第5話「たとえ偽者でも今はプリンセス」

 ネウロは嫌な予感がした。

 一同の視線が集まっていることを察知する。


 重鎮は言った。

「この国の指揮を執るのは……、王女、つまりエナ様だ」


 

 偽エナのネウロはとっさに考える。

(やっぱり……。でもどうしよう……まさかこんなことになるなんて……)


 周囲では陰口。

「おい、あの暴れ馬エナ様には厳しいだろ……」

「だよなぁ、テレビカメラ回ってないときはひどい有様だからな……」


 そしてまた別のところから口々に発せられる意見。

「あ、あの……エナ様にはまだ荷が重いのでは……」

「そうそう、エナ様は勉学もまだ忙しいですし……」

「そうですよね! やっぱりこういうのはもうちょっと……なんていうか……」


 オブラートに包まれた反対意見の数々。


 それに対してネウロはふと思う。

(なんでだろう……。私が悪く言われてるわけじゃないのに……、なんか……すごく悔しい……。でも私はプリンセス。たとえ偽者でも今はプリンセスなんだ。もしかしたら……エナさんにとっても、私自身のためにも、これは何か状況を変えられるチャンスなのかも……。だとしたら……!!)


 ギギッと勢いよく椅子を引き立ち上がる偽エナのネウロ。


「エナ……様?」と重鎮。


 ネウロはしばらく俯いたまま沈黙し、そして決心したかのように顔を上げた。


「私、指揮を執ります!」


 静寂に包まれたこの空間が一気にざわついた。

 それは明らかに困惑によるものだと、ネウロにも分かった。


 ネウロは構わず続ける。

「先ほども言われていましたが、今は一分一秒を争うときです。弱まっている魔王の魔力も、時間とともに次第に回復してくることでしょう」


 重鎮は尋ねる。

「我々はどうしたらよろしいでしょう……。急いで勇者を招集しましょうか」


 その問いにエナ。

(勇者!? まずい方向だよなぁ。でもこれは断るわけにはいかない……。とにかくいい方向に持っていかないとなぁ)「はい、まずはこの国にいる勇者を招集してください。実績や資格のない自称勇者でも構いません」


「ではそれは私が早速対応させます!」

 職員の一人がそう答える。


 ネウロは思う。

(お父さんを倒させずに……、うまい具合に和解させて、今後のためにも魔王に対する人々の印象も良くしないと……。でもどうすれば……。とにかく進めながら探り探りやってかないとな)


「それ以外の対策は私が明日の朝までにまとめます。明日の午前中、皆さんとまた会議の場を設けたいと思います。何か魔王に関する情報が来た場合は私のところまですぐに報告してください」

 淡々と指示。


「おお……!!」

 感嘆の声が洩れる。


 そして職員たちが口々に言う。

「おい、なんかエナ様がちょっと覚醒してるぞ」

「ああ、いつもはちゃらんぽらんなのに、いざというときはこんなに有能なんだな。ちょっと心強いわ」


* * *


 会合が終了。


 ネウロは城の外の見える廊下に移動し、右手をポケットに入れた。

(ちょっと魔王の状況確認しないとな……)

 ネウロはエナから渡されたスマホを取り出し、エナへ電話を掛けることにした。


 外からは住人や城の警備員などの騒がしい声が聞こえる。

 そのため、後ろから誰かが近づいてくる足音に、ネウロは全く気づいていなかった。

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