第6話「エナが望んだ景色の先」
エナ役のネウロは、城から街を一望した。
視界のどこに意識を向けるわけでもなく、耳にスマホを当て、そこに集中。
しばらくの呼び出し音の末、ネウロ役のエナにつながった。
「あ、もしもし!」
思わず早口。
「もっしもーし」
対照的に脳天気な電話の向こうのエナ。
「軽! えっと……状況分かってます?」
「あー……、魔王なら横にいるよ。……換わる?」
「いえ、大丈夫です……」
電話先のエナの危機感のなさに、沸き立つ苛立ちを抑えるネウロ。
「そっか」
「あの……」
「ん?」
「こっちは城の中が大騒ぎなんです! 魔王が目覚めて!」
「まぁそうだろうね、ごめーん」
「……」
「それでこっちは今にも勇者を招集してそっちに向かう勢いなんです! そっちもすぐに危険に晒されます。エナさんちょっとはマジメになってください!」
口調は無意識にも強くなる。
「…………」
「……」(あれ……黙り込んじゃった。いくらなんでも言い過ぎたかも)
「…………」
「あ、あの……! すみません、今のはちょっと言い過……」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「は……」
もう同情はいらないと感じるネウロ。
「もっかい最初からいい?」
「もういいです。私のほうでもそっちに危険が及ばないように善処しますが、責任は持てませんので、そっちも気をつけてください。以上です。それじゃ」
「あ、ちょっと待って!」
電話を切ろうとするネウロを急に止めるエナ。
(もう……)「なんですか?」
「えっと、あのさ……」
さっきまでの脳天気なトーンが嘘のように、落ち着いた口調で言葉を選ぶエナ。
「?」
「私たちが最初に会ったときのこと、……覚えてる?」
ネウロは呆れる。
「……忘れるわけないじゃないですか」
「ほんと!?」
「だって昨日のことじゃないですか」
「……昨日……そうだよね……覚えてるわけ……」ぶつぶつと呟くエナ。
「もういいですか? 切りますよ!」
「あ、あと一つ!」
「なんですか?」
「景色、いいでしょ! お城からの景色!」
「? ええ。とても」
ネウロは改めて意識を視界の景色に向けた。
賑わう市場、建物がぎゅうぎゅうに密集した住宅街、復活してしまったがその場でじっとしている魔王の姿……。
ここからはたいていのものが見下ろせることを再認識する。
エナはたそがれるかのように言う。
「学校も……見えるでしょ? 私ね……、視力いいんだ。だから校舎の中の様子まで分かるの。……でもやっぱり直接話してみないと分からないこともあったね!」
「?」
ネウロはいまいちエナの言いたいことが何なのか掴みきれない。
しかし、ここで忠告をしなければいけなかったことを思い出すネウロ。
「あ……、学校と言えば……!」
「ん? 何?」
「明日からはエナさん、しばらく学校休んだほうがいいです! ただでさえ魔王の娘だって恐れられてるのに、魔王が復活したとなれば、もうなんて言われるか……」
想像するだけで息苦しくなるネウロ。説明しながら顔をしかめる。
一方、電話越しのエナはきょとんとした態度で言う。
「何それ。別にいいじゃん」
「え……」
ネウロは目を丸くした。
そのまましばらく言葉を失った。
* * *
電話を終えたネウロは微笑んだ。
(「別にいいじゃん」だって……。何それ……、今まで私が悩んでいたのが馬鹿みたい)
* * *
電話を終えたエナは無表情で思う。
(「学校に行くな」だって……。何それ……、それじゃなんのために入れ替わったのか分からないじゃない)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます