46. 産後の真弦はまるで抜け殻だ




 初乳をあげて7日以上過ぎた真弦は、腹もしぼんできてすっかり元の妊娠前の姿に戻りつつある。

 天上院家の次期影の権力者である真波(真澄の母)からは天上院グループの病院で療養するように言われているが、息子の真尋が気になり、我が儘を通して本家の母屋にしがみついていた。


「ミリアさん、真尋がお腹を空かせているだろうから早く持って行ってあげて」


 ミリアを呼びつけ、搾乳した母乳が入った哺乳瓶をミリアに渡した。


「かしこまりました。真澄様に渡しておきますわ」


 ミリアは恭しく挨拶すると、母乳が暖かいうちに急いで部屋の外に出て行った。


 母乳を直に上げたい真弦は複雑な表情で服を整え、ミリアが出て行ったドアの向こうを虚ろな瞳で見ていた。

 せっかく生まれた母性が削がれ、息子の真尋を奪われた真弦は常に抜け殻のように佇んでいる。

 うっかりペットの吾輩がすり寄ろうとすれば、抱っこされて背中をポンポンと叩かれて赤ん坊のように気持ち悪く接せられてしまう……。


 とにかく、ご主人様の精神状態は危険だ!


 コンコン!


 ドアが軽快にノックされ、真弦の母の真琴が娘を心配して部屋に入ってきた。


「真弦ちゃん、このままこの家にしがみついていてもいい事なんて何一つ無いんだよ? ママの家に帰ってきなさい」


 真弦は返事もしないまま虚空を見つめて手動の搾乳機のトリガーを握っている。


「ママの家は広いし、光矢君もマスオさんで良いって言ってるんだからさ、帰っておいでよ。高校も無事に卒業したんだから、ママの会社手伝って欲しいし、帰ってきて?」


 真琴が真弦の座っているベッドの横に座ると、娘の真弦はボロボロと大粒の涙を零し始めた。


「真尋はどうなるの? 一緒に帰れないんじゃ意味がないんだ……」


 娘の悲痛な言葉を聞いた母親の真琴も涙を流し、真弦の肩を悔しそうにギュッと抱きしめた。






 真弦が真澄の長男の真尋を代理出産してちょうど3か月が経過した頃だろうか、未だに真弦は天上院の本家にしがみつき、乳母のように乳を搾って哺乳瓶を分け与えていた。


 ミルクを貰う真澄の方としては迷惑極まりない行為なのだが、ミルクの調合がわからない彼は本心では真弦の好意に助かっていると感じている。


 真澄の姿は真弦が代理出産をした後から男装の姿に戻っていた。

 どこからどう見ても男性としか思えない、赤ん坊の父親の様相を見せていた。


「真尋様のDNAに近い女性に承認を頂きました」


 女性秘書官が淡々とした口調で写真付きのファイルを真澄に見せている。

 真澄の傍に控えている龍之介は厳しい表情で歯を食いしばっていた。


「ほう、吉良光矢の親戚の娘か……」


「ただ、問題があるのは彼女は14歳で結婚適正年齢ではないという事実です」


「総帥の命令だ、構わん。未婚の母でも出産は可能だ。僕も性別変更の手続きをするのだから問題は特にあるまい。で、偽装の報償金に幾ら必要なのだ?」


「……しかしこの事態は大奥様が反対なされるかと」


「我が天上院家は悪習に囚われがちだが、総帥の命令は絶対だ」


 真澄は淡々とした表情で書類に『許可』の判を押した。

 隣で会話を聞いていた龍之介の複雑な心境まではわからないが、龍之介は精神の性別を超えて真澄を愛している事には間違いなかった。


 猫がこうしてウロウロできるのは、旧館が古い洋館なので薄暗く、昼間のうちは明り取りに各部屋のドアを開けている事にあった。

 吾輩のもっぱらのお気に入りは、布団部屋である。

 その布団部屋で一日の大半を過ごし、最近鬱々としている真弦の部屋に戻って行くのが日課になっていた。






 子供の100日のお祝いを真弦は影で見守り、腹を痛めて真尋を産んだ筈の彼女は枕を濡らしている。

 撮影に呼ばれた光矢の親戚の娘はしっかり真尋を抱いて真澄と一緒に写真を写していた。


「どうして? どうして光矢の従妹が息子の100日の写真に写ってるんだよ? 光矢っ!?」


 真弦は、黙って立っている光矢の服の裾を掴んで泣き崩れている。


「あの子中学生なのにおかしいよ! 何か言ってよ光矢!? アンタの従妹なんだろ?」


 光矢は悲痛な表情を浮かべ、首を横に振った。


「俺は天上院の末席にいる存在でしかないから何も言えんが、天上院外部の人間には早苗さなえが真尋を生んだ事になっている。年齢も18に調整されてあいつなりに苦しんでいるんだから何も言うな!」


