第15話 エストの実力

 町の外へ出た。エストが言うには、魔法の威力が高すぎて町の中では使えないらしい。町の外にまで連れ出しておいて、しょぼい魔法しか使えなかったら、恐ろしい罰ゲームが待っているね。

 で、町の外に出てから少し歩いているけど、どこまで行くんだろう。

「ねえエスト。どこまで行くの?」

「ちょうど良い的を見つけましたわ」

 相変わらずのお姉さん口調だね。そんな無理して大人ぶらなくてもいいと思うんだけどな。

 えっと、それで的っていうのは……

「え、なんでこんなところにいるの」

 森の破壊王ダークグリズリーのゾンビ。たぶんフレンが戦ったやつと同じ。肉体が腐ってきたのか、私たち以外とも戦ったのか、あちこちの肉が落ちて骨まで見えてしまっている。でも、ゾンビだから痛みなんて感じない。弱くなった手足で這うように土の上を移動している。

 まだ距離はあるし、少しはあったかもしれない視力も失っていると思うから、前回ほど危機感は感じない。でも、フレンはまったく油断した様子はなくて、この距離でも剣の柄に手をかけている。

「二人とも。そんなピリピリしなくても大丈夫よ。なぜなら、ここには賢者エストがいるのだから!」

 なんだか、すごく不安になってきた。


🌙


 エストは踊るように杖で地面に魔方陣を書く。素人が見ても完璧に思えるほど美しい魔方陣。それを止まることなく書き上げた。

「二人とも! 吹き飛ばされないように気をつけなさいよ!」

 エストは杖を魔方陣の中心に突き立てた。突き立てることにどんな意味があるのかは分からない。詠唱と同じような意味があるのかもしれない。

「《メテオストライク》」

 魔方陣が光り輝く。なんか凄そう。エストの言う通り、何が起きても吹き飛ばされないように気をつけないと。

 エストが突き立てていた杖を引き抜く。でも、魔方陣は光り輝いたままで変化はない。どんな凄いことが起きるんだろう。

 ……えっと、どうなるんだろう。フレンの方を見てみると首をかしげていた。私がどうなっているか分からないのに、魔法を使えないフレンが分かるわけないか。

 しばらくすると魔方陣の光が収まった。

「ねえ、エスト。何がどうなったの?」

 聞いてみたけど無視された。エストはまた踊るように魔方陣を書き始める。相変わらず美しい魔方陣が完成しそうだけど……

「ねえ、エスト。さっきの《メテオストライク》ってなんだったの?」

「うるさいわね! 私の魔法の成功率は三割なの! 気が散るから黙ってみてなさいよ!」

 ……そうですか。


🌙


 森の破壊王がいた場所にクレーターが出来上がっている。八回目でとうとう成功して、空から大きな岩が降ってきて、森の破壊王をぺちゃんこにして爆発した。確かにこれを町で使っていたら大変なことになっていた。

「どうよ! 私さえいれば王カマキリだろうと何だろうとぺちゃんこなんだから!」

 まあ、そうだろうね。よほど強い魔物じゃないと耐えきることはできないと思う。

「でもさ、そんな魔法を近くで使われたら、私たちまでぺちゃんこだよ」

「う、うるさいわね! 私だって分かってるわよ……」

 エストは落ち込んでしまった。私の言ったことが、仲間ができない理由なのかな。

「あんな強力な魔法が使えるのなら、初球の魔法も使えるんじゃないのかい?」

 フレンにしてはもっともなことを言ったね。普通に魔法を練習してたら、初球の魔法から使えるようになるはず。

「……使えてたら苦労してないわよ」

「え、使えないんだ」

「うるさいうるさいうるさい!」

 超強力な魔法しか使えなくて成功率が三割って私並な役立たずじゃないかな。


🌙


「で、どうなのよ! 仲間にしてくれるの! してくれないの!」

 やけになったようにエストは言う。本当にやけっぱちなのかもしれないけど。

 とりあえずフレンに聞いてみよう。

「どうしよう?」

「そうだなぁ……」

 さすがのフレンも困り顔。

「私一人も守り切れないのに、これ以上足手まとい増やせないよね」

「うぐっ……」

「足手まといって言うなー!」

 フレンは肩を落として、エストは元気に叫ぶ。二人とも良いリアクションだね。

「ルナ! 勝負よ! 足手まといって言ったことを後悔させてあげるわ!」

「え、嫌だよ」

「いいから決闘よ! 私が勝ったら仲間に入れてもらうから! 足手まといって言ったこと後悔させてあげる!」

 エストは私に杖を向けてくる。私が弱そうだから、こんな勝負しかけてきたのかな。ずるいというか、賢者の風上にも置けないね。

 で、どうしよう。自称賢者のエストちゃんに私は勝つことができるのか。それは、やってみないと分からないけれど、決闘を仕掛けてきたということはエストは勝つ自信があるのだろう。

 うーん、決闘とか言われても困るなぁ。でもまあ、いいかな。

「仕方ない。受けてあげるよ」

「え、本当に受けるのかい?」

 フレンは驚いている。まあ、驚いて当然かな。魔物と戦っていた時にはフレンに任せっぱなしだったし。

「うん、受ける。逃げてばかりだと強くなれないし」

 昨日の教会でのことで、魔法のことを色々と知ることができた。エストとの決闘が成長につながるかは分からないけれど、やってみる価値はあると思う。

 それにフレンがいるから、本当に危ないときは守ってもらえるだろうし、怪我をしても町まで運んで治療してもらえる。フレンは便利だね。

「決闘をするというのなら、僕はこれ以上口を挿むことはできない。でも、怪我が治りきっていないんだから、無理をしてはいけないよ」

「無理しないよ。ありがとう」

 よし、頑張るぞー。

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