第7話「避難しなきゃ」
翌朝。
ネウロになりすましているエナは、家が半壊しているのも、父が魔王として巨大化して棒立ちしているのもあまり気に留めず、学校へと向かうことにした。
エナは知っている。ネウロが通う学校の場所も、服装も、そしてネウロが学校でどんな待遇を受けていたかも。
いつも城の窓から気に掛けていた。
* * *
教室前。
エナは大きく息を吸って勢いよく扉を開けた。
「おっはよー!!」
がらん。
室内には誰一人いなかった。
動いているのは開けっ放しの窓の両脇。なびいているカーテンだけ。
(あれ……、なんで?)
目を点にしながらも入室。
そのまま一直線に窓のところまで行き、身を乗り出した。
「あ……」
眼下には少し大きな荷物を持った人たちの慌ただしい列。
それが次々と体育館の中へと連なっていた。
「見つけた!」
窓の縁に両手を乗せ、宙ぶらりんでばたつかせた足をまた地に下ろすと、エナは再び廊下へと駆け出していった。
* * *
エナも混雑に紛れて体育館に入る。
そして辺りを見回す。
体育館の中は生徒や教師だけでなかった。ここには普段足を運ばないであろう近所の住人と見られる群衆でもあふれていた。
みな大きめの鞄を持っている。
「きゃ!! ……あれ……」
一人の女性がそうカマキリ声。エナは人差し指を向けられる。
辺りの人々がみなエナのほうに視線。
そして空気が一瞬にして変わった。
周囲から口々に放たれる小声。
「うぁ、マジかよ。魔王のとこの子じゃん……」
「魔王の家には今回の連絡行ってないはずだろ? なんでここに」
「学校があると思ってきたんじゃない?」
「えぇ、こんなときにあるわけないのに。つーかよく来られたよね。自分のとこがあんな状態なのに……」
「襲いに来たんじゃない!? やべーよ!」
あたりの人々は警戒や侮蔑のまなざしをエナに向けるか、あたかも知らんぷりをしているかのどちらかだった。
エナは目をつぶりざわつきの真ん中で思う。
(なるほど、ネウロ。あなたはずっとこういう気持ちで生活してきたのね。周りから疎まれて軽蔑されて……。私がいつも城から眺めていたネウロ……、私そっくりのネウロ……)
そして呟く。
「でももう大丈夫。あなたがこれから、みんなと仲良くなれるように、とっておきの方法を練っていたの」
ちょうどそのとき、エナの前に小さなゴムボールが転がってきた。
落とし主の小さな男の子は不用意に近づく。
そしてゴムボールを拾いご満悦の幼児を、ぴとっと左腕で囲うようにして捕まえると、エナはもう片方の手で護身用の短剣を振りかざした。
そして大声で叫ぶ。
「私と仲良くしないと、この少年がどうなってもしらないよ!!」
「なん……だと……!?」
周囲の顔が皆青ざめている。
もちろんこの方法は逆効果だった。
周りの男たちに睨まれ、事態はさらに悪化していく。
「あれ?」
エナの額が汗ばんだ。
* * *
その頃、立ったまま動きをみせてなかった魔王ギルガ。
意識がおぼろげだが少し戻ってきたところだった。
「なんだ、頭がぼうっとする……。背も高くなったような……」
目の前に町内掲示板があった。
「あ、お知らせ……? 読まなきゃ……」
すっとかがんで顔を低いその位置に寄せる。
『非常事態! 避難指示! このような状況なので早急に貴重品だけまとめてイルニカ中学校の体育館へ向かえ。順に極秘地下シェルターへ案内する』
それを一読し、魔王ギルガは言う。
「ワシも避難しなきゃ……」
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