第5話

 ヒーロー学園後継者クラス。

 今日も教壇にMr.ジャスティスが姿を現す。

 全身から陽の気が溢れ出ていて多少鬱陶しさを持つ。

「ハッハー! 元気かね、諸君……うむ、元気そうだ。元気な内に出かけようか!」

「どういうことですか? Mr.」

 水鏡は眼鏡のフレームを押し上げつつ問うた。

「君たちは私の後を継ぎたいのだろう?」

「それはもちろん、そうですが」

「賢しいことはヒーロー協会の役員共にでも任せておきたまえ!」

「いいこと言うぜ爺さん! そうだよな、ヒーローは敵をぶっ倒すのが仕事だよな!」

 とりあえずマサトはMr.が実は知識階級としても高名なのを勉強し直すべきだろう。

 その親近感は錯覚だ。


「おい爺。もっとわかりやすく言えよ」

「華君、もう少しお淑やかな物言いをしてくれないかね? 私はこれでも学園長で、生徒の進退は私の胸三寸なのだよ!?」

「でも、実際意味がわからなかったですよ?」

 二人は女性だからかMr.に対する憧れが薄く、常にこんな感じだ。

「女性陣は手厳しいな。大地君、君には伝わっただろう?」

 その歯の輝きに思わず目を細めてしまう。

「実習室で実戦訓練という意味合いでは?」

「惜しい!」

 惜しいと言われてもヒントがなさ過ぎた。

 幸い落胆される様子はなく、話は進む。


「君たちにはこれから一週間、種のるつぼでサバイバル生活をして貰おうと思う」

「……よろしいですか?」

「何だい水鏡君、臆したかね?」

「野営の準備など、一切していないのですが」

「何か問題が?」

 サバイバルと言った。準備をさせる訳がない。

 ただこのメンバーの中でサバイバルに耐えられないような低レベルの者はおらず、その目的はわからない。


「よいかね、準備など健康な肉体一つで事足りる。君たちの手は何だね? そう、ナイフだ、盾だ、剣だ」

「いいこと言うぜ爺さん! そうだよな、ヒーローの肉体は皆を守るための剣と盾だぜ!」

 ナイフはどこへいったのか。

 そしてそれを認めるのならヒーローは便利な道具とも言えるという皮肉にもなるだろう。実際のところ、Mr.ジャスティスは自身をそう扱っているように思えるところもある。

 そして使用者は弱者ということになるのだろう。

「いいぞマサト君。それではまずは君からだ」

 突然マサトが足元に生まれた黒い泥に沈み込んでいく。

 底なし沼に沈むというよりかは水田に足を踏み入れたような滑稽さだ。

「な、なんじゃこりゃぁぁぁ」

 突き上げた手が最後に飲み込まれ、マサトは完全に姿を消した。


「Bランクヒーロー、クレイ・マンでしたか?」

「うむ、博識だな水鏡君。案ずることはないぞ諸君、彼の能力による転移は確実だ」

 次に水鏡の足下に黒い泥が生まれた。

「纏めて送ればいいんじゃねえの?」

「あえて島に散らばせようとしているんじゃないかな」

「ハッハー! その通りだよ大地君。チームで生き残るのは構わん。だが始めからチームというのも味気ないだろう、頑張ってくれたまえ!」


 水鏡が沈みきると、続けて華、白藤の順に転移されていく。

「監視役は付くんですか?」

「付かんよ。君たちレベルの生徒にそれは失礼だろう?」

「Sランクヴィランや怪人が現れたらどうすれば?」

「ハッハー! Aランクヴィランなら問題にならないという君の自信は素晴らしいな。ふむ、それで怪人が出たとしたらか。是非、あの時の約束を守ってくれたまえ」

 Mr.ジャスティスの立てた親指を見送りながら、俺の視界は黒に染まった。

 怪人が出てくることは百パーセントないと知りながら。

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