第22話

 神峰島は今日も快晴だった。

 ただヒーロー協会のある東京は今日も雨らしい。

「大地、行こ」

 親父の改良した白いコスチュームから光の粒が生まれては消えていく。

 一年が過ぎて、白藤はまた少し大人っぽくなった。

「うん。行こうか」

「街に戻るのは一年振りくらいだね~」

「そうだね」

 最後に街へ行ったのは親父の研究室を鋼龍号に移した時だ。

 雫も白藤も本当なら街で学園生活を過ごして、おしゃれして、そんな日常を送っていたはずだった。

 それなのに現実は世間から隠れ、能力を鍛える日々に追われ、今に至る。

「後悔、してる?」

「してるって言ったら大地は何してくれるのかな~?」

 白藤がリボンを揺らしながら楽しそうに言ってくれた。

 バカだバカだと思いながらも俺はそのバカを繰り返す。

「大地は後悔してるの?」

「してない」

 白藤やお爺さんを巻き込んだ癖に言える自分には反吐が出る。

「異世界人にはこの世界からいなくなってもらう」

「私とお爺ちゃんを除いて」

「うん、そうだよ」

 他にもいい異世界人といえる存在はいるかもしれない。

 きっといる。だけど選んでいったら俺はまた足を止めてしまうだろう。

「……行こっか」

 ぱっと明るい顔を見せた白藤の腰には一年の修行を経ても抜けない桃道院白雪がある。

「うん、行こう」

 藪に隠れた隠し扉を開いて、滑り込めばもうそこは鋼龍号の中だ。

「生体認証完了。艦橋へとご案内します」

 部屋ごと移動する気配に白藤も初めは戸惑っていたが今はただ目を伏せ、黙すだけ。

「鋼龍号の守りを頼むよ」

「私も前線に出るよ。心配し過ぎだって」

「今の白藤なら重変身にだって負けないよ。だからこそみんなの帰る場所を守ってほしい」

「雫ちゃんもおじさんもいるんだから大丈夫だよ。それとも二人がそんなに心配?」

 白藤を心配しているんじゃなくて、二人を心配しているのか、そう訊かれたのはわかる。

 たぶん取り繕えば白藤はそれを受け入れてくれるだろう。でも。

「うん、ヴィランもヒーローもあの二人を狙うだろうからね」

「大地、私があの二人を人質に取ったらどうする?」

「許さないかな」

 きっと全力で殺しに行く。

 だけど白藤はそんなことはしないだろう。

 白藤も二人を気に入っているだろうし、白藤は性格上邪道を歩めない。

「ヴィランの芽を植えこまれたら?」

「引っこ抜くよ」

「間に合わなかったら?」

「親父に任せるしかないな」

「どうにも出来なかったら?」

「どうにか出来るようになるまでポッド行かな? ――戦うのが怖い?」

 かつて仲間だった勢力と、かつての仲間がいる勢力との戦いが。

 もっともヴィランに関しては仲間がいると思われる勢力だけど。

 俺が三人を爆殺した日以降、三人の姿形をした存在には会っていない。

「艦橋に着きました。出口は右側です」

 俺と白藤は左側へと足を進める。

「怖くないよ」


 鋼龍号は身体の大半を機械化された龍だ。

 異世界から迷い込み、死ぬ直前だったそいつをご先祖は手術したらしい。

 だからこいつもある意味で怪人と言える。

 全長50メートル、その体内に艦橋その他施設が存在している。


「来たか」

