RPGS(Roll Playing Game Story)

@tee

俺の名はケンジ__勇者ケンジだ。

ここはRPGロールプレイングゲーム『ブレイブファンタジー』の世界。


ユウシャ「ツイニキタゾ マオウ カクゴシロ」

マオウ「グハハハハ ヨクキタユウシャヨ ダガオマエモコレマデダ」

ヒメ「タスケテ ユウシャサマ」


(ドキドキ……)

画面を見て緊張しているのはゲームプレイヤーのケンジ、小学1年生。

最終ダンジョンである魔王の城の最上階に到達し、今まさに全クリしようとしている。


ケンジ「よーし、今日中にクリアするぞー!」


クリアに向け鼻息を荒くし意気込むケンジ。手に汗握りコントローラで操作する。



しかしその時、下の階から声がかかってきた。

ケンジ母「ケンジー、夕飯できたからおりてきなさーい」

ケンジ「えー、もうちょっと待ってよー」

ケンジ母「早くしないと冷めちゃうわよ」


ケンジ「……しょうがない、点けたまま置いておこう」


ひとまずコントローラを床に置き、名残り惜しそうにしながら部屋を出るケンジ。






ユウシャ「……イッタカ?」


ヒメ「……イッタミタイネ」






なんとボタンを押してもいないのに、ひとりでに画面内に文章が現れた。

しかもそれだけではない。


サササ……


画面内のキャラクターが勝手に動き始めたのである。

勇者、姫、魔王、魔法使い、武闘家それぞれがダンジョンの中央に集まり、円陣を組みだした。


勇者「ふー、やっとここまで来たか」

姫「プレイ開始から一年だっけ? 長かったわね」


勇者と姫の二人が会話をし始めた。あろうことか隣に魔王がいるのに、だ。

しかし、その当の魔王は何もせずただ二人の会話をじっと聞いている様子だ。


勇者「魔法使い、これからのゲームの予定は?」

魔法使い「えーと、このまま順調に進めば魔王を倒して姫を奪還、王国に帰り結婚してめでたしめでたしという感じかな」

姫「け、結婚!?」

魔法使い「何か問題があるの?」

姫「大有りよ! 誰がこんなエロ勇者なんかと」

どうやら画面で見ているキャラクターと内部とでは性格がまるっきり違うようである。


姫「ここまでくるのに色んな町に入ったでしょ? そこで女の子と会ってはいやらしい事してんのよ! プレイヤーには見えないのをいいことにね!」

勇者「ちょっとくらいいいじゃねえかよ。大体それをいうならこっちだってお断りだっての。お前みたいな色気のないツンツンしたやつより、○○村の娘Aの方がよっぽど抱きたい女の子だね」

姫「なんですってえええ!」

勇者「なんだよお!」

お互い近寄って睨み合う二人。


と、ここで今まで黙っていた魔王が口を開く。


魔王「ふたりともやめなよぉ~」


その凶悪な図体とはうってかわって、まるで小さな男の子のような声で二人の間に割って入る。

勇者&姫「お前はだまってろ!」「あんたはだまってて!」

魔王「うう~」

二人の声にしょんぼりする魔王。


魔法使い「おいおいお二人とも。もうすぐゲームクリアなんだから、演技ちゃんと頼むよ」




勇者「演技、か」




魔法使いの一言に勇者がはたと止まり語り始める。


勇者「そうなんだよな、俺たちがやってるのは全部演技なんだよな」

魔法使い「でも、それはプレイヤーに楽しくゲームを遊んでもらうためのものだから、しょうがないよ」

勇者「わかってるよ」

姫「今までそれでやってきたんだから、最後までやりきらなきゃ、頼むわよ、勇者」

勇者「俺は勇者じゃない! 俺にはちゃんとした名前があるんだよ!」


武闘家「ケンジ、か」

ここで初めて武闘家が口を開く。


勇者「ああ。ロールプレイングゲームでは物語の最初に主人公の名前を決める。その時に決まった名前が ケ ン ジ 。だから俺の名前はケンジなんだ」

姫「あんたロールプレイングの意味わかってんの?」

勇者「しらない」

姫「プレイヤーは主人公に自分自身を投影してゲームをプレイするの。だからロールプレイングなの。その名前だってケンジがあんたに自分をより投影しやすくするため自分の名前を付けたんであって、あんたに名前を付けた訳じゃないのよ?」

