第3話「ちり紙だと思ったら、案の定封印の書だった」

 一方、偽ネウロことプリンセス・エナ。彼女もまたネウロの家で危機に瀕していた。


「ここに自由はあるが利便性がない……」

 鼻をむずむずさせながらそう言う。


 彼女はティッシュを探していた。


「ティッシュ……ティッシュ……」


 やみくもに引き出しを上から順に開けていくと、途中、分厚い辞書のようなものを発見。


「あった、ティッシュ!」


 ベリッと一枚を破る。


 そして鼻をかみ、

「はぁ」

 落ち着きを取り戻す。


 そのとき、分厚い辞書がぼうっと柔らかい光を放った。


「? きゃ!!」

 それはどんどん強くなり、エナは思わず腕で目を覆う。

 何が何だか分からなかったが、それは三十秒ほどで弱まり、そして消えた。


「なんだったの? っていうかこの分厚い本はいったい……」


 本の題名を読む。

「『封印の書』……? なにそれ……」


 嫌な予感もし、おそるおそる先ほどティッシュとして使ったページが何か、開いて確認する。


「えっとぉ……、『魔王ギルガの能力をここに封印する。そして人間の姿へと変貌させる』。ん?」


 やや強い、冷たい風がエナの髪を荒くなびかせる。

「そういえば……」

 室内にもかかわらず、やたら風通しが良いことに気づく。

 エナはそっときびすを返した。


「……!!」


 言葉を失った。

 視線の先には先ほどあったこの部屋の扉も、壁も存在しなかった。

 あるものは、あまりにも開放的な外の景色。


 家の半分が崩れていた。


「な……なんで!?」


 エナはそも崩れた箇所に這って行く。

 そして下を見下ろす。

 

「おお、いい景色……。どうしよう……」

 混乱し、狼狽しながら中途半端なことを口走る。


 しかし、少し薄暗い気がする。


 もちろんエナにも想像はついていた。

 ゆっくりと視線を上に上げていく。


「あーあ」

 やっちまったと思うエナ。


 謎に満ちた巨大な黒い体、冷酷な瞳、鋭い牙と角、そして背中から生える翼。

 そこには人間の姿の封印が解かれた、絶望的な魔王の姿があった。


「えーっと、こういうときは……」

 エナはスマホを取り出し、ネウロにLINEを送ることにする。


『そっちは大丈夫? こっちはちょっと大変です』

 送信。


* * *


 ちょうど休憩していたネウロのスマホに、エナからのメッセージが届いた。

『こっちはなんとか。どうしたの? なんか困ったことあった?』

 返信。


『困ってる! すぐ分かるはず』

 とエナから。


 溜息のネウロ。

「? こっちはお城の中なのに、分かるわけないよ。エナさんは何言ってるんだろう」


 そう呟きながら窓の外を見た。


「あっ……」


 遠くに巨大な物体。

 ネウロは全てを理解した。

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