第9話 シスター

 逃げ道は断たれて、シスターに杖を向けられている。森の破壊王ダークグリズリーと比べたら、ずっと弱い相手ではあるけれど、あの時とは違って狙われているのは私だ。小細工なんてできる隙は無い。それに怪我のせいで満足に動くこともできない。昨日に続いて絶体絶命か。

 でも諦めないよ。正面からシスターを倒す。ろくな魔法を使えないのなら、魔法を使ったシスターを真似して、そのうえで勝つ。経験だとか後出しが不利だとか関係ない。やるしかない!

「あら、私と勝負するつもり? いいわ。決闘よ」

 決闘。私から戦うという意思を感じて、シスターはそれを受けたということだ。「子供相手にムキになっちゃってー」なんて軽口をたたけるような雰囲気は完全に消えた。

「決闘の開始を宣言してあげる。それでは、始め!」

 シスターの魔力が膨れ上がった。


🌙


 呪いは多少感じることができるけど、普通の魔力を私は感じられない。正確には人の中にある魔力は感じられない……だね。空気中とかにあれば、集中すれば感じることができる。なら、私も感じることができるほどの強大な魔力をシスターは使えるのか、もしくは……

「私と同じか」

 シスターだから光魔法を使う。そう思っていたけれど、私と同じ呪われた魔力を使うのなら勝算はある。私の耐性がシスターの呪い魔法を上回っていれば、威力を無力化することができる。

 ああ、完全に呪われた魔力だ。最初はここまで禍々しくなかった。でも、今はシスターの周りの空気が腐るほどの禍々しさが漂っている。

「邪神ディスよ! 愚かな豚に戒めを! 《闇の鎖ストーン》」

 シスターの周りで漂っていた禍々しい魔力が私の方へ伸びてくる。それが私に当たると、当たったところから石化が始まった。泣き叫びたいほどの激痛がするけれど、そんな暇はない。

「邪神ディスよ! 愚かな豚に戒めを! 《闇の鎖》」

「真似なんてしても無駄よ! 使えたとしても、杖も持っていないあなたに……私が押されてる!?」

 石化していた私の体が戻っていく。シスターの言った通り私が押してる!

 どうして押しているのか分からない。でも、このチャンスは逃せない!

「「邪神ディスよ! 愚かな豚に戒めを! 《闇の鎖》」」

 私とシスターが同時に呪いを重ね掛けした。

 その結果、シスターがあっという間に呪いに包まれて石になる。痛みを感じることもなさそうな早さだった。

 確実に苦戦すると思っていたけど、案外あっさりと勝つことができた。あっさりと負ける可能性も十分にあったのだろうけど。


🌙


 決闘が終わると様々な変化が起き始めた。まず教会がボロボロな廃屋のような建物に変わった。綺麗な教会は、シスターが魔法で見せていたのかもしれない。不気味に感じていたのはこれが原因なのかも。

 シスターが消していた扉が現れると、お祈りをしていた人たちが入ってきた。石化したシスターと近くで立っている私を見ると、私を指さして悪魔だとか化け物だとか言って去っていった。元気な人たちだ。

 そして最後に、教会の奥の方から子供たちが走ってきた。二十人くらいいそうだ。私よりずっと小さい子から同じくらいの子までかな。

「お姉ちゃんを元に戻せ!」

 先頭の私と同じ年くらいの男の子が叫んできた。体が震えているけれど、私を睨んで敵意むき出しだ。

「シスターのこと?」

「そうだ! どうしてこんなひどいことをするんだよ……ひっぐ……」

 男の子が泣き出すとみんな泣き出した。あーもう、ここは本当にどうなってるの。


🌙


 男の子から色々聞き出そうとしたけれど、泣きながら叫びまくるせいで意味が分からない。ならシスターから聞こう。こうして石にしたけど、私は人殺しをしたいわけじゃない。今回は仕方なかった。

「シスターの呪いを解いてあげるから書庫に案内して」

「ほ……んとう?」

「うん。書庫に行けば私の本来の目的も達成できるし、ついでにシスターを助ける方法も探してあげる」

 シスターは嫌いだけど、シスターがいないとこの子たちがみんな死んでしまう。それは後味悪いし、元々殺す気なんてなかった。そんなわけで助けることを子供たちと約束した。


🌙


 どれだけ時間が経ったのだろう。窓から外を見ると、太陽が沈もうとしていた。

 フレンとシスターを助ける方法は分かった。準備が必要だ。

「ねえ、宝石はある?」

 宝石には魔力が多く含まれている。宝石の魔力と呪いの汚れた魔力を打ち消し合って、二人の呪いを消滅させる。

 光魔法があればお金がかからないんだけど、使える人は少ないらしくて厳しい。これから光魔法を使える人を探しに行くなんてしんどい。

「お姉ちゃんが売ろうとしてた宝石があるよ」

 近くにいた女の子が答えてくれた。

「馬鹿! 盗まれたらどうするんだ!」

「でも……」

「喧嘩はあとにしてくれない? 疲れたから早く助けに行くよ」

 新しいことを覚え過ぎた。早く全部終わらせて休憩しないと、頭が爆発してしまいそうだ。


🌙


 魔導書を読んでいて気づいたことがある。私が普通の魔力より呪われた魔力を感じやすいように、普通の人は呪われた魔力より普通の魔力を感じやすい。

 つまり、シスターが呪われた魔力を使っていたのは、教会を綺麗に見せる魔法に気づかれにくくするため。私には不気味に映った教会も、普通の人ににとっては綺麗な教会だったのだろう。

 呪われた魔力をそんな風に使えるなんて、シスターは器用なんだね。たぶん、書庫にある魔導書で必死に勉強して習得したのだと思う。そんなシスターに一言送ってあげよう。

「あなたにも運がなかった」

 生まれつき呪いに耐性がある、呪いに恵まれた私が相手だった。シスターの敗因はそれだけ。杖で叩いていれば勝ててたのにね。

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