第3話スライム

  どうしてこうなった。目の前でスライムに消化されつつあるべリアを眺めながらこう言わずにはいられなかった。

「…もう帰りたい。」



  この世界の冒険者と言われるもの達は皆体のどこかに刻印を押される。それが冒険者の証であり魔力の根源となる。俺は自分の腰を見つめて呟く。

「なんか俺の刻印あんまり格好よくないな…。」

「そんなもんですよ最初は。ちなみに刻印は己のレベルが上がるごとに見た目が変化しますよ?まぁ魔力にも関連しますが。」

べリアがふふんと鼻を鳴らして胸を張るとその立派な双丘が揺れる。うっ、おもわずガン見してしまった破壊力が高けぇなこの没落悪魔め。

「あれ、お前刻印どこに当てられたの?どこにも見当たんないけど。」

「ええっと。ま、まあ今はそんなことより初討伐クエストについて話しましょう!」

アハハっとわざとらしく言うべリアをじとっと見てやると目をそらされる。…こいつ何か隠してるな。まぁここはあえて触れないでおこう。

「俺は嫌だぞクエストなんて。今日も建築の仕事あるし。」

「そんなバイトするよりもモンスター狩ったほうが儲かりますし、レベルアップすることは勇者討伐に繋がります!」

アホなこと言い出したこのエロいだけの悪魔はほおって仕事に行こうっと。俺が扉を開けて出ていこうとするとべリアが口を開く。

「そんな態度とって良いんですか?犯罪者さん。」

「はは、犯罪者さんってなんだよ?べリアさん、俺はまだ清い体ですよ。」

もじどうり上から目線で俺を見下すべリア。

「知ってますよ童貞。どうしたんですか童貞?良いからさっさとギルドいって良い感じのクエスト探してきてください童貞犯罪者さん。」

糞っ!泣かしてやるこの悪魔泣かしてやる。

泣きながらギルドに走る俺を実に楽しげに見ているべリアを涙でにじむ視界にとらえながら叫んだ。

「ちっくしょぉぉぉ!!!」


ーその日の昼

 「初の討伐だから難易度低いクエスト選んだけど。俺は活躍出来ないぞ。」

最も難易度の低いスライム討伐のクエストを受けた俺は依頼があった場所にべリアと一緒に向かっている。

「一応は魔物の王子ですよね?スライム相手になにおじけづいてるんですか?」

こいつのジト目にもなれてきたなぁ。魔物の王子ってもまだ15になって半年だからなぁ。

ん?ちょっと待て、15になって半年?

「なに唸ってるんですか?妄想遊びも大概にしてください。」

「ちげぇよ!妄想遊びなんてしねえよ。い、いや妄想くらいはしますけど…ね。」

なれたといってもこうも至近距離でじっと見られると嘘はつけない。俺って純粋ですから。

「じゃあなにを唸ってるんですか?」

「俺って15になってもう半年だろ。そろそろ名前が与えられても良いんじゃないか?」

俺の言葉にべリアがああっと手を打つ。

魔族の者は15になって初めて名前と言うものが与えられる。俺としては格好いい名前が良いと思う。

「あれならもう決まってますよ?言ってないですっけ?」

聞いてねえよこの糞悪魔!てきとうこきやがって。

だが俺は優しく言葉をかえす。

「言ってないよそんなこと。大事な事なんだからしっかりつたえてくれよな。」

べリアが舌をだしコツンと頭をたたく。

メラメラとしたなにかが込み上げてくるがそれを飲み込む。

「そ、それで名前は…名前はどうなったの?」

「『カル』です。」

ん?俺の空耳かな。もう一回聞いてみようかな。

「俺の名前は?」

「『カル』です。」

一瞬のフリーズ。俺の中でなにかが音をたてて崩れた。よーし皆!ぶちギレタイムの時間だよー!

「んてめぇぇ!!てきとうこくんじゃ…ね…ぇ?」

なんだろうこれ?青っぽい透明なプルプルが人の形してる。いや、違う正確にはべリアの表面を青っぽい透明なプルプルが覆っている。

「だぶふぇふぇくだざーい!」

地獄でよく聞いたバンパイアレックスの鳴き声に似た声を聞きながらこう言わずにはいられなかった。

「…もう帰りたい。」

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