第17話「稚拙な演技力」
ネウロとエナは険しい表情で横に並び、廊下を歩く。
「来た」
「うん……」
正面からコツコツと足音を立て、エバナがゆっくりと向かってきた。
余裕の笑み。
「もう少し見つからなかったら職員総出で捜すとこでしたが、とうとう観念しましたか」
言い返す。
「なにをー、あたしだってー、こんな生活ぅー、もう嫌なんだからー」
「エナさんー、落ち着いてー。暴れちゃダメー」
それに対して鼻で笑うエバナ。
「洋服を入れ替えたのですか。まさかその稚拙な演技力で私を騙せるなんて思ってないでしょうね」
「くっ……」
ネウロとエナは口をつぐむ。
「私はね、ずっと何年も、小さい頃からエナお嬢様の面倒を見てきたの。私はエナ様の全てを理解してるのよ。見くびらないでほしいわ」
そう言うと近づき、服を掴むエバナ
「ちょっと!! やめてよ。放せって」
「ほらこっちがエナ様、さあ行くわよ」
「放せって言ってんだろ!!」
「そこの家来! 私はエナを自室まで連れて行くから、こっちに立ってる偽者のエナを引き取って牢屋に閉じ込めておきなさい!」
* * *
「最悪……」
エバナに自室に戻され不機嫌な表情を浮かべ、椅子にぺたんと座る。
そんな様子にも平然と対応するエバナ。
「エナ様、明日は大切な国民への演説の日です。原稿は私が用意しておきましたので、それを読んでください。こんな非常事態です。国民を安心させる重要な機会なんですよ。明日は見に来る人も、テレビで見る人も、いつもとは比べものにならないほど多いでしょう。いつも以上に気を引き締めていきましょうね」
「分かったわよ。今日はもう寝る!! 出てって!!」
「承知しました。なお本日からしばらくはこの部屋に外から鍵を掛けさせてもらいます」
「は? トイレはどうすんのよ?」
「いつでも呼んで頂ければ、私と家来三人が付き添います。行きますか?」
「さっきしたからいい!!」
* * *
エバナは部屋から出ると思う。
(私もエナお嬢様を部屋に閉じ込めるのは本意ではないのです。しかし大事なときなので……、お許しください)
* * *
翌朝。
エバナはエナの部屋の扉をノックする。
返事なし。
(まさか、逃げたなんてこと……。いやいや、一回で返事がないことはいつものことじゃない。私ったら何を不安になってるのかしら……)
何度もしつこくノック。
返事なし。
もう一度大きくノック。
そして中から寝起きで不機嫌をうかがわせる大声。
「はーい」
中から返事。
(良かった……)と安堵。
「ノックうるさい! 勝手に入ってってば!!」
エバナは扉を開けると、いつものようにぐうたらとベッドに横たわる姿を見て、「さぁ、演説の準備しますよ! 時間は限られてますよ!」と気合いを押しつける。
そして、眠そうな様子だが半ばムリヤリ椅子に座らせると、毎度の演説前と同じように後ろに立って、髪を解かし始める。
「動かないでくださいよ?」とエバナ。
「はぁい」大あくびで返答。
そして、後ろ髪を一つにまとめ上げたとき、エバナの手は止まった。
目を見開き、手を震わせた。
(あれ、エナ様の首後ろに……、ホクロがある…………)
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