた。エストに頼んで傷口を焼くよりかは痛くないと思う。

 ……でも、どんどん傷口の状態は悪化していく。早くちゃんとした治療をしないと。そのためにさっきのエルフの男を利用しよう。

「エスト。さっきのエルフは?」

「さっき私たちが隠れていた木の陰に隠しているけれど、一体何があったの? ルナしては取り乱していたわね」

 エストは本当に動けないのか。仕方ない。あとで肩を貸してあげよう。

「フレンが腕を噛み千切られちゃった。早く治療しないといけないから、エルフの里へ早く言って治療してもらうよ。そのためにさっきのエルフに恩返ししてもらう」

 エルフの男が森の破壊王を連れてきたせいで、私たちはこんなボロボロになってしまったんだ。多少酷いことをしても罰は当たらないはず。罰なんかよりもフレンが死んじゃうほうが怖いし、躊躇なんてするつもりないけど。


🌙


 エルフの男はすぐに見つかった。エストの言っていた通り、木の陰に転がって気を失っている。

「起きて」

 引きずっていくのは面倒くさいから自分で歩いてもらう。そのためには目覚めてもらわないといけないんだけど……なかなか目覚めてくれない。頭をたたいたり横腹を蹴ったり乱暴なことをしても起きない。こうしている間にもフレンの怪我は悪化しているのに。

 仕方ない。少し怪我をしてもらおう。手のひらサイズの魔剣を作って、エルフの男の右腕をぐりぐりとする。痛みのおかげかすぐに起きてくれた。

「いてっ、何をする!」

「うるさい。私たちは森の破壊王に追いかけられているあなたを助けてあげたの。その際に私の仲間が怪我をした。だからエルフの里で治療して」

 簡単にこれまでのことを話す。この少し会話する時間さえも惜しい。

「人間を連れて行ったら怒られちまうよ!」

「ここで死にたくなかったら連れて行って」

 魔剣をエルフの男の胸に軽く突き刺す。少しだけ服が地で赤くなった。

「わかった! わかったから、その物騒な魔剣をしまってくれ!」

 素直でよろしい。


🌙


 フレンの右腕と剣はフレンに持ってもらって、私はエストに肩を貸してあげて歩く。先頭はエルフの男だ。

「偶然とはいえ助けてもらったのは事実だ。俺はあんたらが悪さをしないと信じて連れていくよ。頼むから里で暴れたりとかはしないでくれよ」

 ローランがいれば能力アビリティで本当か嘘かわかるんだろうけど、私たちには信じて歩くことしかできない。もし嘘だったら……ふふ。

 おっといけない。罰ゲーム考えてたら笑っちゃいそうになったよ。

「里が化け物に襲われて、逃げ出せたと思ったら別の化け物に……あんたらがいなかったら俺は死んでいた。改めて礼を言わせてもらう。ありがとう」

 エルフの男がごちゃごちゃと喋っている。エストに肩を貸しつつ、フレンの傷口に魔力の塊を維持しながら歩くのは大変で、返事をする余裕なんてない。目の前がくらくらしてきた。

「里が襲われたとは?」

 フレンがエルフの男に聞く。傷口が痛むはずなのに。さっきから痛そうにしないけど、本当に痛くないとか? いや、そんなことはないはず。貴族だから我慢が足りないと思ってたけど、これは考え直す必要がありそうだね。

「杖を持った不気味な人間の女だ。俺たちの魔法を杖の一振りですべて消滅させ、軽々と上級魔法を連射してくる化け物だ。俺は恐ろしくなって逃げだしちまった……里が無事だといいが。ほら見えてきた」

 木の門が見えてきて、その奥には木造の建物がたくさん見える。エルフの里に到着できたみたいだ。

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