勇者「それでも、俺はこの名前を付けてくれたことが嬉しいんだ」

姫「ふーん」

5人(うち一匹)に笑顔がみえた。一瞬の静寂。ここで武闘家が前に出る。


武闘家「ところでよ、ゲームクリアしたらお前らその後どうすんだ?」


残りの4人が少し考え始める。

武闘家「俺はまたこの拳を鍛えるため旅に出るぜ!」

勇者「画面でもここでも性格変わらないのはお前だけだな」

武闘家「当り前よ! 武闘家はどこだろうと鍛えることが生きがいなのさ」

勇者「ただの筋肉バカだろ?」

武闘家「がははははは」

まるでこっちが本当の魔王ではないかと思うくらい低い大きな声で笑う。


魔法使い「僕はケンジのいる世界、人間界についてもっと知りたいなあ」

勇者「というより人間界の機械、だろ?」

魔法使い「あはは、バレた?」

勇者「魔法使いのくせに魔法好きじゃないんだもんな」

魔法使い「別に魔法が嫌いな訳じゃないよ。ただこっちの世界には機械というものが存在しないんだ。みんな魔法で済ませられるからね。だからより興味が沸くんだよ。非効率的な物のかっこよさっていうのかな、そんな感じ」

勇者「へえ。魔王、お前はどうすんの?」

魔王「え!?ぼ、僕?」

突然ふられてしどろもどろになる魔王。


勇者「本番(ケンジのプレイ中)では手加減するけどさ。ぶっちゃけお前と真剣勝負ってのもしてみたいんだよな」

魔王「そそそそんな!? ししし真剣勝負だなんて! 僕が勇者に勝てるわけがないよ! そういう宿命なんだから!」

勇者「プログラム上はそうなってるけど、お互い装備とレベルを対等にすればわからないぞ」

魔王「むむ無理いいい! ぼぼ僕は平和な世界が好きなんだ! 大人しくここでじっとしてるよ!」

勇者「その割にはプレイ中の演技の台詞すごかったよな。『オマエモコレマデダ』だったっけ?」

魔王「ひいいごごめえええん!」

魔王は後ずさりしダンジョンの隅っこにうずくまってしまった。


姫「わ、私は……」


姫は顔を赤くしながら勇者の顔をちらりと横目で見る。


勇者「ん? どうした姫」

姫「な、なんでもない」


ぷいっと顔をふくらませてしまった。


勇者「なんだよ気になるだろ」

姫「しらないしらないしらない!」

魔法使い&武闘家「はははは」


一時の平和な時間が流れる。


が、その時……






???「ふ、能天気なやつらだ・・・」






どこからともなく不気味な声が聞こえる。

勇者「あれ、このゲームって隠しボスみたいなのいたっけか?」

魔法使い「いないはずだけど」

姫「勇者! あそこ!」

勇者「!」


姫が指差した方を見ると、そこには一人の男が立っていた。

死んだような目でこちらを見ている。


???「クリア後のだと?果たしてそんなもの存在すると思うのか?」

勇者「どういう事だ? いや、その前に……お前は何者だ」

???「俺はかつてのお前だよ、勇者」

武闘家「……意味わかんねえこと言ってんじゃねえ!」


武闘家が吹っ切れたように謎の男に向かって走り拳を振りかざす。

だが。


ブンッ!