 親父は黒装一味の首領だったご先祖の服を着ていた。

 たぶん無駄にはなると思いつつ責任の所在を明確にしているのだろう。

「始めるぞ?」

 どこからも異論は起こらなかった。


 鋼龍号が地面を押し上げ、咆哮する。

 すぐに空へと飛翔し、その目が捉える光景が艦橋のメインモニターに映った。

 表面の鱗のいくつかが外れ、それが周囲に浮かぶ。

 その分宙に浮かぶ映像が艦橋内に増えた。

 親父は手元にある仮想パネルを何度か叩き、それから顔を上げる。

「目標神峰島、主砲発射」

 最後にもう一度パネルに触れ、ご先祖の作り出した暗号を口にした。

 はたから聞いていてもその意味はわからない。

 モニターに、三十六の水晶が鋼龍号の口から放出されたのが映る。

「綺麗だね」

 白藤の言う通り、それは日の光を反射し、輝いていて綺麗だ。

 だけどご先祖が見栄を張るか親父がミスをしていない限りそれは。

 水晶が神峰島の豊かな自然に触れたと思われた瞬間、大破壊を巻き起こした。

 瞬間的に木々が灰も残さないほど燃え尽き、その炎が他の水晶を巻き込みさらに大きくなる。

 空へと浮かんだ鋼龍号の、それも内部まで振動が伝わるほどのエネルギーが発生した。

 そしてこの日、神峰島は消滅した。

 これでまずは異世界人の持ち込んだ外来種が大幅に減ったこととなる。


「目標ヒーロー協会、全速前進」

 親父がそう告げると、鋼龍号は再び空を駆けた。


 この世界で唯一鋼龍号だけが空を飛んでいる。

 跳んでいるのではなく飛んでいる、だ。

 高度としては俺でも跳んで届くから無敵ではない。

 しかしそれでもそのアドバンテージは大きいだろう。

 地形も、そして透明化により接敵の心配もほぼなく、速度は俺が走るよりも速い。

「今日の鋼龍号は機嫌がいいみたいだね」

「そうだな。適性があるって言っても地中暮らしは性に合わないんだろ」

「長かったですからね~、ほとんど一年」

「無駄話はここまでだ。着くぞ」

 モニターに湾岸が映った。ヒーロー協会までは後数分といったところだろう。


 港を越え、山を一つ越え、そして映りこんだ。

 それは燃えるヒーロー協会だった。

「どういう、こと?」

「まずい、あそこには転移装置と冷凍刑になっているならお爺さんもいるかもしれない。親父、降ろしてくれ」

「落ち着け、まずは状況を把握する」

 パネルを叩く音のすぐ後で、テレビ放送のモニターが増えた。

「ハッハー。ヴィランと通じていたヒーロー協会最高評議会の議員は全て捕らえた。安心してほしい」

「発覚からのスピード解決、さすがMr.ジャスティスですね!」

 モニターの中では、Mr.が一年前と変わらない笑みで白い歯に光を浮かべていた。

「親父、複製体か?」

「Mr.の複製はまず無理だ」

 ならばProf.はMr.に一矢報いることなく敗れたということだ。

 それほどまでにブリリアント・ハートの効力は高いものなのだろうか。

「――行って来る」

「私も行くよ」

「いや、Mr.なら透明化している鋼龍号にすら気づいて来るかもしれない。白藤はここにいて。お爺さんは絶対に連れて帰る。だから、待っていて。親父、俺を降ろしたらすぐに転回、Mr.から距離を取ってくれ」

