第18話 仲間

 真っ黒な剣をブンブンと振り回してみる。イメージや気持ちが足りないのか、どんどん短くなっていき、柄の部分だけになってしまった。こうして短くなったってことは、私の魔力で作られていたのは間違いなさそう。

 深呼吸をして気合を入れなおす。フレンの剣をしっかりと見て、イメージをしっかりして、気持ちは……頑張るぞーって感じで。

「おー、できた」

 禍々しい呪われた魔力だけでできた剣。魔力を込められた剣を魔剣というらしいけど、これも魔剣といっていいのかな。

 まあいいや。とりあえず投げてみよう。斬ってみたい気もするけれど、剣の振り方なんて知らないから、今回は我慢してフレンが隙を作ったら投げる。

「フレン! 準備できたよ」

 私が叫ぶと、フレンが大きくバックステップをして距離をとり、姿勢を低くしてリザードマンの懐まで駆ける。リザードマンが腕を振った時には、フレンの剣がリザードマンの胸を切り裂き。フレンはリザードマンの横を駆け抜けていた。すごい速い。

「ルナ!」

 分かってるよ。私は全力で魔剣を投げた。魔剣が軽すぎて投げたって気がしないけど、ちゃんとリザードマンの方へ真っ直ぐに飛んでいき、フレンが切り裂いた胸に突き刺さる。良いコントロール。

 リザードマンは倒れる。まだ生きていて、立ち上がろうともがいているけれど、どれだけ力を入れても立ち上がれないでいるように見える。

「フレン……」

「うん」

 フレンはリザードマンの首を斬って止めを刺した。お金の為に殺したって考えると、すごく悪いことをしたって気がしてくる。

 ……でも、私たちが殺さなくても、他の傭兵の人が殺していたかもしれない。それに、生き物なら食べるためにたくさん殺している。かんがえすぎかな?うーん……考えるのをやめよう。

「ルナ?」

 フレンが心配そうに私を見ていた。

「大丈夫だよ」

 しっかりしないと。


🌙


 エストが見当たらない。先に帰ったのかな?

「ルナー」

「うわっ」

 私の足元で寝転がっていた。こんなところで寝転がっているせいで服に土がついている。馬鹿のすることは理解できないね。

「疲れましたわー」

「ずっと転がってたの? それは疲れるよ」

「違います! ゴブリンの群れが近づいてきていたので、一人で全部追い払っていたからであって、コロコロ転がるなんて馬鹿みたいなことしてませんわ!」

 噛まずによく言えましたねー。

 えっと、確かに戦った跡が残っている。ゴブリンの一部があちこちに落ちていて、近づきたくない空間が出来上がってしまっている。

 ゴブリンは魔物の中ではかなり弱い方だけど、群れで行動していることが多くて、少数で戦うと苦戦することが多いって聞いたことがある気がする。誰から聞いたっけ? まあいいや。だから、一人でゴブリンの群れを倒してしまったエストはすごい。たぶん。

「エストは傭兵よりも軍に入った方がいいんじゃない?」

 エストの魔法は攻撃範囲が広いから、敵の数が多ければ多いほど活躍できそう。軍ならたくさんの味方が前で守ってくれるだろうから、一人で戦うよりかは安心して魔方陣を書けると思うし。

 そう思ったんだけど、エストは頬を膨らませて、怒ったような顔をした。

「人同士で殺し合うなんてごめんですわ。それこそ馬鹿のすることよ」

「……そっか」

 さっきやった決闘は殺し合いに近かった気がするけど、エストが少し悲しそうにしている気がして、なんとなくつっこむ気が起こらなかった。

 えっと、そんな雰囲気になってしまったということで、さっさとリザードマンを引きずって帰ろう。


🌙


 リザードマンを届けて、貰った報酬で治療費を払って、残りの報酬の一部で昼食を食べることにした。まだエストは一緒に行動している。

 まだ料理が来なくて、のんびりと待っている状況。

「ねえ、エスト。これで一緒に任務行くのは終わりでいいんだよね?」

「仕方ない……わね」

 エストは見るからに落ち込んでいる。そんなに私たちと一緒にいたいの? フレンは良いとして、私はたいして役に立たないし、エストの顔を重いっきり殴ったのに。

 ……仕方ない。

「別にフレンが連れて行ってもいいって言うなら、仲間になってもいいけど」

「……え?」

「フレンが私もエストも守り切れるのなら構わないよ。私はエストを仲間にするの反対だけど、フレンが良いって言うのなら我慢する。もう一回言うけど、私は反対だからね」

 え、なんかエストが震えながら近づいてきているんだけど。なに? 反対って言ったから怒ってるの?

「ルナ!」

「店内では静かに。うるさくして許されるのは五歳までだよ」

「そ、そうね」

 周りの人たちに見られているのに気づいて、エストは恥ずかしそうにしながら座る。

「ルナ。仲間にしてくれてありがとう」

「いや、まだしてないからね。お礼言うならフレンに許可貰ってからにしてね」

「そ、そうだったわね」

 エストは今度はフレンに近づいて、上目遣いでフレンを見ている。これは駄目だ。エストは馬鹿で魔女だけど、なかなか可愛らしい女の子でもあるから、ロリコンマスターのフレンじゃイチコロだ。

「いいんじゃないかな」

 エストが聞く前に許可出しやがった。

 ……おっと、少し口調が乱れたね。


🌙


 料理が来たから黙々と食べている。ハンバーグを揚げ物にしたような食べ物があると聞いていたけど、まさか本当に存在していたとは。デミグラスソースっていうのと相性抜群ですごくおいしいよ。名前はメンチカツね。よし、覚えた。

 ハンバーグを食べた時にも思ったけど、村と町でここまで食べ物に差があるとはね。城下町とか大きなところだと、食べ物も町より豪華になるのかな? 

「そういえば聞いていなかったわね」

 エストが上品に口を拭きながら話しかけてきた。

「なに?」

「二人の関係……じゃなくて、目的よ」

 ああ、言ってなかったね。

「フレンの彼女に私のお父さんの形見を盗まれちゃったから取り返す。それが目的だよ」

「そこまで間違ってないけど、誤解を招きそうな言い方だね」

 誤解なんて招かないと思うけどね。何も間違ってないし。ソフィアさんが杖に呪われておかしくなってるかもしれないって言ってないだけ。

「杖……それってレアな杖だったりするのかしら? 形見とか盗んだとか言うくらいだから、すごい杖なのよね?」

 それなりにすごい杖だと思うけど……もしかして、エストはお父さんの杖がほしかったりするのかな? 残念なことに呪われているから、たぶん使うことはできないと思う。

「ただの呪われた杖だよ」

 エストは「そうなんだ」とだけ言った。

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