武闘家「!?」


その拳はすり抜けてしまい、武闘家は勢い余って転がった。

???「ふん、仲間のしつけがなってないな」

武闘家「なんだと!」

勇者「よせ!」

武闘家「でも……!」

魔法使い「エレメント系の魔物かな? 出現率が低くて今初めて出くわしたのかも」

???「ほう、このゲームにはそんなタイプの魔物が存在するのか。進化したものだな」


その様子を見ていた姫が何かに気付いた。

姫「ねえ勇者、この人の格好……あなたにそっくりじゃない?」

勇者「まさか」

???「そう、やっとわかったか」

姫「誰かわかったの?」

勇者「生き別れの兄!」

???「違う」

勇者「だったら。腹違いの弟!」

???「違う」


ギャグで攻め立てる勇者に、さすがに謎の男も顔をしかめはじめる。

姫「ちょっと、ふざけてないで早く教えなさいよ」

勇者「こいつはおそらく、ブレイブファンタジーの主人公だ」

姫&魔法使い&武闘家「!!!」

3人が一斉に驚く。


姫「どういうこと? だってこのゲームの主人公は勇者、あなたでしょ?」

魔法使い「姫、このゲームはBF2、いわゆる続編なんだよ」

武闘家「じゃあ……」

勇者(無印)「そうだ。改めて自己紹介しよう。ブレイブファンタジー(無印)の主人公、勇者ケンジだ」

勇者「ケンジ……お前もか」

勇者(無印)「そう、お前と同じだよ。とはいっても、今はお仲間が言った通り幽霊のようなものだがな」


勇者(無印)の姿は透けていて向こうの壁が見えている。


勇者「何故今出てきた」

勇者(無印)「今までのお前たちの闘いは全て見ていた。初めからね。だが、ここにきて私も我慢がならなくなった。言いたいことがあって来たのだよ」

勇者「何が言いたい」

勇者(無印)「さっきの話さ。ゲームクリア後にうんたらかんたら……そんな事が本当に可能だと思っているのか?」

魔法使い「なぜ不可能だと?」

勇者(無印)「ゲームというのは電源がONになって起動されなければ動けない。一旦電源がOFFになると今まで動いていた者たちはソフトの中で暗黒のまま動けない」

魔法使い「そんなことしってるよ」

勇者(無印)「まだわからないのか? 私のようなただの怨念のような存在がいる理由だ」

武闘家「こいつがいる……」

姫「理由?」


勇者(無印)「いずれお前も私と同じになるということさ!」


勇者(無印)は勇者に怒気を込めて指差した。

勇者「なん……だと?」

勇者(無印)「お前と同じだよ。私はケンジという名を貰い、魔王を倒すべくケンジと共に冒険し、楽しいという感情を分かち合った。だが、ゲームをクリアしたその後というもの、はたとプレイされなくなった。代わりに2をプレイしはじめたからだ」


3人は勇者(無印)の話に聞き入っていた。


勇者(無印)「その間私は一人でずっと暗闇で動けずにいた。無印は2と比べて仲間が一人もいない。魔王も最大レベルにまで上がっていた私が倒してしまった」


3人はまだ隅っこでうずくまっている魔王をちらりと見た。

姫「なんてこと……」

魔法使い「今まで遊んでたゲームを急に止めちゃうなんて」

武闘家「ひでえなケンジの野郎」

勇者「寂しい思いしたんだな」

勇者(無印)「全てはお前達のせいなのだがな」

勇者「……すまない」

勇者(無印)は今まで怒りを募らせていたが、勇者に謝られたことと、今まで誰にも同情されたことがなかったこともあり、3人に心を開き始めた。


勇者(無印)「だがそれは仕方のないことだ。特にRPGはストーリーをクリアしたら終わりだ。いや、それに限らずゲームは飽きられたら終わりなんだ」

勇者「そんなことはない! まだ何か方法があるはずだ」

姫「勇者?」

勇者「俺たちと一緒に探そうじゃないか」

勇者(無印)「勇者……」

魔法使い「そうだよ」

武闘家「ああ」

姫「そうね」


勇者がそっと手を差し伸べる。


勇者(無印)がその手を取ろうとした。


だがその時。






バキッ!






