第20話 剣

「疲れた!」

 突然エストが叫んだ。フラフラとついてきていたけれど、もう歩きたくないのか、女の子座りをしてしまっている。

 私はまだまだ歩けるんだけどな。これだから魔法に頼っている賢者様は駄目だね。

「ルナ。少し休憩するかい?」

「嫌だよ。置いて行こう」

「酷い!」

 ソフィアさんに追いつくのはいつになることやら。怪我をしたりで、ただでさえ距離を離されているのに。

「仕方ないな。フレンが剣の使い方を教えてくれるのなら、休憩にしてあげてもいいよ」

「剣の使い方かい? 別に構わないよ」

 ずっと剣を作っても投げてきた。でも、これで少しは振れるようになるかもしれない。

「私はそこで休んでいますわ……」

 エストは木の方に歩いて行く。本当にフラフラだね。

 まあいいや。エストのことなんていったん忘れて、頑張って剣を使えるようになろう。


🌙


 フレンに剣の振り方とか教えてもらって素振りをしてるけど、気を抜くと剣が短くなってしまう。魔剣を維持しながら素振りするのは集中力が必要で、十回振るだけでも頭がぽわーんとしてくる。

「どのくらいの攻撃を防げるのか試してみようか」

 どうにか百回素振りをしたところでフレンに提案された。断る理由はないから、教えてもらった通りに剣を構える。するとフレンが剣をゆっくりと振ってきたから、フレンの剣に魔剣をぶつけた。

 一応防ぐことはできた。さすがにゆっくりな攻撃くらいは防げないと。

 同じようなこと何度も繰り返す。少しずつフレンの剣が重たくなってきて、何回目か数えるのをやめた頃に防ぎきれなくなった。私の魔剣が真っ二つになる。思ったよりかは防げたかな。

「思ったよりも防げたね」

 フレンも同じ考えだったみたいだ。もう少し鍛えれば、接近戦もできるようになるかもしれない。もっともっと鍛えれば、フレンと本気の稽古ができるようになれるかもしれない。

「よし、素振りするよ」

 私の魔剣がどの程度の攻撃を防げるのかは分かった。たぶんゴブリンくらいだと思う。あとは素振りをいっぱいして、魔剣にもっと慣れるだけだ。魔剣を維持しながら振るくらいはできないとお話にならないからね。


🌙


 エストの休憩が終わることには少しずつ暗くなってきていて、私の素振りは千回を超えていた。数えていなかったから超えてないかもしれないけれど、たぶん超えていると思う。

 途中からフレンも素振りに加わって、二人で良い汗をかくことができた。できればお風呂に入りたいな。水浴びでもいいから汗をどうにかしたい。

 夜になるまでに宿が見つからないかな……

「二人とも! 早く出発するわよ!」

 エストはすっかり元気になって、またうるさくなってしまった。これなら少し疲れているくらいがちょうどいい。


🌙


 宿は見つからず暗くなってしまった。

「フレン。野宿するの?」

「そうだね」

 フレンが赤い物を取り出した。握りこぶしくらいの大きさで、宝石ほどではないけど綺麗な色で透明感もある。何だろうこれ。

「これは魔法道具マジックアイテムだよ。効果はたき火とほとんど同じ」

 フレンが魔法道具に魔力を込めている。魔法は使えないのに魔力を込めることはできるんだね。

 すぐに反応があった。燃えているように赤く明るくなって、このあたりが少し暖かくなってきた。

「見張りはどうしようか。僕がずっとやっても」

「それはよくないね」

 フレンが言い切っていなかったけど反対する。フレンが疲れて戦えなくなったら大変なことになってしまう。

「眠気の限界まで私が見張るから、二人とも今のうちに眠ってよ」

「うーん……一人で大丈夫かい?」

「大丈夫」

 見張りの間はずっと素振りをしようと思っている。だから途中で眠ることはないはず。

「分かった。最初はルナに任せるよ。眠たくなったら交代するから、すぐに起こしてくれ。魔物が来ても起こすんだよ」

 エストが「私は?」と言っている。エストに任せるのは不安だな。

「エストは起きたらでいいんじゃない? 頑張って早起きしてね」

「分かったわ!」

 こんな感じに順番は決まった。


🌙


 たき火代わりの魔法道具の効果範囲外はすっかり真っ暗になってしまっている。あまりに暗くて最初は少し怖かったけれど、慣れたのか素振りに夢中だからか、暗さはすっかり気にならなくなった。

 そろそろ一万回くらいは振ったかな。魔剣はすごく軽いとはいえ、数えきれないほど振っていると腕が痛くなってくる。でも、少しは魔剣の維持ができるようになってきたかな。

 ……よし、もう少し頑張ろう。


🌙


 魔物が全然出てこないから、魔物もみんな眠っているのかなと思っていたけど、骸骨の魔物が襲ってきた。夜はアンデット族の魔物がウロウロしているのか。

 二人を起こそうかと思ったけど、素振りの成果を試したくなって、骸骨と戦ってみた。骸骨は武器とか持っていなかったから、長めの魔剣を作って、リーチの長さを活かして戦ってみたら簡単に勝てた。どうやら頭蓋骨を真っ二つにしたら動かなくなるみたい。


🌙


 骸骨ばかり現れるから、二人を起こさずに戦い続ける。骸骨は弱いから怖くない。

 でも、さすがに疲れてきた。腕もパンパンだからフレンと交代しようかな。

 ……あ、また骸骨が出てきた。


🌙


 やっと骸骨が出てこなくなった。もう駄目。限界。

「フレン。交代してー」

「……あ、ルナ」

 フレンが私の体をじろじろ見ている。どうしたんだろう。

「やっぱりルナは無理をするね。そうやってヘトヘトになるまで見張りすると思ってたよ。熟睡してしまった僕が悪いんだけどさ」

「あー、えっと、説教なら明日聞くよ。もう疲れて眠たい」

 私は草の上に横になる。あー、睡魔に食べられるー。

「おやすみ」

 うん、おやすみ。

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