第11話「純白のエナ」

「どうしよう……。あのエバナって人に……、偽者って……バレてる!?」


 偽エナのネウロの顔は自室で青ざめた。

(自分ではうまくたち振る舞ってると思ってたけど……、やっぱり他人になりすますってそう簡単なことじゃない……。もし偽者だと確定されてしまったら……私、どうなるんだろ……)


 ネウロはベッドに腰掛け、真剣な表情を浮かべる。

(まずいよね。魔王が復活する前だったら、「たまたま出会ったエナさんにむりやり交換させられましたー」でぎりぎりなんとかなったかもしれないけど……)


 遠くから未だに聞こえる魔王の笑い声。


(魔王が復活した今、そんなことも信じてもらえなさそう……。私がエナさんの地位を乗っ取って、魔王を復活させた……。そう思われるに違いない。そうなれば私は……)


 ネウロは極刑に処される自分の姿を想像。頭を抱え、両手で髪の毛をぎゅっと握り恐怖に怯えた。

(まずいまずいまずい!! もっとエナさんの特徴を勉強しなきゃ……!!)


* * *


「何かエナさんのことをもっと知ることができるもの……」

 部屋の中を探すことにする。


 そして程なく、机の引き出しの中から『日記』なるノートを発見した。


 それを手に取る。

 乱雑な文字でデカデカと『読んだら殺す』とまで書いてある。


(これは……間違いなくエナさんの素性が知ることができるものだけど……、でも『読んだら殺す』って書かれてるし……)


 数秒沈黙。


(でも、このままだと私、冗談抜きに殺されかねないし……)


 ぎゅっと目を閉じ、「ごめん!」と言い、日記の表紙をめくった。


 そしてそっと目を開く。


「ん? 白紙……、あれ?」

 ページをめくる。白紙。


 めくる。白紙。

 めくる。白紙。

 めくる。白紙。


 パラパラパラ。白紙白紙白紙。

 パラパラパラパラパラパラ……。白紙白紙白紙白紙白紙白紙……。


 ネウロは全てのページに何も書かれていないことを確認すると、その日記を地面に叩きつけた。

「いや! せめて三日坊主ぐらいしてよ!! 表紙書いただけで飽きるとか、がさつさが想像以上だよ!!」


 一つ溜息。


 そして、他の手掛かりを探すことにする。


* * *


「あ、これなら……」


 押し入れに入っていた段ボール箱。その一つを開けたとき、ネウロははっと表情を生き返らせた。


『エナ様思い出のアルバムDVD』がずらり。年号順に綺麗に並べられていた。


(これ……いいかも。映像なら動きの研究もできるし、この部屋でもモニターあるから見られるっぽいし。……でもどれから、見ようかな。とりあえず最近のから…………、いやいやダメだ! エナさんになりきるって決めたんだから、私は!! そんな甘っちょろい考えではまたほころびが出てしまう!)


 ネウロは左上にあるいちばん古いDVDケースを取り出すことにした。


『モスコ歴三十九年 エナ様の思い出のアルバムDVD 第一巻』

 いざ、再生。


 映し出されたのは、おぎゃあおぎゃあと泣く産まれたばかりのエナの姿。


「かわいいなぁ。本当」

 顔がとろけそうになるネウロ。

 しかし、数秒後、停止ボタン。


「うん、さすがに赤ちゃんの頃を学ぶ必要はないかな。これ真似ても仕方ないもんね」

 冷静に判断。


 結局、それから四年後のDVDから見ることにする。


* * *


「さて、ここからが本番、今度こそ、エナさんの特徴を掴もう……!」


 気合いを入れて押す再生ボタン。

 問題なく映像が始まる。


 食い入るように視聴するネウロの前に映る、四歳の頃のエナ。


 それは、上品に歩き、礼儀正しく挨拶をするエナ。普段の食事を美しい作法でこなし、熱心に勉強をし、先生に誉められるエナ……。


 ネウロは身を乗り出した。

 最初はすぐに本性が映し出されると思ったが、いつまで映像を再生させても、ほころびの一つすら見当たらない。


 思わずネウロは声を出した。

「え!? どういうこと!!? これがエナさん!? え!?? いつからあんなんになっちゃったの!?」

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