第10話 信者
魔方陣を床に書いて、その上にシスターを移動させている。魔方陣を書くと魔法が強力になるし、上位の魔法を使いやすくもなる。ただ、戦闘中に魔方陣を書くというのは、大きな隙を作るということにもなる。軍同士の戦いだと魔方陣は使われるらしいけど、一対一の戦いで魔方陣を使うのは不可能に近い。
全部古い魔導書に書かれていたことだから、今の戦いがその通りなのかは知らない。
「移動終わったよ!」
女の子が教えてくれる。私が移動させようとしたら「お姉ちゃんに触るな!」って怒られたから、子供たちに移動してもらった。なかなかの嫌われっぷりだね。移動させるの疲れるから楽できてよかったけど。
「それじゃあ宝石を置いて。置き方のセンスはみんなに任せるよ」
「分かった!」
この女の子にはあまり嫌われていないみたい。悪い人に騙されそうで将来が不安だな。
「ああ、置きすぎだよ。別にいいけどさ」
こんなに置いたらフレンの分が足りなくなりそう。
本当はフレンから助けたかったけど、子供たちの視線が痛かったから予定を変更した。
さて、始めようかな。すでに少しずつ呪いが消えて石化が解け始めているけど、私がシスターの呪いを操ってスピードを上げる。宝石がパキパキと割れてたり、ガラス玉みたいに透明になったりしている。魔力を失った宝石はこうなるんだね。
宝石が三つゴミになったところで石化は完全に解けた。思ったよりも簡単だった。
🌙
「怖かったよー」と泣き叫ぶシスターを子供たちが慰めている。悪い顔だったシスターが子供みたいで面白い。
「みんなまで石にされるかもって私…私…ふえーん!」
「私たちもお姉ちゃんが石になっちゃって怖かった!」
「お姉ちゃーん! お姉ちゃーん!」
なんかすごい盛り上がってる。これじゃあ私が悪者みたいだね。
まあいいや。悪者はさっさと退散しようかな。
「シスター。決闘に勝った報酬として宝石二つ貰うよ。余ったら返しにくる」
「いいわ、持って行きなさい」
くれるんだ。
「ねえ、私はあなたを売ろうとしたのに、どうして助けたの?」
「子供たちが復讐に来たら嫌だっただけ。私は自分の身が一番大事だから」
「友達のためにこんなところへ来る子供がよく言うわ。最初から私のことを警戒していたもの。私が普通のシスターじゃないこと知っていたでしょ?」
頷く。詐欺師なんだっけ。少しうろ覚え。
「あーあ、決闘って自分で言ったのに油断していたかな。あなたみたいな子供に負けるなんて」
これ以上話に付き合う理由はないから扉を目指す。女の子の「ばいばーい」という声が聞こえる。振り返って手を振ってあげた。
……振り返るとシスターがついてきていた。怖いんだけど。
「なに?」
「あら、お客さんを見送ることの何が悪いの?」
「悪いなんて言ってないし」
追い払うのもしんどい。後ろから刺されないと信じて、さっさと教会から出よう。
教会から出る。たくさんの人がお出迎えしてくれた。
🌙
教会でお祈りしていた人たちと、武器を持った人たちがいる。嫌な予感がする。
「あのガキだ! あいつが悪魔だ! くそ! シスターが悪魔に操れちまった! 教会までボロボロにしやがって……」
お祈りしていたおじさんが叫んでいる。よくそんな適当な言葉がスラスラ出てくるね。私にも分けてほしいよ。
「信じられんな。本当にあの子供がやったのかい?」
武器を持った人たちの隊長みたいな人は、おじさんの言葉を信じていない。
……ん? シスターが私の肩を掴んでいる。何してるの。
「あなたに弱いと思われたままなのは嫌なのよね」
「そんなことあんまり思ってないよ」
きっと次戦ったとしたら勝てない。フレンがいたら勝てるから問題ないけど。
「あんまりってことは少しは思ってるってことね? それは私のプライドが許さない」
詐欺師がプライドね……。正々堂々と戦う人が言う言葉じゃないのかな。一度おじさんの方へ向き直してみる。
「いいからあいつを殺せ! あいつは神の敵なんだぞ!」
さっきよりも声が枯れている。隣の隊長みたいな人はうんざりしている。襲ってきそうではないけど、このままだといつになっても通れない。
「あんなに悪口言われてるのに怒らないのね」
「私にはプライドなんてないから。どんなに惨めでも強く生きるよ」
「それは……少しかっこいいわね」
シスターが前に出る。いつの間にか手に持っていた杖を天へ向けた。
「知の神モーイよ。馬鹿な豚どもを蹴散らしなさい。《
シスターが杖を振り下ろすと、目の前の人々が同時にビクンと震えると倒れ始めた。
「何をしたの?」
「まあ、見てなさい」
すぐにみんな立ち上がって、教会の前から去っていった。さっきまでのことを全て忘れたかのように。
「詠唱も魔法名もぶっちゃけ何でもいいのよ。
へ―なるほどね。
🌙
教会の中から子供たちが出てきた。声が中まで聞こえてたのかな。
「お姉ちゃんかっけー!」
「すごーい! すごーい!」
シスターが囲まれた。はしゃいでる子供たちとぶつからないように離れる。追い払ってくれたお礼を言えなかったな。
「ねえ」
あ、私をあまり嫌っていない女の子だ。この子だけ私のところへ来てくれた。別に来てくれなくてもよかったけど。
「少しだけお話しよう?」
「ごめん。これから友達を助けに行くんだ」
そんなに急がなくても、すぐに死んでしまうような呪いではなかったと思う。でも、呪われたままなのは体に悪いから、少しでも早く解いてあげた方がいい。
「じゃあ明日会えないかな? 一緒に遊ぼうよ」
「旅の途中だから……」
うー、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。すごく悪いことをしたような気分になる。
「時間があったらね。期待をしないでよ」
「約束ね!」
期待しないでって言ったのに……
🌙
ローランの家へ戻ってきた。フレンはまだ眠っている。
「嬢ちゃん……」
フレンのそばに座っていたローランが申し訳なさそうな顔で私を見る。え、どうしてそんな顔で私を見るの?
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