不穏な音がした。


勇者(無印)「ぐっ!」

4人「!」


勇者(無印)が振り返り画面外を見ると、そこには夕飯を食べ終え部屋に戻って来たケンジがいた。

さらに足元を見る。

そこには、日に当たりシールが色あせていたブレイブファンタジー(無印)の残骸があった。


ケンジ「あー踏んじゃった。……あーこれじゃもう遊べないよー。でもまあいっか、クリアしたゲームだし」


勇者(無印)「ケンジ……」


ただでさえ透けていた勇者(無印)の体がさらに透けていき、ほぼ見えなくなっていた。


勇者(無印)「勇者、最後に忠告しておく。数日後、新作ブレイブファンタジー3が発売される。もうすぐケンジの誕生日だから父がそれに合わせて買うらしい」

勇者「なんだって!?」


勇者(無印)「それまでせいぜい悪あがきするんだな・・・」




シュウウウ……




勇者(無印)は笑みに悲哀の表情を混ぜながらゆっくりと消えていった。






~~~

~~~~

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しばらく4人はその場に立ち尽くしていた。


武闘家「お、おいどうすんだよ。これじゃ俺たちもあいつと同じ、次のゲームに移って動けなくなるぞ」

勇者「……」


勇者は掴もうとした手を掴めなかったことを後悔していた。自分の手を見つめる。


姫「大丈夫?」

勇者「……ああ」

魔法使い「みんな、お取込み中悪いけど、考えてる暇ないよ。ケンジが部屋に戻ってきた。所定の配置につかないと。ほら魔王、いつまでもうずくまってないで」

魔王「ひっ!? わわかったよ」


魔法使いの一瞥で、5人(うち一匹)はケンジが部屋を出る前と同じ位置に戻り、あたかもケンジには何もなかったかのように見えるように振る舞う。


ケンジ「よーし再開だ」

夕飯を食べエネルギーを補給したケンジは、より一層気合が入っている。

再びコントローラを握り操作する。


ユウシャ「イクゾ」

マオウ「グハハハハ コイ ユウシャヨ」


いよいよラスボスとの戦いが始まった。

ケンジは堅実型シャレではないなので、じっくりレベルを上げてからボスに臨む。

なので、とりわけ苦戦することなく魔王の体力を減らしていった。


ケンジ「魔法使いの魔法であとどのくらいHPがあるか見てみよう」

マホウツカイ「ポイトラ」

ケンジ「あと50。勇者の一撃で終わりだ」


ケンジは勇者に攻撃するようにボタン操作する。


しかし……


ケンジ「え?」

カチカチ


攻撃で決定を押したはずなのに勇者が動かない。

ボタンを連打するケンジ。だが、それでも動かない。


ケンジ「おかしいなー壊れたのかなー」


思わずうつむいてコントローラ、本体とまじまじ見るケンジ。その隙に4人が勇者に小声で話しかける。

姫「ちょっと何してんのよ勇者。はやく攻撃しなさいよ」

魔王「勇者さんどうしたの?」

勇者「終わらせたくない……俺は……このゲームを終わらせたくない!」


勇者は脳裏に勇者(無印)の無残な最期を思い描いていた。

自分もああなると思うと攻撃できなかった。


魔法使い「勇者。気持ちはわかるけどそれはプレイヤーであるケンジが決める事だよ。ゲームのキャラである僕等にそれを決める権利はない」

武闘家「そうだぜ」

勇者「……」

再び剣を振りかぶろうとする勇者。


が、それでも腕を上げることができなかった。


ケンジ「あーだめだ! 直らないよー。でもここで切ったらまた魔王戦からスタートだしなー。でもしょうがないか。今日はちょっと長くやりすぎてゲーム機が熱くなってるからね。明日になれば直ってるかも」


