第19話 東へ
少し遅めの昼食を食べ終わり、ついに町を離れる時が来た。最後にローランに挨拶しようと思ったけど、まだ家にいなかったから『お礼は必ずします』と書いた紙を置いといた。結局あまり話さなかったな。忙しそうにしてたから仕方ないか。
何日分の食料なのかは知らないけど、一応食料も買えた。さてと、次はどこへ向かうのだろう。ローランがいなかったから情報を買えてないんだよね。情報代払えてなさ過ぎて売ってくれなさそうだけど。
「ねえ」
しばらく静かだったエストが口を開いた。うるさいから喋らなくていいのに。
「二人の言っていた呪いの杖と関係があるのかは知らないけど、ここから東の方で怪しい杖を持った女の情報があるのよ。情報が正しいのかローランに確認できれば良かったのだけれど……行ってみない?」
今朝ローランの家に来た目的が何だったのか少し気になっていたけど、その情報の確認に来ていたんだね。
「他に手がかりはないし、言ってみていいんじゃないかな」
私は賛成しておく。決めるのはフレンだ。
「そうだね。行ってみる価値はあると思う」
フレンがエストにお礼を言ってエストが照れている。隣でイチャイチャしないでほしいね。
えっと、ここから東か。村から見て町は南にあって、さらに東の方に行くから、どんどん村から離れていくね。町にも私の知らない良いものや悪いものがいっぱいあったけど、この先にもいっぱい待ち受けているのかな? またワクワクしてきた。
🌙
町をとうとう出た。まあ、さっきも任務で出たけど。
出る前に偶然買い物中のシスターに出会ったりしたけど、特に問題なく出発できる。何かに巻き込まれて明日出発になるような気もしてたけど、ちゃんと今日中に出発できた。順調だ。
「途中で泊まれるところとかあるかなー」
野宿も一度やってみたいから無くてもいいけど、話題もあまりないから聞いてみた。
「一カ所くらいあるんじゃないかな?」
「この先はエルフの里しかないから、人の泊まれる宿はないかもしれないわね」
二人の意見は真逆だった。ていうか、エストが意外と物知りだ。
「エルフの里に行って大丈夫なの?」
人間とエルフの関係はよく知らない。知っていることといえば、ソフィアさんの師匠がエルフだってことだけだ。あと人間より魔法が上手なのかな?
「大丈夫なわけないでしょ。ルナは何も知らないのね」
「田舎者だからね」
「あら、そうだったのね。だからドワーフみたいに土臭いのね」
むっちゃ失礼なこと言われた。世界中の田舎者をエストは敵にまわしたね。私はドワーフを敵にまわしたかもしれないけど。
「仕方ないわね。簡単にだけど教えてあげる。人間とエルフは戦争をしていたのよ。私とルナが産まれたころもたぶんしていたわ。それくらい最近のこと。人間が勝ってエルフが負けた。このあたりは辺境と言っていいような場所だからエルフの里なんてあるけれど、王都に近いほどエルフの奴隷が多くて、きっとエルフは人間を嫌っているわ」
本当に簡単な説明だったね。でもまあ、だいたいわかったのかな。
「なんでエルフの里を攻めないんだろうね。それか、エルフが人間に攻めてきてもおかしくないと思うんだけど」
「エルフの魔法は強力だから攻めたくない。人間を刺激して攻められたくないから攻めない。そんなところじゃない?」
なるほどねー。
「エルフの魔法は強力なのに、どうして人間は勝ったの?」
「人間は数が多いから。ドワーフとか獣人とかと比べても圧倒的に人間が多い。それだけよ。まあ、エルフだろうと私の魔法には敵わないでしょうけど」
なるほどなるほど。また先生のメモ帳の白紙が減ったよ。
🌙
「そういえば、エストって私のライバルなの?」
話すことがないから、どうでもいいことを聞いてみた。
「そうよ! 次戦うまでに強くなって、必ずルナをコテンパンにするわ!」
「そっか」
じゃあ、私も負けないように鍛えとかないと。
「どうでもよさそうね……」
「そうでもないよ。私も負けるつもりはないから」
「それでこそ、私のライバルにふさわしいですわ!」
でも、ライバルが仲間ってライバルっぽくないな。旅の途中で偶然再会して勝負するのがライバルっぽい。まあ、何でもいいか。
「フレンにライバルっているの?」
蚊帳の外なフレンにも話しかけてあげた。空気にならないように頑張らないと。エストが仲間に入ったからってサボっちゃ駄目だよ。
「貴族だったころに兄さん競い合っていたよ。結局一度も勝てなかったけどね」
「えー」
フレンも十分強いと思うんだけど、もっと強い人がいるのか。信じられないな。
あとは……
「私にライバルっていたかな……」
「私でしょ!」
あ、そうか。エストがライバルなのか。仕方ない。エストで我慢してあげよう。
🌙
魔物がたまに現れるけど、難なく倒しながら道を歩き続ける。真っ黒な剣を何度か使ってきて、少しずつ扱いに慣れてきた。
「ルナの魔剣は何度見てもすごいね」
「そう?」
また襲ってきた魔物に魔剣をぶつけたところでフレンに褒められた。まだまだ弱いから褒められるとは思っていなかった。
「そうですわね。そんな魔力だけで作った魔剣を使っていたら、あっという間に魔力が枯渇するはず。でもルナは平気な顔をして何度も作っている。どんなイカサマを使っているのかしら?」
「へー、そうなんだ」
並みの魔法使いじゃ作ることもできないのかな。結構簡単なんだけど。
「エストの魔法の方がすごいじゃん」
「威力は私の方が上よ。でも、魔法をぶっ放すのと、魔力で何かを作って維持するのとではまた別なの。維持し続けるとどんどん魔力を消耗していく。でも、ルナにはその様子はない。ルナの魔力が桁違いなのか、何かイカサマを使っているのか、どっちなのかしら?」
……さあ?
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