7. 隣の公園にいるホームレス
翌日、真弦はバーロー名探偵のコスプレ衣装を紙袋に詰め、意気揚々と美羽の家に原稿とノートパソコンを持参して泊まり込みに行った。
吾輩はと言うと、留守番と言うのか……。
隣の公園に設営されたテントの外でバーベキューの輪に加わっていた。
大学生の男が野外に3人で集まって焼き鳥を焼きながら酒を飲んでいる。その中に吾輩の顔見知りがいる。商店街の回らない寿司屋『寿司の海瀬』の息子がおり、吾輩は彼の膝の上で焼き鳥を貰いながらくつろいでいる。
大学生の彼ら、海瀬の息子ともう一人の、ドレッドヘアにエスニック風のバンダナを巻いて、変なTシャツとサルエルパンツを履いたタレ目は同輩で同じ学部らしい。海瀬の服装は生真面目なプレッピー風の小奇麗さで一見コイツと共通点が無さそうだが、ゼミの教授の話で盛り上がっている。
もう一人は彼らの後輩らしい。鳥の巣のような天然パーマに真っ赤なジャージ上下に昼間でもないのにサンバイザーを着けているゲジゲジ眉毛だ。こいつはタレ目と同じ部活の後輩らしい。服装も三者三様だ。
まあ、こいつらの共通点は今時の大学生といった所か。
……それにしてもさぁ、お前らに女の影は無い訳?
会話に全くと言って女の話が出て来ない。
こういうバーベキューって必ず女の子参加してないかい? ねえ? 男だらけってむさ苦しくて寂しくない?
出て来ると話題言えば、渓流釣りの話と、今季の野外ロックフェスの予定の話ばかりだ。
参加アーティストがどうの……。
うん、うちのインドア派の真弦とは全く共通点が感じられない別次元の生き物だ。
このテントの主はタレ目かゲジゲジ眉毛のどちらか何だろうが、一体どっちなんだろう?
吾輩が主に散歩する昼間の時間帯はこいつらがいないし、夜間はテントの中にいて主の容姿が全く分からないのだ。
「吉良先輩、そろそろ部屋借りないのかよ?」
ゲジ眉が『吉良先輩』と呼んだタレ目のアルミ製マグカップに4リットルペットボトルに入ったの焼酎を注いだ。焼酎も入れ物がデカいとかなりお得なのか、貧乏の味方みたいな飲み物らしいな。その焼酎を2リットルの緑茶で割って飲んでいる。
「また業者行って交渉すんのめんどくせーよ。敷金礼金用意するにしてもこの前の研究旅行でスッカラカンだし」
どうやらタレ目は話の筋を読んでいるとホームレスみたいだな。
「お前、帰ってくる家が放火魔の餌食になって焼け出されるとか不幸な男だよなぁ」
既に酒に酔った海瀬がタレ目の肩に手を置いて同情しているが、人の不幸が面白いのか半笑いである。まあ、コイツは実家暮らしで家業を継げば人生が安定してるしな。上から目線ってところか。
「言わんで! まさか火事になるとは思わなかったし、火災保険すら掛けなかったから金が返ってこないとか傷つくから!」
「誰もそんな事言ってねーべ」
酔っ払い3人はタレ目の不幸話に酔っていた。
「ダダ、俺を下宿させる気ねーか?」
火事で焼け出された男は『ダダ』と呼ばれた海瀬にしなだれかかる。海瀬は奴の重さで椅子ごとよろめいたので、吾輩はバランスを崩して地面に着地した。
「やだ。
海瀬はきちんとした服装が示すように、少々潔癖症のようだった。猫が好きでも吾輩を飼わなかった位だからな。他人の同居は許さない。そんなポリシーだろう。
「じゃあ、俺ん家来いよ、吉良先輩」
「うえー? 敦史ん家、生首ゴロゴロしてて嫌だなー」
ゲジ眉の家って猟奇殺人者の家なの!? 否、話の筋からすると、同居する彼の弟が美容師学校に行っていて、練習用のマネキンの頭を持って帰ってくるようなのだ。
タレ目のホームレス光矢の行先は平行線で、しばらくこのテントで仮住いする事に決まったみたいだ。警察に撤去命令されなきゃいいけどな。
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