「了解」

 久しぶりに見る。早よ行けの手振りだ。

「大地!」

「白藤、早くしないとお爺さんを探す時間がなくなるんだ」

「……帰って来てね?」

 当たり前だ。そう肯くと、今度は雫の視線に気づく。

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 俺と雫はまだ昔の関係に戻れていない。

 親父が診てもまだ雫の記憶喪失の原因はわかっていない。

 そして雫は白藤に遠慮してか俺と積極的に会話をしようとはしてくれない。


 艦橋から続く階段を下ると白い球体がいくつも並んでいる。

 その一つに手を触れると身体がそれに沈み込む。

 全身が包まれれば後は自動で運ばれていく。

 運ばれる先は鋼龍号の尾の先端だ。そしてそこから射出される。

 弾丸のように射出された白い球体は鋼龍号の卵にも見えるだろう。


 着弾。

 それと同時に球体はゼリーのように弾け飛んだ。

 吹き飛ぶテレビクルーの悲鳴を耳に、目線はそれらを一瞬のうちに助け、他のヒーローに預けたMr.に。

「テレビクルーが現界人だったらどうするつもりだったのかね?」

「どちらにせよ今みたいにあなたが守りますから」

「ハッハー、頼りにされてるね。それで、一年振りだね大地君、変わりないかね?」

「ええ。あなたも?」

「うむ、変わりないよ。それにしてもまずはヴィランからだと思っていたがね」

「あの程度ならいつでも潰せますから」

 Mr.は俯いたが、その口は笑みに歪んでいる。

 ヴィランの芽を受けるような男ではないだろうが。


「最高評議会に手を下すとは思いませんでした」

「ヴィランの芽に蝕まれている証拠が出たからね。ディテクティブ・マンが命を賭けて掴み取ってくれた」

「ヴィランの芽を受けた覚えは?」

「私という土壌では育たんよ。それにもう一つ根拠がある。一度ヴィランの芽を克服した人間にヴィランの芽は利かないよ。だからこそ私は大地君の相手をせねばなるまい。あの日、君はヴィランの芽を受けたのだろう?」

 ヴィランの芽の影響を受けているのなら同情の余地、というか何か手立てがMr.にはあるというのだろうか。

 Mr.の眼は爛々と輝いていた。

 それはきっと何かを誤魔化そうとしている。

「酷い傷を負っていますね」

「何、君と戦うのに支障はないよ。まったくタダヒロも人が悪い。あんな切札を持っている何てな」

「ヒーローが変身しないまま力を蓄える。それも何年もだなんて普通しませんよね」

「ああ、今思えば片目を瞑って数年生活していたこともあったよ」

 随分と、らしい。そう思えた。

 俺が笑うと、Mr.も笑う。


「お爺さんと転移装置を頂きに行きます」

「タダヒロは君を気に入っていた。君の馬鹿げた計画も手伝ってしまうかもしれない。だから渡せない。転移装置もあれはもうない方がいい。異世界人はもう現界人なのだ。だからあちらも渡せない」

「異世界人は異世界人ですよ。今もほら、あなたはヒーロー協会を燃やした」

「燃えたのだよ。タダヒロ、転移装置の件もあるから鎮火をしようとはしないが」

 価値観の違いを指摘してやるつもりはない。Mr.が見落としている問題を教えてやるつもりも湧かなかった。

「お互い、わかりあえませんね」

「私と君はね。これで異世界人と現界人はわかりあえないとするのは些か傲慢が過ぎるのでは?」

 正論だ。わかっている。

 きっと俺が白藤たちに対して情があるように、誰かも異世界人に対して情があるだろう。

「時間がありません。行きます」

「タダヒロと装置を救いにかね? 行かせんよ」

 なら取るべき手段は一つだ。

「凝着。この身は怪しき者なり」

「百五十年前の続きをしよう。輝け、ブリリアント・ハート!」


 ブリリアント・ハートの起動と共にMr.の圧が大気を揺らす。

 きっと手加減している余裕はなく、お爺さんを救出する時間的な問題もある。

 背部からは念動機雷、腕からは縄。肩と腰からドリル付連節剣、足からは伝導。

「まさか怪人六将全ての力を使えるのかね? やはりすごいな君は!」

 念動機雷は腕を振るった衝撃波で誘爆させられる。

 縄は巻き付いた先から膂力で引き千切られた。

 ドリル付連節剣は接続部分を手刀で断たれる。

 雷撃は気合一閃で散った。

「あなた程じゃありませんよ」

 拳が迫れば遅れて突風が吹く。

 右の拳を避けた先から左の拳が追う。

 蹴りを防げば押し込まれた方向へ転がる。そうでなければ怪人化したスーツですら砕けそうだ。


「強いね」

「あなたこそ」

 まさかここまで強いとは思わなかった。

 引き分けに持ち込めると調子づいていた過去の自分を殴ってやりたい気分だ。

「百五十年前に怪人たちと戦っていてよかった」

「たとえ今回が初めてでも対処したでしょう?」

「それはそうだよ。私はヒーローだからね」

 Mr.の知らない、俺だけの武器を出し惜しみしている余裕はなくなった。

「俺にとってはヒーローじゃなかった」

「そうだな。あの時私は君たちを見捨てろと指示した。無論謝るつもりも悔いるつもりもないがね」

 あの時のMr.の判断は皆のヒーローとしては正しかったと理解している。

 俺たち二人を助ける間にヴィラン帝が何人殺すか、そう考えればMr.としては俺たちを見捨てるしかなかった。レディ・ジャスティスの独断を許しただけでもMr.にとっては失策という思いだろう。

