第15話「湿っぽい螺旋階段」

 エナに手を引っ張られて後ろを走るネウロ。


「ねぇ、どこまで行くの?」

 廊下の角を何度も曲がる。


 時々すれ違う城内の職員たちは皆、エナとエナそっくりのネウロが走っていくのに目をぱちくりさせる。


 奥へ奥へと廊下を進み、だんだんと人通りの少なくなる。

 そして真っ正面には扉。それをエナが引き開けると、今度はその先に螺旋状の上り階段。


「なにここ……、すごい……」

 ネウロはそれまでの城の中とは雰囲気の違う空間に目を丸くした。

 筒のように上に伸びた空間は城の中は湿気っぽく、水のしたたる音。

 駆け足で階段を上れば、足音は二人の鼓膜を刺激するほどに大きく反響した。


 その頂上付近に到達してやっとエナの足は速度を緩めた。

 ぜえぜえと猫背になりながらネウロは途中で止まり胸を押さえる。

 エナの呼吸も荒かった。


「あとはこのはしごを上るだけ」とエナ。

 壁にはコの字にめり込んだ金具が上へと繋がっていた。

 エナはそれに手と足を掛けて上り始めると、頭上にある薄い鉄でできたフタを持ち上げた。

 ネウロも後ろから続いた。


* * *


 ネウロは鼻につんとした冷たくて心地よい空気を感じる。

「あれ、屋外? ここ」

 息を整えながらそう尋ねる。


「一人になりたいときに来る私の秘密基地」


* * *


 ネウロは立ち上がって気づく。


 今いるこの場所は鐘を鳴らす場所。四角くて腰の辺りまで煉瓦に囲まれた空間で、頭の上には大きな鐘があった。

「ここ……。あ、いつも夕方に鳴る鐘って……!」

 ネウロの問いに、「そうだよ」と答えるエナ。さっきまでの険しい表情が嘘のような柔らかな笑み。

 夜風が髪を響かせる。


「でもここって定期的に人来るんじゃないんです? 鐘鳴らしに」

「来ないよ。この鐘、自動だもん」

 そう言うとエナは隅に置かれた箱のフタを開け、タイマー設定の機械を見せて笑った。

「うわぁ……それはちょっとショックかも。なんかイメージが……」と苦笑いのネウロ。


 しかし、少し落ち着いて眺めを見渡すと、なんとなくここがエナのお気に入りの場所だということは分かってきた。

 この高い場所からは街も、山も、海もすべてが望める。

 ネウロが少し身を乗り出せば、空には満天の星が降り注いでいる。


 その風景に見とれていると、エナが慎重な様子で切り出す。

「さて……、これからのことなんだけど……」


 ネウロは幻想から現実へと戻され、今置かれた自分の追い込まれた状況に気持ちが暗くなった。

(そうだよね。これから、私どうすればいいんだろ……)

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