第8話 教会
ローランが買ってきてくれた可愛い服に着替えて、怪我の痛みに耐えながら外へ出る。え! なんで地面が石でできてるの?
建物は村と同じ木造だけど、私の家より倍以上あるような建物がたくさん並んでいる。建物と建物の間にある道には、朝からたくさんの人が歩いている。別の世界にでも飛ばされてしまったみたい。
教会は……あれかな。外に出ればわかるってローランが言ってたから、他の建物と違って真っ白なあれが教会だと思う。十字架ってやつも見えるし。
でも、こんなに人が歩いてたら近寄れないよ。人の少ないところを通って少しずつ近づくしかないかな。
……なんだか空気が気持ち悪い。地面が石で建物は大きくてすごいところだけど、ちょっと苦手かな。
🌙
こんなすごい町なのに、人々の表情は村と大差ないことに気付いた。空気が気持ち悪いから、体調が悪くなっちゃったのかな。私なら毎日この道を歩いていたら、すぐに病気になりそうだなぁ。
よく見ると、光の当たらないような端っこの方で、死んだように座っている人たちがいる。疲れて休憩をしているのかな? なんだか、それだけじゃないような気がする。
ふぅ、しんどい。怪我のせいで歩くのがつらい。急がないといけないけど、少しだけ休憩しよう。
また町の人たちの表情でも見てみよう。うん、やっぱり元気がない。どこに暮らしても苦労はするんだね。
建物は大きくても人は同じ。そう思ったら、圧倒された町並みもたいしたことないように思えてきた。あとはフレンが隣にいたら完璧。よし、休憩は終わりにして出発しよう。
🌙
お店とかに目を奪われそうになったけど、どうにか寄り道せずに教会の前までやってこれた。寄り道するならフレンとしないとつまらないし。
「大きくて綺麗」
建てられたばかりのような真っ白さ。花壇とか木とか丁寧に手入れされている。完璧すぎて逆に不気味。リーゼおばさんの空っぽな笑顔とは違う不気味さだ。さっさと用事を終わらせて戻ろう。
大きな扉を開ける。中も広い。色のついたガラスを通って入ってくる太陽の光がとても綺麗。その光を浴びながら、何人かお祈りをしている。その人たちの一番前に立っている、変な服を着た人がシスターって人かな。
それにしても綺麗な場所だ。なのに、まったく心を奪われない。村で収穫した野菜の方が何倍も感動する。なんでだろう?
まあいいや。シスターに話しかけよう。
「あの……」
「おお! 素晴らしい! 一点の曇りもありません! あなたこそ神の子と呼ぶに相応しい!」
え、なに? 目が合った途端に変なことを言われた。怖い怖い怖い。
「さあ! 神の子よ祈るのです! 迷える子羊らに祝福をお与えください!」
私も真似して祈るの? それくらいなら別に構わないけど。これからお願いするのだから、これくらい付き合ってあげよう。
「おお!」
両手を合わせるとお祈りしていた人たちが叫んだ。泣き出す人たちまでいる。どうなってるのこれ。
「おや? 神の子よ。お怪我をしているのですね。もしかして神の力を受け取りに来たのですか?」
「違うよ」
神の力ってなんか凄そうだけど、そんなもの今はいらない。
「友達が呪われたの。助けてくれないかな?」
「それならば、神は1ゴールドでお力をお与えになるでしょう!」
1ゴールドあれば一月以上は暮らせる。そんなお金あるわけがない。
「じゃあ、お呪いの魔導書を貸してほしいんだけど」
「50シルバーですね」
なんか口調が急に普通になってきた。
🌙
しばらくお願いしたけど駄目だった。やっぱりお金がないと何も得られないのかな。町にはいっぱい人がいるから、無料で助けてたらすごく損しちゃうもんね。それくらいは分かるよ。
でも、フレンを助けないと。諦めることはできない。
「お金ならすぐに手に入りますよ」
「え、どうやって?」
「その身を売りなさい。彼らならいくらでも払うでしょう」
彼らっていうのはお祈りをしている人たちのことかな? 身を売るってどういうこと?
よくわからない。でも、シスターの目を見れば、なんとなく悪いことだって分かる。
「神の子を買えるのですか!」
お祈りをしていたおじさんが突然叫ぶ。血走ったような目をしていて怖い。
「私が買います! 息子が今にも……ううっ、買わせてください!」
「わしだって病気なんじゃ! 全財産出してもいい! 頼む!」
何なのこの人たち……私を買うってことなんだよね? 私を大金出して買って、何になるの?
「神は平等です! 全財産と引き換えに、必ず願いを叶えるでしょう!」
お祈りをしていた人たちは、すごい勢いで教会から出て行った。本当に全財産取りに行ったの?
ここにいた人たちもシスターも絶対に頭おかしいよ。いったん出直そう。
🌙
「ふふ、ちょろいわね」
今のなに。シスターが言ったの?
「あなたにも運がなかった。それだけよ」
シスターの言っていることも考えていることも私にはよくわからない。そんなことはどうでもいい。
フレンを助けるために来たんだ。助ける方法を得られないのなら、ここに長居する理由はない。
「最後に聞くけど、呪いを解くのも、魔導書を貸すことも、どっちもしてくれないの?」
「あなたは売られるのよ。友達のことは諦めなさい」
もういい。出直そうと思っていたけど、こんなところにはもう来ない。シスターに背を向ける。
この町には他にもたくさん人がいるんだ。もう一人くらい光魔法使えたりする人がいてもおかしくない。頑張って探そう。
「行かせないわよ」
目指していた扉が消えた? 少し色が白くなったかと思ったら、あっという間に真っ白な壁になってしまった。
「何をしたの?」
「それを知る必要はないわ。そうね……あまりウロウロされるのは面倒ね」
シスターの後ろの方から杖が飛んできて、それをシスターは掴む。杖の先を私に向けて、悪い顔で見下ろしてきた。
「石にでもなってもらいましょう」
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