第4話

 親父の研究室が暗いのは夜の帳につつまれているからだけじゃない。

 ほの暗い念が籠っているからだろう。

「親父、デスサイズスの四天王って知ってる?」

「ああ、Aランクヴィランだな。それがどうかしたか?」

「あれでAランクなのか……これ、そいつのダスト・ハート。ここ置いとく」

「ああ」

 親父の手元でマッチの灯りが点いた。鈍く光る臓物がわずかに照らされる。

 煙を吐き出し、その行方を親父は見届けている。

「それから白藤の細白雪も弾いたよ」

「そうか。……ケガはないか?」

「うん、無傷だ。凄いな、ご先祖たち」

 タバコ落ちるぞ。身振りで教えてやると親父は頭を掻いた。

「……すげえのはお前だよ」

 そんなことはない。ご先祖たちの遺した怪人作成手術書とそれを改良した親父こそが立役者だ。

 俺は無我夢中で身体を鍛えただけだった。

「普通なら、お前はもう何回も死んでる」

「技術の進歩だな」

「……思い出すよ、十歳のお前がヴィランの亡骸持って来たあの日をさ」

「覚えてるよ、あそこから親父は凝着の技術を手に入れた」

「止めよう、気持ち悪いだろ」

 認め合う者同士褒め合うことに問題があるようには思えなかったが、嫌がる相手に続けることもなかった。

「でもまだMr.には手を出すなよ?」

「うん、わかってる。あの人は別格だ」

 何せ俺たちの一族はあの人に一度やられている。

 それに対峙すればわかる。他のどんなヒーローやヴィランよりもあの人は強い。

 拳を振れば雲すら散らすことができる。

「ゴールは決まっているから大丈夫、俺がジャスティスになるまでの我慢だから」

 Mr.ジャスティスが持つ特別な変身機構、ブリリアント・ハート。

 あれさえ手に入れば俺たちが遅れを取ることはなくなるだろう。


 その日が俺の本懐を遂げる時だ。

 俺は必ず後継者に選ばれジャスティスの称号を、ブリリアント・ハートを受け継がなければならない。

 大丈夫だ。偽り続ける。卒業まではヒーローという名の汚物に塗れてやるさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る