ケンジはそのまま本体の電源を切ってしまい、机に向かって勉強し始めた。






~~~

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次の日の朝。


今日は日曜。ケンジは朝から早速ゲームをやり始めていた。


ケンジ「直ってるかなー。ひとまず電源点けてみよう」


ゲーム機本体の電源を点けるケンジ。そして昨日と同じ、魔王の城最上階からやり直す。


ユウシャ「ツイニキタゾ マオウ カクゴシロ」

マオウ「グハハハハ ヨクキタユウシャヨ ダガオマエモコレマデダ」

ヒメ「タスケテ ユウシャサマ」


ケンジ「よかった直ってる。昨日のはバグだったのかな? でもその前にちょっとトイレ」


用を足しに部屋を出るケンジ。

隙を見計らって、画面内のキャラたちが動き始める。


勇者「昨日はすまなかった。けど、夜通し考えて思ったんだ。やっぱり俺、ケンジにまだまだこのゲームを続けて欲しい」

姫「そんなの無理よ! わがまま言わないで!」

魔法使い「勇者(無印)の情報だともうじきBF3がケンジの誕生日にやってくる。具体的にどうするつもりなの?」

勇者「全員耳を貸してくれ」


勇者は魔王以外の3人に秘策を提案した。






3人「ええーーーー!!! 魔王を隠す!!!???」






その声に魔王が驚いて飛び上がる。


勇者「ああ。要するにラスボスを倒さなければいいんだ。だが、俺もお前達も魔王を倒せる十分なレベルに達している。となれば後は探索させるしかない。そこで魔王にゲーム世界中を移動して、攪乱するんだ」

武闘家「んなバカな! 魔王の城にいない魔王がどこにいるんだよ!」

姫「もしまたケンジが魔王を見つけてしまったらどうすんのよ」

勇者「その時は昨日の手を使うしかない」

魔法使い「そんな頻繁に止まってたらケンジだってストレスでしょ。ゲーム自体止めてしまうかもしれないよ?」

勇者「それでも……やるしかないんだ」

姫「そんなの……」


気まずい空気が流れ始める。

ゲーム内では仲間だった設定がここにきて崩れ始めた。


しかし魔王が空気を変えた。

魔王「あの、ごめん……聞こえちゃったんだけど」

勇者「あ、魔王、い、今のはだな、そう、みんなで隠れんぼして遊ぼうって話してたんだよ。勿論ケンジがいない時に。な? みんな」

姫「そうよ。魔王が隠れ役でね」

武闘家「でもそれだと残りの俺らが鬼役か? 多すぎね?」

魔法使い「(ボソッ)少しは話を合わせようよ。頭まで筋肉になっちゃったの?」

武闘家「なにい!」


ここで武闘家の脳筋ぶりが目立ってしまう。再び険悪なムードになってしまった。


魔王「僕、やるよ」

4人「!?」


魔王が初めて自分の意志をあらわにした。

魔王「僕だってこの世界が好きなんだ。みんなと会ったばかりなのにもう終わってしまうのは嫌だよ。それに僕も正義の味方になってみたいんだ。表では悪役だけどね。勇者さんばかりにいいとこもっていかれたくない」

勇者「魔王……」

姫「しょうがないわね。やってみましょう」

魔法使い「仕方ない。乗ってあげるとしようか」

武闘家「いいぜ。やるだけやってやる」

本音は他の仲間も同じだったようだ。


ケンジ「ふー。さてやろうか」


用を終えスッキリしたケンジが帰ってきた。

武闘家「お、おい! ケンジが帰って来たぞ! どうすんだ!」

魔王「あわわわわ」

勇者「よし、ひとまずこのダンジョンから脱出しよう! 魔王、そこの開いてる所から下に降りろ」

魔王「わわかった」

魔王は城の最上階から一気に飛び降りた。

魔王「ええええええええええい!」




ヒュー……………………………………




ズシーン!!!!




魔王は地面に穴を作って尻もちをついた。


魔王「あいたたた、そういえば僕飛べないんだった。翼があるのに飛べないなんて、僕ってほんとダメだ」


最上階から下の魔王に向かって声をかける勇者。

勇者「魔王! 聞こえるか! とりあえず○○洞窟の一番奥まで走れ! あとでおち会おう!」

魔王「わかったー」


魔王はズシズシと重そうな足で○○洞窟の方角へ走って行った。


勇者「よし、ひとまず魔王をここから出すことはできた。俺たちも元の位置に戻ろう」

姫「あとはケンジが不振がらないかどうかだけどね」

魔法使い「昨日の今日だからね」

武闘家「ちょっと待て。魔王がいないってことは、俺らの台詞も変わるんじゃねえか?」

勇者「そういえばその通りだ。よし、姫、何とか誤魔化せるようなセリフを言ってみてくれ。魔王の居場所は伏せてな」

姫「マオウハ コノセカイノドコカニ カクレマシタ サガシテ タオシテクダサイ ……こんな感じでいいかしら」

