第17話 任務

 エストとの決闘で足を大やけどして、今日は任務をできないんじゃないかと思っていたけれど、病院の先生がすごい優秀な人で治してもらえた。治癒魔法をしばらく火傷した足に使い続けていたら、何事もなかったかのように綺麗な足に戻って、見た目だけじゃなくて痛みも消えた。

 治療費を払えなかったから、今日中に任務を終わらせて払わないと、ちょっと不味いことになりそうだけど、任務にはいく予定だったから問題ない。

 一番の問題は任務行く前にお昼ご飯を食べられないこと。こんなことになるのなら、エストに投げた宝石をちゃんと拾っておくんだった。私だけじゃなくてフレンもエストもすっからかん。決闘のせいでお腹が空いて最悪。

「そんな感じなんだよ」

 何故かまだ一緒に行動しているエストを睨む。本当にどうしてまだいるの。私が勝ったんだから、さっさとどっかに行ってほしいんだけど。

「私も治療費を払いたいのですが、今は持ち合わせがありません。仕方ないので、ライバルと一時的に協力して任務をやります。そんな感じですわ」

「協力なんてしないよ。賢者様なら、私たちと協力しなくても、王カマキリだろうと何だろうと倒せるんでしょ?」

「……」

 あとライバルってどういうこと? エストにどう思われようと気にしないけど、また勝負を挑まれたりしたら面倒だな。

 ん? エストが手をつないできた。小さくて柔らかい手をしてるね。私は畑仕事とかしてたから、ボロボロでカチカチの手になってしまった。可愛らしい手でちょっと羨ましい。

 で、どうして手をつないできたんだろう。

「私を……私を……」

 なんか震えてる。こんなに温かいのに寒いのかな?

「賢者と信じてくれたのはルナだけよ! ありがとう!」

 両手で私の手を包み込んできた。柔らかくて結構気持ちが良い。さて、嬉しそうなところ申し訳ないんだけど、勘違いしているお馬鹿さんに教えてあげよう。

「賢者様って言ったのは皮肉ってやつだよ。信じるわけないじゃん」

 ただ、三割とはいえ上級魔法を使えているのは真実。だから全く信じていないわけじゃない。

「私! ルナ! 嫌い!!」

 あーもう、うるさいよ。


🌙


 あまりにもしつこいから、一度だけ任務に連れて行くことになった。フレンも反対しなかったから、あっさりと連れて行くことになってしまった。少しくらい反対してくれたらいいのに。

 で、受けることにした任務は『リザードマン1匹を連れてこい(生死は問わない)』ってやつ。フレンが言うには、大カマキリよりかは強敵だけど、王カマキリよりかはずっと弱いらしい。だから報酬も微妙だけど、私とエストの治療費を払ってもおつりがくるくらいは貰える。報酬も難易度もちょうどいいくらいかな。

「リザードマンの鱗は硬くて力も強い。でも、動きはそれほど速くない魔物だね。魔法にはそれほど強くないから、僕が隙を作ったら頼むよ」

 私の魔法がリザードマンに効果があるか分からないけど、エストに魔法を使わせたらフレンまで巻き込まれるかもしれない。私がしっかりしないと。

「頼まれたよ」

「私の上級魔法で木っ端みじんにしてあげますわ!」

 はぁ……

「任務の内容はリザードマンを連れてこいなんだから、粉々にしたら駄目だよ」

「そうでした!」

 やっぱり馬鹿だ。


🌙


 リザードマンを倒す任務を受けたからといって、すぐにリザードマンが見つかったりしない。当たり前だけど、数の多い種類の魔物を倒しながら、目的の魔物を探すことになる。

 だから、大カマキリを一匹倒した後に見つかったのは運が良かった。ちなみに大カマキリは、フレンが剣で一刀両断にした。剣が重くなったけど、威力も大きくなったことで、大カマキリがフレンの攻撃を受けきれなかった。

 さてと……

「あれがリザードマンか」

 フレンよりは大きいけど、森の破壊王ダークグリズリーよりかはずっと小さい。

「私がやってやるわ!」

 エストが魔方陣を書き始めたから、私は魔方陣に呪われた魔力をぶつけて台無しにする。

「ああ! 何するのよ!」

「ああって言いたいのはこっちだよ。大きい声出すからばれたじゃん」

 リザードマンはこっちにのそのそと近づいてきている。予想以上に遅い。

「エストが攻撃したらリザードマンが消滅しちゃうでしょ。フレンと私が倒すから、エストは他に魔物が近づいて来たらお願い」

「そんな! それじゃあ私が目立てませんわ!」

「そのお姉さん口調みたいなのそろそろやめたら? 子どもなのにそんな口調だと馬鹿みたいだよ」

「私は大人なの!」

 私とエストが喋っている間に、フレンがリザードマンへ斬りかかる。まずは様子見といった感じで、最初に一度斬っただけで、あとはリザードマンの攻撃を避けつつ後ろへ下がる。

 余裕があるのかないのかは私には分からないけど、たぶん大丈夫でしょ。よーし、私も参戦しよう。

 近づいたらフレンの邪魔になるかもしれないから、ここから呪い魔法で援護することにする。フレンのおかげで安心して詠唱することができる。

 使うのは、教会の魔導書に書いてあった、呪い魔法の一番簡単なやつ。そういえばシスターが詠唱とか魔法名とか何でもいいって言ってたっけ。大事なのはイメージと気持ちだったかな?

 よし、一番簡単な呪い魔法を私なりにアレンジしてみよう。


🌙


 目を瞑る。そうすると、あたりにはたくさん魔力が漂っているのを感じる。ふふふ、この魔力たちをどう苛めてあげようか。

 確か一番簡単なのは丸く固めるんだったっけ。よく考えたら無詠唱でよくやってるやつじゃん。いつもと同じやつやってもつまらないし、せっかくの機会だから新しいことに挑戦して成長したい。

 何がイメージしやすいかな。いつも見ているようなものが良いのかな。いつも見ているものって言ったら、フレンくらいしか思いつかないな。

 あ、そうだ。フレンの剣にしよう。いつも戦っているフレンと一緒に見てるからちょうどいいし、もし成功したらフレンに剣技を教えてもらえるかもしれない。

 フレンの剣を呪われた魔力で作るなら目を開けよう。イメージするよりも見ながら作った方が簡単そう。我ながらナイスアイデアだね。

「あれ?」

 目を開けたら手に真っ黒な剣みたいなのを持っていた。私って天才かもしれない。

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