ゲームの世界と3匹の魔法少女

綿桜 あや

読み切り

ここは【ファンタジーワールド】というゲームの世界。

主人公は、その【ファンタジーワールド】に迷い込んだ3匹の魔法少女のお話である―――。


「……ノカ……ホノカ!!」

「わあっ!」

ゴンッ!

その場から勢いよく頭をあげて、レイのおでこに頭がぶつかった。

「ちょっ……、痛いよホノカ! こぶでもできたらどーすんのさ!」

「ごっ、ごめんなさぁ~い!!」

私、ホノカ。魔法の国に住んでる魔法少女です。

友達のレイとランスと、神隠しが起こるという泉に近づいたら、何者かに足を引っ張られて泉に落ちちゃった!

それで、目が覚めたら見知らぬ野原に飛ばされていて……。

「……って、レイが猫の姿になってるっ! どうしたの!?」

すると、後ろにいたランスが振り向いた。

「ホノカもだよ! それに、私も……」

落ち着いて自分の姿を確認してみると、真っ白な毛の白猫になっていた。

「どっ、どうしよう! そうだ、おはらいの魔法!」

ぶつぶつ呪文を唱え、右手を高々と上げた。でも、猫の姿から戻らない。

「な、なんでっ!? 魔法がつかえないよ!」

「ちょっとホノカ、落ち着いて、落ち着いて!」

レイがホノカをなだめ、どうしてこうなったのか状況整理を始めた。

「えーっと……、明らか怪しいのは私たちを泉にひっぱりこんだ「誰か」に間違いないよね」

「ええ、おそらくね」

「でも、黒幕のしもべってこともあり得るんじゃないかな? たとえば空間を行き来できる能力を持ったやつ……とか」

レイがそういうと、2人も「うんうん」とうなずきあった。

「でも、まだ手がかりも何もないし、どうやって探すの?」

私がそういうと、2人とも前足で頭をなでながら考え込んだ。

「それもそうね、まだ相手の所持物も足跡も何もないし……」

「ねえ…、あれ、国じゃない?」

ランスが平原の向こう側に視線を向けながらつぶやいた。『えっ?』と後ろを振り返ると、お城や民家などのてっぺんが見えた。

「国に行けば、何か手がかりを見つけることができるかも!」

2人を引き連れて、国の門の前に到着した。だが、門番に引き留められた。

「まて! たとえ小さなネコでも通させはせんぞ!」

門番に追い返されてしまった。これではどうやって入ればいいのかわからない。

国の周りをぐるぐる回っていると、裏口を発見。

「ここから入れないかな?」

ランスは、裏口を少し調べまわっていた。

裏口にも門番はいた。1人だけど、武器を持ってるから入りずらい。魔法が使えれば、門番なんて倒せるのに……。

そんなことを考えていると、かこいに穴が開いている部分をみつけた。

子ネコがなんとかくぐれそうな、小さな穴だ。

でも、ここから入るしか道はない。覚悟を決めてレイとランスを後ろに引き連れ、くぐった。


たどり着いた場所はお城のすぐ裏側。誰がこんな穴をあけたんだろう?

