第4話 Fall(NOT FOUND 404)

その昔の事じゃった。山奥で修行をしている一人の翁がいた。人との関わりの一切を絶ち、野山で山菜を採ったり、中腹の滝で滝行をしていた。

ある時、一人の少年が山を登ってきた。

その翁は、武芸の達人であるので杖を片手に一言「何奴!我が山に入りよって。」と言った。

「怪しいものではございません。私は、地元の大富豪の息子です。」彼の顔は顔面蒼白であり、その翁の剣幕に怯えているようだ。

「要件を申せ。ワシを怒らせるような返答をすれば生きては帰さん。」相変わらずの剣幕で、翁は少年を見つめる。

「ぶ、不躾なお願いですが、そ、その、修行をさせて下さい!」少年は見つめられて恐怖に身を震わせながらも言った。彼の目には真剣さがあった。

「修行は厳しいぞ。そして、その道に終わりはない。お前達、インターネッツには生活出来んだろう。それでもやるつもりか?」

翁はゆっくりとした口調で少年に話しかける。かえって恐ろしさが倍増する。

「はい、やります。僕、家にはインターネットがあって、家にはメイドさんもいます。肉体的な楽は得られました。しかし、精神的には苦しみの連続です。だから、自分で物事を成して成長したいんです。」少年は必死に翁を説得した。


「良かろう。面白い奴だな。我が弟子としよう。まずは、薪割りと水汲みを覚えよ。大変な作業だ。」

翁の住んでいる屋敷は二つに分かれていた。滝のすぐ近くに建てられた料理、風呂の間。

山の上に建てられた睡眠の間。

その二つに分かれていた。


一方、少年の親は必死に彼を捜しまわっていた。

「あの!私達の息子が行方不明なんです。助けて下さい。」大富豪である彼は声をあげた。


しかし、週刊誌が彼は、「息子が居るという事はビジネスにとって良くないこと。このまま隠し通す。」と同僚の友人に話していたことをバラし非難轟々で、結局捜すのを諦めてしまった。


少年は翁と薪を割ったり、水を運んだり、お風呂に入ったり、様々な事をしていった。

元から頭脳明晰であった彼は、修行のお陰で逞しくなった。


翁と少年は山を日々歩き回っていた。

「良いか?これがゼンマイだ。よく見る山菜だよ。」翁は一度少年と交わると優しい好々爺となっていた。彼に優しく物事を教えていた。


「そこ、オナモミがあるから注意してな。服に付くと厄介だよ。でもまぁ、オナモミが服に付くって事はどんなに孤独でも付いてくるものが居るってことだ。」たまには冗談も言う良い翁であった。


桜を見ては寂しい事もいう。「この桜の花びらが一枚一枚落ちるように、私の命も落ちているんだろうな」と。

少年は暫し沈黙した後に、返答する。

「先生、そんな事言わないでくださいよ。悲しくなりますから。」

「そうだな。お前の為にも言わない方がいいな。さて、今日は湯船に桜を浮かべようか。」

桜を浮かべた湯は最高に気分が良かった。


時には厳しく叱ってくれた。

「おい!斧はこうやるんじゃない。危ないぞ。良いか。ゆっくりと刃を入れるんだ。いきなりやると危険だ。分かったな。」

苦手な薪割りもみっちりと叩き込まれた。


そして、変声期が来る前の12歳でやって来た少年は6年経ち、変声した逞しい18歳の好青年と変わった。


そんな時に、翁は死んだのだった。

最初はいつもの様に風邪だと思っていたよ。でも、肺炎を起こしていたようで手遅れだった。


西日に日が沈む頃、「お前…ワシについてきてくれて…有難うな…。実は…お前に言いそびれた事が…ある。ワシは、お前の本当の祖父だった…ようじゃ」

「どうしてそんな事が分かるんですか?先生。」

「お前の…匂いで分かるんや…本当に…済まんな。あぁ…日が沈む…我が命も…」

ここまで言って翁は85年の生涯を終えたのだ。その後、少年は暫く意気消沈してこれからどうしようか考えて…山を降りることにした。

時間の感覚が酷くズレながらも適応しようと彼は進む…

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