「皆のヒーローとしてはそれでいいと思います」

「大地君、君は救われなかったことでヒーローを恨んでいるのか?」

 そんなつまらない感情なんかじゃないはずだ。

「レディ・ジャスティスが救ってくれました」

 俺も雫も、レディ・ジャスティスがいなければ死んでいた。

「では私個人に対し?」

「いえ、わかっていますから。あなたは百人を救うため、一人を見殺しにする。それが間違っているとも思えません。俺はただ、事の発端を生んだ異世界人の存在を許すつもりがないだけです」

「この世に悪が栄えていなければ私たちは要らなかった」

「違います。悪が栄えていても自浄作用さえ生めばそれでいいんです」

「それが、私たちだ!」

 二メートルは超える大男が信じられない速度で眼前まで来る。

「あなたたちは劇薬だ。百五十年前の現界人たちは自浄を怠って薬に頼ったに過ぎない!」

 左右の手の装束が焼け落ちる。そこから生じたのは双剣だ。

 Mr.の振り出した腕を左右から挟み込み、切断。

「……サイコブレードか。それも私の腕を断つことが出来るほどの。それほどまでの技術・精神力を持ち、何故道を誤った」

「間違っていません」

 Mr.は落ちた腕を拾い、切断面を合わせた。

 寒気がして左右の剣を走らせたその瞬間。

「ハッハー! 勝つぞぉぉぉぉぉぉ!!」

 Mr.の周囲の大気どころか大地が揺れる。

 そして本人は金色に輝き、落ちた腕はくっ付いた。

「私はヒーローだ大地君。必ず勝って皆の前に立たなければならない」


 さっきよりも強くなっただろう。

 その目が、体躯が、金色に可視化された力がそれを物語る。

「それでも俺は負けません」

「いや、勝とうとしない君では私を倒すことなどできはしない」

 残像が残る速度でMr.の拳が、肘が、膝が、足が攻め寄ってくる。

 白藤とお爺さんとの修行がなかったら絶対に避けられなかっただろう。

「よい眼だ! しかし君たちのように私にも切札があると思わなかったかね!」

 ハッタリだ。切札はブリリアント・ハートのはずだ。

「これが数多の異世界で勝利を引き寄せた私の剣だ!」

 背筋に冷や汗が流れた。

 その瞬間後ろに下がろうとし。

『漫然と引くでないわ!』

 お爺さんの声が聞こえた気がした。

「ジャぁぁスティスぅぅ、ブレぇぇぇぇドぉぉ!」

 Mr.のサイコブレードだ。

 俺みたいに装束の補助もないだろうに、それは本当に感じられた。

 可視化されている精神エネルギーも剣の形状を取り、それがハッタリ何かじゃないと証明する。


 距離を取るのではなく詰めた俺の背後数十メートルで、ヒーロー協会は、二階部分が消滅し、上階が一階を巻き込みながら垂直に崩れていく。

 Mr.の胸に俺のサイコブレードと拳が触れる。

 じんわりと血が流れ、俺の拳を濡らす。

「これが俺の切札です。我願うは青空なり、我望むは晴天なり」

 装束が光の粒になる。

 残ったスーツが砕けた。

 そして、拳の先からそれらを維持していた全エネルギーが放出される。

 Mr.の胸を、背中を突き抜け、空へと勢いを落とす暇もなく走った。

 雨雲が霧散し、あとには青空が残る。


 俺もMr.も同時に膝を着いた。

「ハッハー。タダヒロと同じところを撃ちおって」

 額は喀血の衝撃を感じとり、耳は背後の地面に吐かれた血の音を捉えた。

 余力を残している暇はなかった。全身が怠く、今は動けない。

「だが、残念だったね大地君。私の、勝ちだ」

 Mr.が立ち上がり、俺は地面に崩れる。

「まだ動けるんですか」