とりあえず大通りに出てみると、たくさんの人が歩いていた。

「どうする? 猫の姿になってから、体力がやけに少ないし、ふみつけられでもしたら大変だよっ!」

「でも、突破するしかないじゃん……」

ランスとホノカが暗い顔をする中、レイは真剣な表情で人ごみの中を進んでいった。

レイは人の足をかわしながら、まるでアスレチックをしているかのように飛び跳ねたり走ったりしながら進んでいる。

2人も覚悟を決めて、どんどん進んでいった。

レイを先頭に、やっと人ごみから脱出した。レイも神経を使い果てて、ふらふらとその場に倒れこんだ。

ホノカとランスはどうしていいかわからずに、その場でレイをゆすりおこそうとしていた。

すると、後ろから鈴の様にさわやかで美しい声が聞こえた。

「ネコさん、具合が悪いの?」

銀色のティアラにあわいピンクのドレスを身にまとった女の子が、レイを抱き上げて、叫んだ。

「セバスチャン! セバスチャンはいませんか!?」

すると、いつの間にか黒い背広のひげを生やした男性が立っていた。

「お呼びでしょうか、妹様」

「このネコさん、弱っているのよ。お城に行って、休ませてあげないと!」

「で、でもクランセル様が何とおっしゃるか……」

「ぐずぐず言わないで早く!」

女の子がどなりたてると、さすがの執事さんもお手上げで、仕方なくお城に私たちを連れて行ってくれた。


お城までつくと、門番が女の子を何も言わずに通した。「やっぱりここでも格差社会って激しいものなのね」とランスは思った。

逆に、ホノカはそんなこときにせずに、目を輝かせながらお城を見渡していた。

まるで童話に出てくるお城のような、立派な大きなお城がそびえたっていた。

庭園も色とりどりの花が咲き誇っている。

お城の中に入ると、赤いじゅうたんや立派なガラスの花瓶や豪華なシャンデリアが並んでいる。

「セバスチャン、救護室のカギを」

「かしこまりました」

数秒もしないうちに執事さんはカギを持ってきて、すでにあけていた。

ドアを開けると、広い空間があった。布団が並べられ、角にはたくさんのタンスが並んでいた。

女の子はレイを布団に寝かせ、ホノカとランスにはキャットフードをくれた。

8頭身の時はまずく感じるキャットフードが、とてもおいしく感じる。これもネコになってから現れた症状だ。

しばらくたつと、レイが目を覚ました。布団から起きだすと、枕元に置かれていたキャットフードをムシャムシャ食べた。

カケラも残さず、キレイに完食した。

レイが起きたことを知り、女の子が救護室に入ってきた。

「ネコさん、具合がよくなったのですね! よかった!」

最初はレイも女の子を警戒していたけど、すぐ警戒心を無くした。

すると、救護室に女の子より背の高い紫色のドレスを着た女の子が入ってきた。

「ベル、なんで救護室なんか……」

女の子のお姉さんらしき人は、途中で言葉を切り、よく私たちの姿を見た。

「い、いやあああーーーっ!? ね、猫おおおおおおおおっ!?」

すごく大きな叫び声をあげて、その場に倒れこんだ。

「お、お姉さまっ!?」

それから、しばらくして、女の子のお姉さんは目を覚ました。今度は姿を見てもおどろかなかった。

「ゴメンナサイ、取り乱しちゃったわね」

「ごめんねネコさん、お姉ちゃん人見知りならぬ動物見知りなのよ」

「ベル?」

ベルのお姉さんがベルをにらむと、ベルはうつむいた。

「ごめんなさーい」

それから、私たちはネコなのに自己紹介をし始めた。でも、その方がありがたいな。

「私はこのお城の中で1番えらい、クランセルよ」

お姉さんの方はクランセル、という。

「私はベルリーナ。このお城で2番目にえらいのよ!」

そんなことを考えながら窓を見ると、外はもう真っ暗で、月の光が差し込んできている。

すると、ポンッと白い煙を上げてホノカ達3人の姿が人間に戻った。

「ええっ!? ネコさんたち、人だったの!?」

さすがのベルもこのことには驚いて、腰を抜かしてしまった。

どうやら、月の光で姿が戻る仕組みになっているようだ。

それから、しばらくこの世界の話を聞いていた。これについては、クランセルがよく知っているようだ。

「この世界は、【ファンタジーワールド】というゲームの世界なの。私たちはあなたたち…つまり主人公をサポートするキャラクターってことになるわね」

「どうやったらこの世界から出れるの? それに、泉に私たちを引っ張り込んだ犯人は?」

「この世界から出るには、この世界に潜む魔王、【グランゼウス】っていうやつを倒さなければならないの。おそらく泉にひっぱりこんだ犯人もそいつでしょうね」

「魔王の特徴は?」

そう聞くと、クランセルは、「わからない」と答えた。

特徴が分からないと、どうあがいても誰が犯人だかわからないよ……。

「グランゼウスを倒すのは、もともとの自分の能力を使うの。迷い込んだものが能力をもたない人間の場合は、ストーリークエストがあるのだけど、あなた達は魔法少女だから必要ないわね」

話しを聞いていると、月が雲に隠れた。私たちは猫の姿に戻ってしまった。

「もう、何も聞いてこれないわねぇ……」

「しかたないし、皆で寝ようよぉ~」

「そうね、また明日魔王捜索をしましょうか」

私たちは、救護室の布団に横になった。


朝になり、一番早く目が覚めたのはランスだった。クランセルを見てみると、耳の先がとがり、口元にはキバが生え、少し爪もとがっているように感じた。

ランスは、気になってこの様子を記憶しておくことにし、また布団にもぐった。

それから30分ほどたち、窓からは太陽の光があふれ出ている。

クランセルが起きだし、廊下へ出て行った。

その足音に気づき、レイもホノカも目を覚ました。ランスはちらっとベルの姿を見た。

ベルの姿は何も変わらずに、天使のような安らかな寝顔を浮かべていただけだった。

しばらくたち、ベルも目を覚まし、クランセルも戻ってきた。軽く朝食をとり、今回も魔王捜索を続けることにした。

今日はお城の大図書館で調べ物をすることにした。クランセルに案内された本棚には、魔王を調べた本がずらりと並んでいる。

ホノカもレイも、熱心に本に集中していた。ランスは、一番奥のすみっこにある本を取り出して読んだ。

なかには、魔王についての内容がびっしりと書かれていた。

その中で木になった文字が、【魔王はこの国の支配者、国のことならば何でも操ることができる】と書いてあった。

つまり、魔王はこの国の王様、ってことになるんだよね。

あれ? 王様……? 王女……様?

その時、ランスが表情を変えてたちあがった。

「わかったあああああああっ!!」

ガッターン!!