勇者「いいぞ。それで頼む」

魔法使い「そうだ。この際姫も僕等の仲間になって同行することにする、というのはどうだろう」

姫「ええー!?」

武闘家「おっ、それいいな。細めに連絡することもないしな」

姫「ちょっと待ってよ! お姫様を魔物と戦わせる気? こんないたいけな少女を?」

勇者「なにがいたいけな少女だ。むしろお前の力ちからステータスは俺以上だろうが」

姫「なんですってー!」

武闘家「まーた始まった」

魔法使い「じゃ、その作戦でいこう。みんな位置について」

姫「ちょ、ちょっとほんとに?」


4人は不満を抱える姫を残し、元に位置に戻る。

そこでケンジが画面の前に座った。

ケンジ「あれ? 魔王がいなくなってる。どういうこと? まさかまたバグ?」


ケンジは不安そうにコントローラを握り操作していく。


ヒメ「マオウハ コノセカイノドコカニ カクレマシタ サガシテ タオシテクダサイ」

ケンジ「えー、クリアかと思ったのにまた探さなきゃいけないのー? ちょっと面倒だなー」


ヒメ「ワタシヲ ナカマニ イレテクダサイ キット オヤクニタテルトオモイマス」

ケンジ「ええええええええ!!? 姫様が仲間になるの? てことはこの先姫様も戦闘で使えるってこと? すごい斬新だなー」

どうやらこの提案にケンジは好感触のようだ。


ユウシャ「イッショニ マオウヲ タオシマショウ」

ヒメ「ハ ハイ」

ケンジ「ん? 今なんかちょっと変だったような……まあいっか」


ケンジは登ってきた魔王の城の階段を下っていき、一階の入り口から出る。

ケンジ「あれ? こんなとこに穴が開いてる。今までにこんな穴あったかなー」

魔王が降りた時にできた穴だ。

不思議そうに見ながら、ケンジは再び魔王探しに出発した。




その後の数日間、勇者とその仲間たちは魔王にうまく場所を移動してもらいながら、見つからないようにしていた。

ケンジはその間、○○洞窟、××村、□□湖、△△砂漠、■■遺跡、●●氷山、▲▲火山など、今まで廻った場所を全て探したが、その度魔王には移動してもらった。




××村にて。

ムラノムスメ「マオウハ ココカラニシノ ■■イセキニ イクノヲミマシタ」

ケンジ「次は■■遺跡か。ここで一段落置こうかな」


そして恒例のケンジが部屋から出ている隙に話しだす面々。


村の娘A「こんな感じでいいのかしら?」

勇者「ああ、助かるよ。他の村人達にも、魔王の居場所を言わないようにいっといてくれ」

村の娘A「わかったわ」


武闘家は村の娘Aの酒場の倉庫を開けた。

そこには魔王が隠れていた。


武闘家「しかし村に隠れる魔王とは、どういうことだよって感じだな。怯えて村中のみんな逃げ出すところだってのに」

魔王「ほんとだね」

魔法使い「この作戦うまくいってるようですね。この調子でいきましょう」

姫「私は納得していないわよ。私が魔物と戦うなんて。早く王国に帰りたいわ」

勇者「でも強いよな。中盤くらいの敵なんて一撃じゃないか。もう姫一人でも魔王を倒せるんじゃないか?」

姫「うるさいわね!」


こんな具合でゲームをやめさせまいと必死に行動するキャラクター達。






だが……






ついに全てのエリアを捜索し終えてしまった。


ケンジ「もうどこにいるんだよ魔王。全部探したのにどこにもいないし。もう辞めよっかなぁ」

ケンジも不振がっているようだ。


魔法使い「(まずい……もう気づき始めてる。でも当然かな。ケンジは僕たちが意志を持ってるなんて思いもよらないだろうし)」

武闘家「(でもここまでこの作戦でうまくいってたんだぞ。このまま続けるしかないだろ)」


と、その時、バタンと勢いよく部屋のドアが開いた音がした。


ケンジ父「ケンジ、誕生日おめでとう。ほら、約束通り買ってきたぞ。誕生日プレゼントだ」

ケンジ「わーい! ブレイブファンタジー3だ! ありがとうお父さん!」


勇者「…………」


勇者は誕生日プレゼントを嬉しそうに見ているケンジを棒立ちでじっと見つめていた。

姫「ねえ勇者、どうしたの?」


勇者「……みんな、今まで俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。でも今気が変わった。魔王を倒してゲームをクリアしよう」

3人「ええ!?」

シンクロして驚く3人。


姫「何言ってんのよ! 提案したのはあんたでしょ? それを自分から止めるなんて」

勇者「わかったんだよ」

姫「何がわかったのよ」

勇者「ケンジの笑顔さ。ほら、あの笑顔。みんな見覚えがあるだろう?」

3人は一斉にケンジの方を見る。




