第12話「あんなザマ」

 ネウロは次々にエナのアルバムDVDを再生していく。


(幼少期はマジメだったエナさんがいつからあんなザマに……)

 エナになりきるための勉強目的だけではなかった。すでに好奇心も入り交じるネウロ。


 次々とDVDを再生しては几帳面にしまい直していく。


「あれ……」

 それはある巻と巻との間で起きた。

 思わず手を止めるネウロ。


「一つ……抜けてる? 六巻がない……」

 番号が飛んでいた。


「じゃあ七巻いっとこうかな……。時間も限られてるし」


 そっとDVDを入れる。


 そして、再生と同時に「ぎゃはははははははははは」と笑いながら城の中を走り回る映像の中のエナ。

 思わず消音ボタン。


「ここで既におかしくなってる……!? ということは……」


 いったん停止。

 腕を組んで考え込むネウロ。

「この間にあった出来事……。時期は……、ちょうど六年前か」


 部屋中を見渡し、さらには歩き回り、何か手掛かりがありそうな場所を探す。

 そして止まる視線。その先は本棚。


 しまったままおそらく一度も手を付けていない本棚の隅には、去年までの一年ごと『国のあゆみ』という冊子が整列されていた。


 一つ息をのみ、そこから該当年の一冊に手を伸ばす。

 躊躇することなくその冊子を開くと一枚ずつページをしゅるりとめくっていく。


「これ……」


 ちょうどDVDの欠落部分にあったイベントが一つあった。

 その文字に目を丸くする。


『第十五回 魔王封印記念日イベント』


 その見出しのすぐ下には、ネウロの自宅近くの通りで車に下りるエナの写真。そのすぐ下には『エナ様は同イベント初めての出席』という絵解き。


(え、嘘。もしかして……、エナさんの変化って……私かお父さんが原因になってる……!?)


 ネウロは六年前の出来事を思い出そうとする。

 たしかにそのようなイベントがあることは覚えているが、特段印象に残った出来事でもなかったため、今まで思い返すこともほとんどなかった。


 数分自分の中に眠った記憶がないか模索するネウロ。

「あー、ダメだ! 思い出せない!!」


 身体を左右にゆっくり揺らしながら別の方法を模索。

(お父さんに訊けば分かるかもしれないけど……、でもこんな状況じゃね……)


 ふとテーブルの隅に置いてあるスマホが目に入る。

「あ、そうだ。本人に訊けばいいんだ。これですっきりしてまたエナさんになりきるほうに集中できる」

 意気揚々と画面をタップした。


* * *


「何でだろう……繋がらない」

 呼び出し音は鳴っているようだが、エナが出ることはなかった。


 最初は「また掛けてみようかな」とそれほど深刻に考えなかったが、何度掛け直しても、エナが出ることはなかった。


「何だろう……、この感じ」

 言いしれぬ胸騒ぎは、ネウロの中でどくどくと大きくなっていった。

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