第21話

「お帰り、大地。皆は――」

 身内に嘘を吐くつもりはない。

 だから俺は黙って首を振ろう。

「そっか……そっかあ……」

 きっと白藤は俺が楽しんだよりもヒーロー学年での生活を楽しんでいたはずだ。

 だから恨まれたり憎まれたりされるかもしれない。

 それは少し嫌だけれど、受け入れる覚悟はある。

「大地が助けられないって判断してそうしたんだから、私はこれ以上大地に何か言わないよ」

 泣くと思った。だけど白藤は笑顔を作って見せてくれる。

「皆、ヴィランに利用されるよりは。って考えてたと思うよ。皆を助けてくれてありがとね、大地」

「そうなのかな?」

 違うと思う。俺はあいつらを助けるつもりも助けたつもりもない。

 それにあいつらだって救われた気もしないだろう。

 救う人間はいつだって奪ったり諦めたりしない、そういうものなはずだ。

「どうかな? ごめんね、適当言った。でもさ、私はそうだといいなって思う」

「白藤は俺を良くし過ぎだよ」

「ウザいかな? ごめんね、でも私はこういう、その、ごにょごにょしか出来ないから」

 なんだごにょごにょって。そう訊きたくなる気持ちもある。

 でも何となくわかってしまった気がして気恥ずかしいし、それにおんぶにだっこされちゃいけないほど俺はきっと多くの悪さをしてきた。

「もっと責められた方が気は楽だよ」

「気は楽かもしれないけど、責められた事実は残るよ」

「どういうこ――」


「そこで訊いちゃうのが大地の悪いところだな」

「うひゃあ! お、おじさん、いつから?」

「わりと最初からかな。内緒話をするにはここは狭いぜ」

 白藤は耳まで真赤にして親父がやって来た奥へと姿を消す。

「そこは今来たところで良かったんじゃないかな?」

「俺は別に優しい男を目指してる訳じゃないからな。本題に入るか、リ・ジャスティスは現れなかったってことはたぶん何かあるな。きっと重変身したあの三人がヴィランのまともな戦力だったろう。使い捨てるつもりはないはずだ」

 それには全面同意だ。

 重変身は変身前とはいえProf.の刀を止めた実績がある。

 戦力としては七柱よりも上だったはずだ。

「七柱の上の重変身、さらにその上が出来たんじゃないかな」

「Aランクヒーローにヴィランの芽を植えておいてあの三人だけが重変身出来た。そう考えるとその確率は低い。まあつまりだ。たぶんあの三人がいなくなってもどうにかできる算段があるんだろ」

「だからそれ以上の戦力って話じゃないの?」

「なくはないが限りなく低い。そんな簡単にポンポン強くする手段があれば今頃Mr.だって引退済みだ。お前は感覚が麻痺してるだろうけど元来強くなるってのは大変なことなんだよ。外科的手術をちょちょいとしたら強くなりましたってのは想像以上にファンタジーだぜ?」

 ファンタジー全盛といってもいいこの世の中であってもとりわけということだろう。

 親父がこうも言うということは真実と見ていいはずだ。

「じゃあ、どういうつもりだろう」

「たぶん複製体、だろうな。そのうちマサト君隊とかがやってくるぜ」

 それはなんというか、気持ちが悪い。

「まあとりあえずそこいらの対処も考えるか。それで大地、俺はこの遺跡の改修に半年はかかる。飛ぶだけなら、透明化機能だけなら二、三日でできる。ただ新設備や装備も導入したいからな、研究所も持ち込みたいし」

「半年……」

 もしも生きていればMr.はブリリアント・ハートがより馴染むだろう。

 そしてお爺さんが冷凍刑になっているということは捕まえたヒーローがいる。それはMr.以外に考えにくい。

 ヴィランはより深く謀略を巡らせるだろう。

「お前の心配はわかる。今すぐヴィランを滅ぼして、Mr.を倒す。それが今なら何とか可能だと、そう思ってるんだろ?」

「できないと思う?」

「できるかもな。ただ、お前が戦ってる間雫ちゃんと白藤ちゃんはどうするつもりだ? 俺はいい。だけど二人を死なせるつもりか?」

「そっか。ありがとう親父、でもその問題クリアできるのか?」

「俺を誰だと思っていやがる。まあ、諸々で一年だな。お前も協力しろよ?」

 もちろんだ。


――そして短い一年が過ぎる。

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