「必ず勝つと、そう言った。もっとも、君の切札が私の右胸に撃たれていたらまずかったがね。左は既にタダヒロに潰されていたよ」

 ブリリアント・ハートが右胸でMr.を生かしていたのか。

 それに思い当たっても俺はもう指一本動かない。

「神衣憑依」

 口にしたのと同時に、拳の拉げる音が響いた。

「忘れていたよ」

 それから隔絶が一瞬にして消えたのがわかった。

 きっと例の眼だろう。

 いったいいくつの力をMr.は持っているのだろうか。


「君の、負けだ」

 負ける訳にはいかない。

 死ぬ訳にもいかない。

 多くを巻き込んで、多くを殺した俺がこんなところで諦める訳にはいかない。

 力の入らない全身を起こそうとするが震えるだけで実にはならなかった。

「さらば――むう」

 誰かが仰向けにしてくれた。

 その視界いっぱいに雫がいる。

「大丈夫?」

 視線をずらせば白雪をMr.の腕に触れさせた白藤。

 Mr.の腕に連節剣を巻きつけた親父。


「大地は殺させません」

「悪いな、Mr.ジャスティス。親バカなんでね」

「第二ラウンドは、君たちにとって分が悪いぞ?」

 皆ではMr.には敵わない。

 見る間にやられてしまうだろう。

「ごめんね、白ちゃん。それから大ちゃん、皆を守ってね」

 何を言っているんだ。そう問う前に、雫はその唇を俺のと合わせる。

……大ちゃん?

 疑問と共に身体の中から大切な物を失う、そんな喪失感が生まれた。


 口づけをしてきた雫はそのまま俺へと倒れ込んだ。

 身体に起こった異変は二つ。

 一つは怠さがなくなった。

 二つ目は、俺が着ていた雫の装束がなくなり、そして自分の中に確かにあった暖かな力も消えた。

 怠さがなくなった理由はわからない。雫が治癒系の能力を持っているとは思えない。

 暖かな力がなくなった結果はきっと、俺がそうしようと思っていたことをもたらしてくれたはずだ。


「白藤、お爺さんのところへ」

「大地――?」

 即座にMr.と白藤の間に立った。

 そのままサイコブレードを発する直前だったMr.の腕にしがみ付く。

「ハッハー。無茶をするね」

「油断も隙もないですね」

 しがみ付いた両腕がそれだけで痛んだ。

「凝着」

「どんなトリックだい?」

 Mr.の声に、初めて焦りが滲む。

「この身は怪しき者なり」

 スーツが変形し、装束となる。

「第二ラウンドに入らせてもらいます。親父、雫を頼む」

「あいよ」

 恵まれていると思う。

 皆俺を信じてくれて、失敗をしたらフォローもしてくれる。

 それでいて俺をもう一度信じてくれる。

 親父は雫を抱き抱え、透明化した。きっと鋼龍号まで戻ってくれるはずだ。

 白藤は崩れたヒーロー協会を目指し駆けている。

「失敗したかな」

「どうですかね。切札はもう使ってしまいましたし」

「わかっているだろうに。案外性格が悪いのだね、君は」

「純朴さはあの日に置いてきました」

「あの日の君たちには千人分の命の価値があったかもしれないね」

「それでもあなたは千人を助けますよ」

「違いない」

 Mr.はもうほとんど体力を残していない。

 反対に俺はかなりの体力が戻っている。

「ピンチだね」

 きっとMr.を倒したいのなら今日この場を置いて他にはないだろう。

 だから来るかもしれないとは薄々思っていた。


「お久しぶりですお爺様。もっとも以前よりは間隔が短いですが」

 リ・ジャスティスは純白のコスチュームを翻している。

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