レイとホノカが椅子ごとまえのめりに倒れて、その振動で本がバサバサバサッと落ちてきた。

この本を読んだ時点で、わかる人はわかるだろう。

「魔王はクランセル、アナタでしょ!?」

「はあっ!? 何を言っているの? 私はこの国の王女よ! 悪いことをたくらんでいるはずがないわ!」

「私、見たのよ! 朝早く寝ているとき、ほんの微量だけどクランセルの体に異変があったわ!」

クランセルは慌てないで、冷静に判断していた。

「なによ、証拠はそれだけ? それだけじゃあ私が犯人とは限らないわよ!」

「この本に、【魔王はこの国の支配者、国のことならば何でも操ることができる】って書いてあったのよ! つまりこの国の王! そうじゃなくって!?」

はげしいランスの言葉押しについにクランセルは慌てた表情を見せた。

「でも、国のことを操れるのはベルも一緒! ベルが犯人と怪しまないわけ!?」

「ベルは朝、なんの異変も無かったのよ! これでクランセル、アナタが犯人ということは決定にすぎないわね!?」

すると、クランセルのたっている位置を中心に、光があふれ出てきた。

「ま、まぶしいっ……!!」

皆目を閉じ、光がやんで目を開けると、8頭身の魔法少女の姿に戻っていた。

「やった! 姿が戻った!」

ホノカがくるりと回転しながらジャンプした。すると、足を踏み外して転んだ。

「あいたたた……、失敗、失敗!」

「もう、ホノカ、この真面目な空気をぶち壊さないでくれる?」

レイがあきれた表情で私にそう言った。

それを気にせずに、ランスは攻撃態勢をとった。

「……チッ、仕方ないわね!」

バサバサバサッと黒い羽根が大図書館にあふれた。その羽根の山の中から、変身したクランセルが現れた。

「でも正体がわかったところで、すべてを支配する私に、かなうとでも!?」

「倒して見せる…! たった1人の妹を犯人にしようとした罪は重いわよっ!!」

ランスが高々と右手をあげ、ぶつぶつ呪文を唱えると、手のひらが光ると同時に後ろに魔方陣があらわれ、星の形をしたレーザーやミサイルがどんどんグランゼウスに飛んでいく。

「無駄よ、この世界を操れるなら、無敵のバリアだって作れるんですもの!」

ミサイルやレーザーを簡単に弾き返した。次はレイが呪文を唱え、高々と右手をあげた。

すると、右手に炎をまとった剣があらわれ、その辺に散らばった本をちりちりともやし、いずれ大図書館が大惨事になり、お城も燃え始めた。グランゼウスと3人が空へ舞いあがり、さらに死闘は続く。

ついにグランゼウスも反撃を始めるのか、両方の手のひらから黒いレーザーが発射された。

それに3人は撃ち落とされて、燃えて地面だけが残ったお城の大図書館に落ちた。

それを黙ってみていたベルは、表情が天使とは思えぬ怖い顔になっていた。

ベルがたちあがると、真っ白な翼に淡いピンクの髪をした天使の姿に変わった。

そして、ベルは3つに分かれて、ランスとホノカ、レイの心臓にやどった。

3人はあっという間に回復し、ベルと同じ真っ白な翼を持っていた。

「ベルの力、受け取ったよーっ!」

大声で呪文を唱え、両手を高々と上げた。

すると、グランゼウスの周りにたくさんの流れ星が浮かんでいた。

「こんな流れ星、私の能力で消して……」

グランゼウスが右手を上げようとしたが、何かに締め付けられて動けない。

「クソッ、なんでだ!?」

グランゼウスが必死にもがき、あがいて出ようとしたが、流れ星はふわふわと浮かんだまま。

その隙をついたように、3人は大声で呪文を唱え、グランゼウスに向けて発射した。

すると、かなり重く、早いレーザーが滝のように流れてきた。

「う、うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁ」


グランゼウスの叫びとともに、私は目を覚ました。

泉の周辺にあった木によりかかって、眠っていたんだ。

3人で大きく背伸びをして、大空を見上げた。

「ねぇ……、あれ、夢だったのかな?」

「さあね…」

3人で家に帰り、夜にニュースを見た。すると、驚いたことに、クランセルのような見た目の女性が逮捕されていた。

罪は、【泉の中に人を引きずり込み、神隠しをした罪】だって。

なるほど、私たちが泉に引きずり込まれて、私たちは気絶し、同じ夢を見ていたんだ。

あれ? じゃあベルとは何の関連があるの?

ピンポーン

そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。

外に出てみると、誰もいなかったけど、ドアの前に白い羽根のペンダントが、3つ透明な袋に入って落ちていた。

家を出て、周りを見渡すと、白い羽根がたくさん落ちている。

たどりながら進むと、森の中に入った。奥が明るくなっていて、そっちへ走った。

すると、女の子がいて、こちらをふりかえった。

「ベル――――――!」

「えへへっ! 一緒に遊ぼう?」

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