5. 玉五郎の日常
吾輩は動物病院で大嫌いな定期健診を受ける事になったんだが、大量のノミを発見されて顔の周り以外の毛を丸裸にされてしまった。
そろそろ夏も近づき、暑い時期になってきたのだが、毛皮無しは寒い。出来損ないのライオンみたいなキジトラ猫はさすがに格好が悪い。つか、とても恥ずかしい。
真弦の奴は猫を飼っている癖に、ペット用のキャリーバッグを持っていない。奴め、丸裸の吾輩を抱っこして往来を歩くつもりでいやがる……。
こんな恰好は恥ずかしいので真弦の半袖のパーカーの中に潜り込んだ。
「おいおい……、ケモノの癖に恥ずかしいのか?」
真弦は迷惑そうな口調でいるが、特に気にしている様子は無いようだ。彼女のたわわな両乳房とサイズの合わないスポーツブラの間に上手に挟まった吾輩は上半身でぶら下がっている状態で、真弦がわざわざ抱っこしている必要が無いのだ。パーカーのチャックの間から顔を出している。
両手が空いた真弦は気が楽になったのか、途中で買い物をしにいつものように気軽にコンビニに立ち寄った。
オイコラ、ペット持込み禁止じゃないのか?
……他の客にも店員にも今の所気付かれてる様子ねえよ……! 何? 吾輩はパーカーの装飾品とでもいうポジションなの?
真弦は雑誌のコーナーに一直線に歩いて行き、トイレの近くにある本棚の前に当然の様に陣取る。……青年向けエロ漫画雑誌がずらり。
どのエロ本にしようか物色していると、背後でコンビニの店員が躊躇いがちながら「ゴフン、ゴフン」と咳払いをしている。
そういや、このコーナーって18禁じゃないか! 真弦はまだ高校生だったよな?
真弦は店員の存在に気が付いてくるりと振り向く。
「お疲れ様です、鈴木さん」
真弦が外面の良い微笑を浮かべて挨拶をする。
「あ、お疲れっス」
アニメポ●モンの初代おにいさん的存在のあいつに似たような糸目の短髪が真弦につられて挨拶した。このコンビニの黒い制服を着ているから店員に間違いない。
しかも、常連だから真弦に名前を覚えられている。
「あの、真弦ちゃん、ペットの持ち込みは……」
やっぱり、ペットの吾輩の存在に気付かれたみたいだが、
「ところで、鈴木さん、触手姦と機械姦ものならどっちが一般に受けるだろうか?」
真弦は真剣な表情で自分の漫画に対する熱い情熱を間違った方向でバイトの鈴木にぶつけた。
「え……?」
立ち読み防止用ビニールがされていないコンビニの雑誌は閲覧が容易である。真弦が所要で開いたページを2冊、鈴木の前に突き出した。
鈴木は糸目で赤面したまま床掃除用のブラシを持って固まっている。
「うーん、無難に触手にしてみようかなぁ、CGは誤魔化し利くしなぁ」
普通の女の子が言うセリフじゃないだろ……。鈴木は、見た目は眼鏡の委員長みたいに真面目で清楚な外見の真弦に気があったみたいだが、この質問でドン引きしてるみたいだ。
「……い、良いんじゃないッスか」
ドン引きした鈴木の勧めもあって、その触手特集が描いてある18禁本を参考資料にしようと、他の店員に内緒で購入する真弦である。……ちゃっかりしてやがる。
我が家の同人作家、天上院真弦さんのペンネームは『添乗員まる子』というみたいだ。自分の本名の漢字を変換してちょっとだけ変えたらしい。めんどくさがり屋の真弦らしい名前だ。
大型イラストサイトにサークルカットでエロイラストの顔部分を投稿したみたいだ。珍しく女を描いてやがる。
真弦が所属しているサークル、『にんげん牧場』で男性向けも作るらしかった。
西 さ 22 意味がわからない。
今日は合同CGイラスト集の一枚絵を描いているので、ずっとノートパソコンにかじりついている。ペンタブでひたすらゴリゴリ。
いつも描いているホモ漫画の局部はイマイチだが、今日の触手に絡まれている粘液塗れのエルフのおねーさんの局部はかなりリアルだ。おまめさんはふっくら艶やかに、触手の繋がったアワビはキラキラぬちょぬちょの紅色だ。実に美味しそうに加工仕上げをしている。
昼間コンビニで購入した触手本を手本にしたみたいだが、雑誌の漫画より気持ち悪くてリアルだ。そしてイカみたいで猫的には食ってみたい質感だ。
さすが同性のイラストは違う!
モデル(美羽)が身近にいるからこんなにリアルなのだろう。
真弦の描く女のエロ絵はネットですこぶる評判がいいのか、デイリーランキングで上位に上がったりしている。本人はホモジャンルをユーザーに認めて欲しいので納得がいかないらしい。
「クソッ、私が求めているのはこんなんじゃない!」
需要と供給っていつもアンバランスなもんだよな。
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