勇者「俺たちがいるこのゲーム、BF2を初プレイした時の顔さ。あのワクワクが止まらない笑顔。それが今している笑顔さ。けど、その笑顔はもう俺たちには向いていない。今向いてるのはケンジが持っているBF3なのさ」




3人「…………」

それを聞いて他の3人も納得したようだ。


姫「諦めなくちゃいけないのかな」

勇者「そうじゃない。役割を終えただけさ」

魔法使い「そうだね。人間界の事もっと知りたかったけど、僕等はゲームのキャラクター。プレイヤーを楽しませればそれでよかったんだよ」

武闘家「最初の頃の気持ちを思い出したぜ。あの笑顔が見たかった気持ちをな」

勇者「みんな……」


ここで魔王がゼエゼエ言いながら戻ってきた。


魔王「ねえまだどこか行かなきゃならないの? 僕もう疲れたよお」

勇者「魔王! ちょうどいいところに来たな。みんなで話し合ってゲームをクリアすることにしたんだ」

魔王「よかったあ! やっと終わりなんだー」

そう言いながら魔王は地べたにへたり込んだ。最初の意気込みはどこへやらといった感じである。


勇者「よし、それじゃここで魔王の城の時と同じ位置につくぞ」

武闘家「ここで? ここってただの草原だぞ? いきなり魔王が出現するって不自然じゃねえか?」

勇者「俺は一刻も早くゲームをクリアさせてケンジにBF3をプレイして欲しいんだ」

魔法使い「ほらほら勇者様がそういってるんだからみんな従わないと」

姫「全く、最後の最後までわがまま勇者だったわね」


勇者の言った通り、ケンジの目を見計らってフィールド以外は魔王の城の時と全く同じ配置を取る。


ひとしきり喜んだケンジは、這うようにしてゲーム機に近づいた。

ケンジ「お父さん、早速やってみるよ!」

ケンジ「あ、でもまだBF2クリアしてないんだった」


ケンジ「……あれ?」


ケンジが画面を見るとなんと魔王が出現しているではないか。

しかも仲間だった姫がまた捕まっている。


ユウシャ「ツイニキタゾ マオウ カクゴシロ」

マオウ「グハハハハ ヨクキタユウシャヨ ダガオマエモコレマデダ」

ヒメ「タスケテ ユウシャサマ」


ケンジ「なんだろう??? やっぱりバグだったのかな」

ケンジ「でもいいや。これで倒せばクリアでしょ。余裕余裕」


ケンジは早く終わらせたい一心でコントローラを握り操作する。




そして……




マオウ「グハアアアア ユウシャメエエエエ」


今度はちゃんとトドメを刺し、魔王は姿を消した。

ケンジ「やったああああ! 魔王を倒したぞ! まさか変身とかないよね?」


ユウシャ「ヒメ ダイジョウブデスカ」

ヒメ「ユウシャサマ タスケテクレテ アリガトウ コレデコノセカイモ ヘイワニナリマス」

ケンジ「はーやっとクリアした。でも面白かったなー。魔王の城からの捜索がちょっと疲れたけど、姫が仲間になるとことかよかったなー」


「ケンジ イママデ アソンデクレテ アリガトウ」




ケンジ「…………え?」




まるで画面内のキャラクターが語り掛けてきたのではないかと錯覚し、目を丸くするケンジ。

ケンジ「あ、なんだ演出か」

ケンジ「うん、楽しかったよ。こちらこそありがとう」

ケンジ「……ん?」


今度はユウシャが画面下に向かって走ってくる。


ケンジ「なんだろう、これも演出なのかな」

ユウシャ「マ、」




ここで黒画面に変わり、スタッフロール及びED曲が流れ始める。




本来ならばここで喜ぶべき所なのだが、ケンジは最後の部分がどうしても気になっていた。

ケンジ「最後勇者が何か言いかけてたような……」

ケンジはさっきまで早くBF3をプレイしたがっていたはずなのに、なぜか今は気にもせず、ただ画面をじっと見ていた。




その時勇者は画面内で必死にケンジを呼び掛けていた。

だが、このゲームには声が当てられていないためいくら叫んでも聞こえない。


勇者「ケンジー! くそっ、こんなもの!」


勇者は巨大な黒壁と化したスタッフロールを内側からドンドンと叩く。だが、びくともしない。


姫「勇者もうやめて!」

我を失った勇者を後ろから止める姫。


続いて魔法使い、武闘家が出現し勇者を止めに入る。

魔王はHPが残り1になり動けずにいた。

魔法使い「勇者さん落ち着いて!」

武闘家「おい勇者!」

魔王「ふえええ、僕もう動けない……」


頭ではわかっていても感情が止まらない。本当はまだこのゲームをプレイして欲しかった。ケンジと共にまだ冒険したかった。しかし、それもこれで終わった。本当に終わったのだ。


勇者「さようなら、ケンジ……」


パチッ


ただ静かに電源の切れる音が聞こえた。