「言いたいよ! 子供を取られた私達はどうなるんだよ?」


 真弦が叫ぶと、光矢は一切喋らなくなってしまった。

 そして、一緒に暮らしていた部屋の持ち物をボストンバッグやトランクに詰め始めた。


「な、何してるの……?」


 光矢は自分の服から真弦の服までを無造作にトランクに詰め込んでいた。


「こんな胸糞の悪い家になんかいられるか。帰るぞ真弦!」


「真尋は? 真尋は?」


「もう諦めろ。あの子は天上院に殺されたんだ」


 光矢は真弦や吾輩に顔を見せずにひたすら服や荷物をトランクに詰め、入らない分は紙袋に乱暴に放り込んでいた。


「うわぁぁーっ! うわぁぁぁぁーん!」


 光矢が荷物を詰める中、真弦は何もせずにただひたすら泣いていたのだった。


 光矢は全ての荷物を持って部屋の外を出ようとする、が、真弦がそれを引き留めた。


「何だよ? そんなに真尋が気になるのか?」


 厳しい顔の光矢に対し、真弦は涙を流しながらふるふると首を横に振った。


「光矢、どこに行くの? 帰るったって私の家はここだよ。それに、前に住んでいた家だって水漏れが酷くて改装中だって話だし……、私たちに帰る場所無いよ。無いんだよ! また私は天上院に飼い殺しだ!」


 真弦はパニックになりながらその場に座り込んだ。

 その取り乱しようを見た光矢は荷物を床に下し、真弦の肩を抱いて唇を塞いだ。


「俺が付いてるから心配ない。それに天上院に反抗して勢力を伸ばしているお義母さんだって付いてる。もう、次の子を産んだら奪わせないから落ち着けよ」


「……うっ……うっ……!」


 真弦はしゃくりあげながら立ち上がった。

 そして、急に服を脱ぎ始めた。


「……ドア、鍵かけて」


「はあ?」


 光矢は意味が解らないまま、部屋のドアを施錠した。


「光矢、抱いてよ。もう一回子供作ろうよ」


「え!? お前、子宮大丈夫なのか?」


 基本的に悪露が終われば産婦のSEXは大丈夫だとは言われているが……。

 生理もまだ来ていない正常な子宮に戻っていない真弦の腹は大丈夫なのかはよく分からない。

 真弦は次の子供が欲しくて全裸になり、着衣のまま驚いている光矢の上に載った。


 真弦は光矢の服を強制的に脱がし、二人とも全裸になるとベッドの上に上がった。

 すると、真弦の大きな乳房からぽたぽたと白い液体が流れ出てくる。


「ん?母乳?」


 真弦がその状態に驚いていると、光矢が右乳房にむさぼりついてちゅうちゅうと母乳を吸い始める。


「あっ……! それは真尋の……」


 光矢はミルクタンクのような真弦の張りすぎて固くなったおっぱいを揉みほぐして両方の母乳を吸った。


「……牛乳より味が薄い」


 母乳を吸った感想はそれだけだった。


 べしん!

 裸の真弦が光矢の頭を殴る。


 巨乳の女は母乳の出が悪いと噂されているが、いつも片方の乳房で200㏄ぐらいは搾取できているのだ。

 特に問題は無かったが、光矢は既に200㏄ぐらいは真弦の母乳を吸い取っていた。


 そんな光矢の頭を撫で、乳を吸わせる真弦は母親の顔をしている。


「ぷはっ……! もういいか?」


「……ん」


 真弦は不満げに頷くと、いつでも光矢を受け入れる準備OKと、ベッドの上に寝転がった。


「本当に濡れてんのか……?」


 光矢の股間は既に臨戦態勢に突入していたが、産後初めてセックスをする真弦の体はまだ乾いているといっているような状況だった。


「大丈夫だよ、奥はちゃんと濡れてるから」


 その言葉を信用しなかった光矢は、ボストンバッグに仕舞い込んでいたローションを取り出して真弦の陰部に塗り始めた。

 産後の女のマンコってゆるっゆるだと聞いたが、大丈夫なのかお前ら?


 しばらく対面座位の状態から、真弦は子種を欲しがるように光矢ごとベッドに倒れた。

「はやくぅ……早く! 光矢の子供が欲しいんだ」


 むしろそれは、この前産んだ長男を忘れる為に子供を残そうと必死な女の執念が見えた。が、光矢はそんな物を微塵も見えず、艶やかな真弦の誘いに負けて腰を激しく降り始めた。


 パンパンという肉体のこすれ合う音だけがしばらく続くと、


「あーん、あん、あん!」


 真弦の低い喘ぎが響いてきた。

 あれ? 妊娠前より何故か声が低いような気がする。


「真弦? もしかして気持ちよくないのか?」


「そ、そんなことないよ……。出産で緩んでガバガバなだけ」


「ほう……」


 光矢は頷くと、真弦のガバガバなマンコから怒張したチンコを引っこ抜いた。

 そして、ボストンバッグから一番極太のバイブを取り出してコンドームを被せた。

 ウィンウィンという機械的な音が部屋中に響き渡る。そのバイブを何の前戯持無しに濡れた膣口に簡単に突っ込んだ。


「ハァーッ! アアン!」


 真弦がビクビク震えながら足を痙攣させている。その膣の様子を見る為、光矢は陰唇を大事そうになぞった。


「ヒィーッン!」


「お、妊娠前は無理だったバイブが入るなんて……。抜く……きつっ……!」


 真弦のマンコはバイブの力によってきつく閉まっていた。


 バイブを真弦から抜き去った光矢は、真弦の膣穴に怒張したチンコを再び挿入し、「アンアン」と高い声でよがらせることに成功した。

 だが、二人のセックスの最中、真弦のおっぱいからビームのように飛び散る母乳が部屋中に散布されて大変な事になっていたのだった……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る