第7話
Mr.ジャスティスと共にヒーロー学園まで帰還した俺たちは、辿り着いたその場から、全員Dr.ジャスティスの治療室へと運び込まれた。
道中目にしたヒーロー学園は半壊していた。今でこそ火は消し止められているようだが、かなりの勢いで火が回っていたこともわかる。少なからず死傷者もいるだろう。
「大地君、話を聞かせてもらえるか?」
「何から話しましょうか、Dr.」
Dr.ジャスティス。マッチ棒のようにひょろいその身体はまるで白衣に着られているようだ。
しかし、この男がレディ・ジャスティス亡き今、ヒーローの治療を担当する第一人者だ。
「Mr.はいい。話は届いている。生徒を人質に取られ、毒を呷れと脅迫された結果だ。見たことも聞いたこともない強力な毒だがMr.の身体は既に大半を解毒している」
「よかったです」
「うん。同じ毒は聞かないだろうしむしろMr.はより強くなったとも言えよう」
医者として最高峰にいる男が見聞きしたことのない猛毒すら効かなくなった。
やはり純粋な戦闘力で彼を越えることでしか、彼とは戦えないだろう。
「マサト、華、白藤の三人が揃えばAランクヴィランにも遅れは取らないと思ったのだが」
「変身前でしたので無理もないです。相手はSランクヴィランでしたから」
「……よく無事だったな。ああ、すまん。喜ばしいと思っている。勘違いしないでくれ」
もう慣れたものだ。雫の声を聞けなくなったあの日から、信じられないと奇異の目で見られ続けている。
「それよりもみんなの容体は?」
「マサトはもう二度と変身出来ないだろう。変身機構がだいぶ傷ついている。あれは治る物ではない。失えばそこまでだ」
厄介者が一人減った。とは思えなかった。
あの時合流しておけばと思っているのだろうか。自分のことながら、はっきりとはわからない。
「みか、がみは」
あいつはこのことを耳にしたのだろうか。
「あいつには鎮静剤を打った。あれ以上暴れられても困る。あいつは出来れば学園を止めるべきだ。このままいけば復讐の権化、ダークヒーローに堕ちる可能性が高い」
ヒーローにあってヒーローにあるまじき者の代名詞だ。
水鏡は生まれた時からマサトと一緒にいて、その影響でヒーローを目指すようになったといつか聞いたことがある。
「あとの二人は?」
「タフだな、もう聞きたくないと耳を塞ぐかと思ったが。そうだな、お前は特別優秀だ」
「いえ、ヒーローを目指す者なら当然です」
見たくない物を目にしたくないなら、聞きたくない物を耳にしたくないのなら、目を瞑り、耳を塞いで一生を過ごせばいい。
「華は四肢を粉砕されている。ポッドに入れて一カ月程度もすれば治るだろう。白藤に関してだが、外傷は一番浅い。最も深い傷が声帯の損傷で、他は擦過傷程度だ。三日もすれば治る」
「外傷は、ですか」
「うん。どうやら拘束された後マサトや華がやられるのを見せられていたらしい。そのヴィランはまるで楽しみながら二人を痛めつけていたそうだ」
もう少し痛めつけてやってもよかったかもしれない。全ての攻撃を無効化して見せ、その程度かと笑ってやればよかったかもしれなかった。
「それで聞きたい話とは?」
「うん。何か異変を感じなかったか?」
「言っている意味がよくわかりません」
癖だ。質問の意図を掴み損ねる時は余計なことは言わない。
「そうだな、誰かがどこかに連絡する素振りはなかったか?」
「いえ、俺はマサトと一度合流して別れた後に水鏡と会い、それからヴィランに襲われましたがその間に何か特別なことがあったとは気付きませんでした」
「そうか。すまんな、漠然とした質問をして。実はな、今日お前たちが種のるつぼに送られたのを知っているのはクレイ・マンとMr.くらいでな」
理解した。クレイ・マンは今回の俺たちを救出しているし、古くからのヒーローだ。
「つまり俺たちの中にヴィランへ俺たちが種のるつぼにいると、そう伝えた者がいると学園側は疑っている。ということですね?」
「察しがよくて助かる」
俺が最も疑われているだろう。何せSランクヴィラン相手に無傷だ。誰であろうと疑うはずだ。
「俺たちの中にヴィランに通じている奴はいないと思いますよ」
俺はヴィランと通じていない。なら残る候補は四人だがその誰もが傷ついている。
「うん。私もそうだといいと思っている。何せ君たちの中から次代のMr.ジャスティスが生まれることはもう決まっていることだからな」
Mr.の活躍を目の当たりにしているプロヒーローは皆その名を継ぐことに臆した。
だからこそ俺たちヒーロー候補生如きに白羽の矢が立つ。
もっとも名を継いだところでついて来る者は皆無だろう。
「一人逃げたのだろう? 気をつけたまえ。君だけが入院をしていないのだから」
「はい、ありがとうございます」
大丈夫。襲われる心配何て微塵もない。
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