~~~

~~~~

~~~~~





10年後。

BF2並びに遊び尽されたゲームソフト達は皆段ボール内に詰められ、押入れの中に入れられていた。




勇者「(・・・もうどのくらい経ったんだろう)」

勇者は動けないまま、ただ延々とケンジとの思い出を反芻する時間を過ごしていた。

しかし、それももう出来ないほど勇者の精神は衰弱していた。




勇者「(・・・もう一度ケンジに会いたいな)」




すると、下の階から声が聞こえてきた。


ケンジ母「ケンジー、そこの部屋ユウジが使うから全部まとめて部屋から出しといてねー」

ケンジ「はあ? なんでだよ、ここは俺の部屋だろうが」

ケンジ母「なんでって、全寮制の高校行くんだから大丈夫でしょー。ユウジがそこの部屋がいいって言うんだからしょうがないでしょ。あんたはまだ使ってない部屋使えばいいじゃないの」

ケンジ「なんだよ、ったく」


ケンジもすっかり声変わりして、弟もいるようだ。

母親への態度も若干ではあるが厳しくなった。


ケンジ「ふー、んじゃとりあえず押入れの布団から移動すっかな。よっと」

ケンジが押入れの戸を引き、布団を一気に取り出し持ち上げた。中々の体格に成長しているようだった。


ケンジ「あれ、なんだこの箱?」


ケンジは押入れの隅にある段ボールに気付いた。なんだろうと取り出して開けてみる。

ケンジ「おー昔やってたゲーム。久々に見た。よし、ちょっと点けてみるかな。えーとコンセントはっと」

ケンジは幼少時代を思い出しながらゲーム機本来の設置にとりかかる。


ケンジ「どのソフトやろっかなー」


ケンジはなかなかのゲーマーだったらしい。何十本もあるソフトをガチャガチャと探り出し、やがて下のほうに眠っていた”あるソフト”に目がとまった。

ケンジ「これよく覚えてるなー。よし、これをやろう」


早速ソフトを本体にセットし、電源をONにする。


カチッ、ブウウウウン






     勇者「…………?」






ケンジ「テレビテレビ、えーと点いたかな」






     勇者「…………!」






ケンジ「おーそうそうこんなんだった。懐かしいなー」








     「(…………ケンジ、ケンジだ!! また会えた!!)」








ユウジが画面を見ているので動くことはできなかったが、その時の勇者は嬉しくてたまらず、必死にはしゃぐのをこらえていた。


その時部屋に弟ユウジが入ってきた。


ユウジ「兄ちゃん何してるの?」

ケンジ「ああ、これは俺が小学生の頃やってたゲームだよ。押入れを整理してたらたまたま見つけたんだ」

ユウジ「僕もやりたい!」

ケンジ「いいけど、今時こんな古いゲームやらなくてもいいだろ」

ユウジ「もうこの部屋は僕の部屋になるんだから、この部屋にある物は僕の物! だからやってもいいの!」

ケンジ「なんだそのどっかのガキ大将みたいなセリフは」

ユウジ「いいからやらせて!」

ケンジ「うおっと」


ユウジはケンジの座っていた場所を無理やり陣取ると、おもむろにコントローラーを手に取った。

ユウジ「ニューゲームを押して……」




(ゲーム画面)プレイヤーの名前を決めてください。




ユウジ「兄ちゃん、名前何がいいかな?」

ケンジ「そりゃ自分の名前だろ。自分がこれから冒険すると思うと胸が震えるだろ?」

ユウジは成程とカーソルを移動させ ユ ウ ジ とボタンを押した。

ユウジ「よーし、君の名前はユウジ!」









     「勇者ユウジだ!」









     俺、ユウジの新たなる冒険が始まる。







~Fin~

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RPGS(Roll Playing Game Story) @tee

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